第120話 家と私
私―――エレーナは、あのロマノフ家を先祖に持つ。
ただ、個人的には皇族という気持ちは無い。
生まれた時点で祖国は無かったし、何よりこの日本には既に皇室が存在していたから。
なので、全然自分には、そんな気持ちは無かった。
ただ、親族に成功者が多かった為、平民では無い、というのは幼心に分かっていた。
実家の大広間には、
・
・菓子製造業者の創業者
等の写真が飾られ、先祖の成功が代々、語り継がれていた。
帝室の家系だけあって、礼儀作法も厳しい。
例えば、
――
『・家長が食べ終えたら、その他家族全員の食事も終了。
・家長が起立したら、全員起立。
・家長への挨拶は、男性は首を曲げて。
女性は、膝を曲げる(=
・海外訪問時、携帯電話の使用禁止。
手を繋ぐ事も禁止。
・求婚時、家長の承認必須。
・結婚式のブーケには、
・表立っての政治活動禁止。
投票権は許可。
・ボードゲーム禁止。
禁止理由:不道徳である為。
・夕食会では、家長はまず右側に座っている人と話し始める。
そして、2品目が机に並ぶ時機で、今度は左側の人との会話に移る。
・海外訪問時、喪服持参。
理由:訪問先で誰かが亡くなった場合に備えて。
・後継ぎが2人以上居た場合、彼等は同じ飛行機に乗る事禁止。
*赤子、幼児の時は別。
理由:飛行機事故対策。
・
理由:悪用、偽造対策。
・甲殻類の食事禁止。
理由:食中毒対策。
・平民が一家に軽率に触れてはならない。
・毛皮の着用禁止。
・
・公式行事の際女性は、帽子着用の義務。
・行事が室内で、午後6時以降の場合は、既婚女性は帽子に替えてティアラ着用。
・ティアラの角度は、45度。
理由:
・家長は毎朝、同じ朝食の献立。
・贈り物は、何でもしっかり丁寧に受け取る。
・降誕祭の準備期間は1週間。
我が家はロシア正教なので大晦日が準備開始日。
・家族は、全員、複数の言語習得必須。
・髪型は
・家長と会話をした場合、家長がその場を離れるのが先。
家長に自分の背中を見せる事禁止。
・家族の一員である以上、幼い時から手の振り方と上品な話し方が求められる。
・家長は人混みの中、分かり易い様に目立つ服を着なければならない。
・家長は、椅子に座っている際、足首の辺りで交差しなければならない。
・家長が会話を終える際、手提げ鞄を左腕から右腕に移すのは、合図。
・夕食で家長が手提げ鞄を机上に置いた、「5分以内に夕食時間を終える様に」と
いう合図。
・
~妃等、正式名称で呼ぶのが、義務。
・食事途中で一度、退室する時は使用人が間違えて食器を下げてしない様に、ナイ
フとフォークをお皿の上に交差して置き、食事終了時はナイフとフォークを揃え
て持ち手が右下になる様に置く。
・カップの正式な持ち方は、親指と人差し指で持ち手の上部を摘まみ、中指で持ち 手の上部を支える様に持つ。
・女性は顎の位置は上げ過ぎず、引き過ぎず、地面と平行の位置をキープする事。
・家長の配偶者は、家長と歩く際、数歩下がって歩かなければならない』(*1)
―――
平民になって
実家の援助無しに生活している者も多い。
私も当初、独立したかったが、実家がそれを許さず、幼少期から徹底的に礼儀作法を教え込まれた。
伝統的な家系なので、親の気持ちは分からないではない。
子供に受け継がなければ、先祖に申し訳が立たない。
特に我が家の先祖は、イパチェフ館で銃殺された。
なので、伝統を維持する為に必要以上に束縛するのだろう。
ただ、それを嫌がって、多くの子孫は独立しているのは事実だ。
私も思春期の頃に反発し、結局、家を出た。
そして、生きる為に1人暮らしを始めたのだ。
貯金を切り崩して、マンションの部屋を借り、そこから通学している。
生活費の足しの為に予備自衛官にもなった。
―――
『予備自衛官手当 月額: 4千円(税別)
訓練招集手当 日額: 8100円(税別)
