10月革命の鬨
第161話 戦間期
在日米軍の介入により、反乱軍は各地で降伏し、政変は三日天下と終わった。
———
『―――出て来ました! 反乱軍の総司令官、村上幕僚長です! 今、投降しました!』
———
2022年2月28日。
日本全土を大混乱に陥らせた政変は一気に終わり、残っていた反乱軍は、占領地域を順次、解放。
与党・旭日党の伊藤首相は、永田町の
———
『自衛隊と在日米軍の共同作戦により、
支持者達は、
・日章旗
・旭日旗
・星条旗
の3種類の旗を大漁旗の様に振る。
言い方が悪いが、今回、軍事作戦で自衛隊は殆ど貢献していない。
在日米軍に追従しただけで、貢献度と言えば1割くらいだ。
それでも、さも5割の様に大袈裟に言うのは、情報操作に他ならない。
口が裂けても言わないが、今回の政変は、旭日党にとっても渡りに船であった。
何故なら反乱軍が襲った場所の多くが、目の上のたん瘤であった左派の新聞社等であったから。
哀悼の意を表しつつ、裏では「ざまーみろ」と笑っている与党議員は、多い事だろう。
問題は、左派政党がこれを弔い合戦に政治利用する事だ。
弔い選挙は、成功例が多々ある。
・昭和35(1960)年 衆議院選挙→浅沼稲次郎暗殺事件後の社会党
・昭和55(1980)年 両院選挙 →大平正芳首相急死後の自民党
この他、現職の国会議員が亡くなった後、その親族又は、同じ党の候補者が立候補して、当選に至った例もある。
4月に国民投票を控えている為、無党派層が左派政党に同情し、反対票を入れる可能性が少なからずある為、伊藤はその辺の所を心配していた。
然し、それは杞憂に終わるかもしれない。
「「「MJGA! MJGA! MJGA!」」」
事務所前に集まった数万人規模の群衆が、論より証拠だ。
9・11後の大統領の様に、支持率が高くなっている事を、伊藤は肌身で感じていた。
軽傷なのだが、大袈裟に包帯を巻いているのも印象操作に一役買っているかもしれない。
マイクを使って冗談を飛ばす。
『褒めても何も出ませんよ?』
ドッと、笑いが漏れた。
こうなれば、伊藤の独壇場だ。
笑顔から一転、真面目な顔で、
『今回の事件は大東亜戦争以来、我が国最大の危機でありました。ですが、我が国は軍国主義を跳ね除け、再び民主主義を勝ち得たのです』
「「「おおおおおお!」」」
群衆は、沸きに沸いている。
2月というのに40度もありそうだ。
こうなれば、どんなに面白く無いボケでも、笑いになるだろう。
それくらい、会場は温まっていた。
伊藤は、続ける。
『国民の皆様に御願いが御座います。どうか、反乱軍の一兵卒には、慈悲を頂けないでしょうか?』
途端、シーンと会場は静まり返る。
滑っているのではない。
皆、聴き入っているのだ。
『御存知の様に、軍隊は、上意下達の組織です。上の方針に二等兵は逆らえないのです。罪は罪ではありますが、悪いのは、武力行使を決定した上の者であって、下の者は何ら悪くはありません。その事は重々承知の上で、反乱に関わった将校の御家族への嫌がらせ等はお止め下さい。反乱は終わったのです。これからは、寛大に御願いします』
涙を流し、頭を下げた。
数瞬後、言葉が届いたのか、会場は万雷の拍手に包まれる。
一国の首相が人質になった後、傷だらけの姿で国民の前に現れ、恥を忍んで泣き、寛大な所を見せたのだ。
より一層、国民の心を惹き付けた事は言うまでもない。
その後に行われた世論調査により、伊藤の支持率はそれまで平均60%台であったのに対し、今回は異例の95%。
統計開始以来、歴代首相の中で最高の支持率を叩き出したのだ。
独裁国家並の高い数値を民主主義国家で出すのは、ほぼ不可能な話だろう。
左派政党に同情票が集まる前に、無党派層の心もがっちりと引き寄せる巧みな伊藤であった。
一方、その頃、我が家では、
「ふぅ……こんなものか」
俺は、タオルで汗を拭う。
住処として買い取った古民家の大掃除は、1日がかりで終わった。
業者を呼んで、白蟻等の害虫の駆除から始まり、草刈りや傷んだ壁の張替え等である。
「パパ、御疲れ様♡」
シャロンが、スポーツドリンクを渡す。
冷えていて、ペットボトルに触れるだけで気持ち良い。
夏の高校球児になった気分だ。
「風呂入りたい」
「皆、入っているよ」
「早いな」
「パパが糞真面目だからね」
「糞は余計だよ」
シャロンの手を握り、俺達は風呂場へ向かう。
古民家なので、お風呂は時代劇でしか観た事が無い五右衛門風呂だ。
古い為、外見だけそのままで、中身は現代式に
これ以外に大型のユニットバスを
汲み取り式便所も、そのままでは、使い辛く不衛生の為、日本が世界に誇るトイレ製造業者の洋式トイレを導入。
キャビネット付きトイレに様変わりしたそれは、女性陣に好評だ。
着替えを用意し、風呂場の扉を開けると、
「おお……」
自然と声が漏れた。
銭湯のような大浴場。
そこに、
・司
・オリビア
・皐月
・ライカ
・スヴェン
・エレーナ
・シャルロット
と、名だたる美人が勢揃いしていたから。
七つの肢体は、湯気によって大事な部分が隠れている。
然し、それがより一層、扇情的だ。
深夜アニメでよくある謎の光のようだが、見えないのもまた、一興である。
若し、俺が学者なら、チラリズムの有効性を論文にしていただろう。
「たっ君♡」
「勇者様♡」
「煉♡」
「少佐♡」
「師匠♡」
「貴方♡」
「旦那様♡」
七等分の花嫁は、俺を誘う。
「……」
鼻血を垂らしながら、俺は吸い込まれる様に引き寄せられるのであった。
7人とシャロン、合計8人の美女&美少女に囲まれつつ、俺は入浴していた。
(極楽とはこの事だな)
これなら酒を1杯引っかけたい気分だが、下戸なのでしない。
それに酒は、健康上、良くない。
トイレも近くなるし、何より嘔吐した時の処理が大変だ。
「師匠♡」
「ああ、有難う」
御盆に載せた御茶をスヴェンが配って回る。
「たっ君、もうすぐだね?」
「もうすぐ? ……ああ、そうだな」
もうすぐ4月1日。
民法改正により、男女の結婚出来る年齢が18歳になる歴史的な日だ。
この日、数多くのカップルが市役所に婚姻届けを提出しに行くだろう。
それを取材するテレビ局も容易に想像出来る。
俺達は、それほど目立ちたくない為、取材があっても拒否する方針だ。
一応、トランシルバニア王国では、オリビアと夫婦にあるが、4月1日以降は、司とも夫婦になる為、事実上、重婚になる。
「今更だけど……たっ君大好きだからね?」
「分かってるよ」
司は、俺の肩に爪を立てる。
皮膚に食い込み、見る見る内に赤くなっていく。
「何?」
「大事にしてね?」
「そのつもりだよ」
司、初めての結婚だ。
所謂、『マリッジブルー』に陥っているのかもしれない。
その主な症状と原因、対策は、以下の通り。
———
『[症状]
①落ち込む・不安を感じる
②イライラする
③食欲がない
④不眠になる
[原因]
①今後の生活への不安
②相手の家族への不安
③相手への不安・不満
④結婚式準備のストレス
⑤結婚生活への金銭的プレッシャー
[改善方法]
①相手に正直に話す
②何が原因かを特定する
③楽しいことを計画したり、思い出す
④気分転換を取り入れる
⑤結婚を考え直してみる』(*2)
———
北大路病院にもマリッジブルーに陥った男性や女性が来ることがある為、全然珍しくは無い。
それが長引けば、適応障害の可能性も考えられる(*3)。
なので、決して安易に考えてはいけないのだ。
シャルロットが、司の肩を抱く。
「そんなに結婚が不安なの?」
女性陣の中では、最近まで結婚生活を送っていただけあって、司の不安な気持ちは重々分かる。
「うん……」
「私は、失敗したけどね。成功出来る格言を一つ教えてあげる」
「格言?」
「うん。サミュエル・ジョンソンって分かる?」
「イギリスの詩人だよね? 《文壇の大御所》とか《
「流石、才媛ね」
歳はそれ程変わらないが、娘のようにその頭を撫でる。
「その人の言葉よ―――『結婚には多くの苦痛があるが、独身には喜びがない』」(*4)
「!」
現代では独身も選択肢の一つであるが、《文壇の大御所》だけあって、その言葉には、重みがある。
「旦那様、若しもの時は―――」
「ああ、分かってるよ」
俺は、司を抱き寄せて、
「若し、不安があるなら、延期でも良いよ」
「……たっ君?」
「1番は、司の健康状態だ。極論、結婚は二の次だ」
「……」
オリビアが、司の手を握る。
「司様、焦ってはいけませんよ? 何事もゆっくりが肝心なのですから」
「……うん、そうだね」
焦り過ぎると何もかも中々、上手く行かない。
オリビアと籍を入れた以上、バランスを取る為に司とも早く入籍したいのだが、彼女がマリッジブルーならば、延期も致し方ないだろう。
「司」
プロが口を挟む。
「焦りは禁物よ。これは、医者として言うわ」
「……うん。たっ君、御免ね? こんな状態で」
「全然」
人間は、慣れないものに恐怖心を抱く生き物だ。
江戸時代、約300年もの間、外国人を見慣れていなかった日本人の多くは彼等に恐怖し、ペリーに関しては、人外な肖像画が残されている。
司をオリビア、皐月、シャルロットが囲み、悩み相談が始まった。
私的なことなので、俺が聞くここともない。
離れて隅っこに移動すると、
「少佐♡」
「師匠♡」
「貴方♡」
ライカ、スヴェン、エレーナが金魚の糞のようについてきた。
「うん?」
「「「御背中お流しますね?」」」
3人は、ラブローションが詰まったボトルを見せる。
「……ローションプレイ?」
「正解です」
スヴェンは、嬉しそうにボトルの瓶を外し、俺の体に垂らす。
「……熱いな」
「モサドが捕まえた女性工作員に対して行う媚薬ですから」
「……」
ライカとエレーナは、左右でがっちり俺の手を拘束している。
その為、俺は、スヴェンに全身を使って、体に塗られていく。
胸部や腰部等は重点的にだ。
「……」
全身が熱を帯びていく。
俺を見降ろしていたシャロンの顔が、強張る。
「パパ、それって……」
「多分な。媚薬だろう」
媚薬を塗りたくなられたことにより、俺の体から不可視の男性ホルモンが、外に出て来た様だ。
彼等は、標的と見定めてた女性陣の鼻腔に突撃。
「きゃは♡」
ライカが甘い声を出した後、床に倒れた。
目は、とろんとしており、涎も止まらない。
他の女性陣も同じく。
「……スヴェン、これは?」
「天国ですよ」
そう言って、スヴェンは、俺の腹部に跨り、抱き締めた。
触発されたのか、ライカも俺の指を舐めだす。
エレーナも逆の手を舐め、これが異常事態であることが判ったのは、この数瞬後であった。
「パパ♡」
「おい、お前、まさか……」
「御免。好きだから」
シャロンは、俺の頭に跨り、視界を0にした。
抵抗したい所だが、モサドの発明品らしく、俺自身の体が動かす事は出来ない。
俺は抵抗を諦め、宣言した。
「全員来いよ。相手にしてやる」
「「「「!」」」」
その言葉を待っていたかのように、4人は一斉に離れ、今か今かと俺との愛を期待しているようだ。
「
「「「「はい!」」」」
4人は、子供の様に返事をするのであった。
[参考文献・出典]
*1:~アレって何て数える?を解決~数え方単位辞典
*2:みんなのウエディング HP 2020年2月20日 一部改定
マリッジブルーってどんな症状?原因と対策を知って乗り越えよう!
*3:BRAIN CLINIC HP
マリッジブルーが長引く人は適応障害かも?症状と原因、治療法について
*4:癒しツアー
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