訓練招集旅費 訓練参加の為の往復旅費が支給』(*2)
―――
何故、これを選んだのかというと、我が家は戦時中、浅野部隊に多数、軍人を輩出している軍人の家系でもあるからだ。
残念ながら内通者によって浅野部隊は壊滅し、帝政復古の夢は潰えたが、我が家は変わらない。
・昭和後期
・平成
・令和
になっても脈々と自衛官を出しているのだ。
日本政府も我が家を高く評価して下さっている。
ソ連、そしてその継承国のロシアは日本の仮想敵国の一つだ。
北方領土を不法に占拠し、シベリア抑留の歴史からも多くの日本人のロシア人への感情は良くは無い。
その為、「ロシアの専門家」として、我が家は、日本政府には、重要な家なのだ。
その技術や知識を提供する代わりに我が家は、日本政府の保護下にあるのよ。
日本版
今は、家とは絶縁関係にある。
私も家に戻る気は無い。
視力が急速に落ちたのは、家出する直前だ。
最初は一時的なものと、思っていたが日ごとに悪くなり、遂には95%、見えなくなった。
それでも、不安は無かった。
私には、超人的な感覚があったから。
視力に頼らずとも、嗅覚や触覚、聴覚で日常生活が出来たのだ。
勿論、最初から全てが出来た訳ではない。
だから、その分、必死に努力した。
予備自衛官の試験も合格出来たのも、その天性の才能と努力が実った為だろう。
―――死ぬまで隠して生きる。
そう、強く決意し、生きてきたのだが、あの男は一瞬にして見破った。
北大路煉。
前世が米兵、という不思議な男だ。
チームに入る前から、存在は知っていた。
強面で、何時も女性を侍らかしていたからだ。
生徒会長のお姉様は、いつも嘆息されていた。
問題児、と。
理由を尋ねると、
「成績優秀だから」
だそうだ。
成程。
これで成績が悪ければ、槍玉に挙げる事も出来るのだが、女性関係以外は何も問題無い。
然も、校内で不純異性交遊をしている訳でもない為、結局の所、黙認するしかないのだ。
ただ、雰囲気から察するに既に司、オリビアとは肉体関係にあるっぽい様であった。
私は、お姉様の愚痴を聞く度にその男に興味を持っていた。
そして、接触を待っていた。
女性関係に激しい男に自分から言い寄るのは、気が引けたのだ。
結局、煉は私に興味無いのか、知らないのか、何もしてこず、お姉様のアシストで遂に接触に至った。
第一印象は、清潔。
視覚が人より劣っている分、私は鼻が利く。
なので体臭で、清潔か不潔かどうか分かるのだ。
煉は、香水をつけているのか、凄い良い香りがした。
後でオリビアに聞いたが、トランシルバニア王国の国王陛下から頂いた物を愛用しているらしい。
射撃場で彼が使用しているであろう、M16も勝手ながら触れ、使ってみた。
日頃から手入れしているのだろう。
物凄く使い易く、私は、てっきり専属の
勝手に愛銃を使っても、彼は怒らなかった。
逆に私の技術を褒め、チームに入れてくれた。
給料も出る、という。
生活に困っていた訳ではないが、給料は嬉しい。
然も、私を専属の狙撃手にもしてくれた。
前任者には、悪いが、軍隊は実力が物を言う世界だ。
前任者は、専属秘書官に配置転換された為、一緒に訓練を受ける事は無い。
「おい、ライカ。それ、俺の寿司だぞ?」
「無礼講です」
私の目の前で煉は、多数の女性達と共に楽しんでいた。
部下に寿司を奪われても怒らない。
実家では常に窮屈さを感じていた為、天国の様に感じる。
良い就職先だ。
いつまでの付き合いかどうかは分からないが、厚遇してくれる以上、その恩に応えるのが、義理だろう。
私は、日本酒を煽った。
未成年者飲酒禁止法?
外交官特権だよ。
初めての酒は、どんどん進むのであった。
[参考文献・出典]
*1:ハーパーズ バザー HP 2017/09/08
*2:陸上自衛隊 HP
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます