第98話 死刑
カリオストロは、
・不敬罪
・外患誘致罪
・反逆罪
等に問われた。
裁判長は、告げる。
『これは、国民の法廷である』
が、カリオストロは、強気だ。
『私は、国王だ! 容疑者ではない!』
一度、王位に就いた事から、自信家になったのだろう。
政変失敗直後、王族からボコボコにされ、顔が蜂に刺された様に腫れあがっているのにこの態度。
裁判官、検察官、頼みの綱の弁護人でさえ失笑する始末である。
裁判の様子は、生中継されていた。
トランシルバニア王国の正当性を示す為。
そして、見せしめの為だ。
『これは、政変だ!』
どの口が言う?
と、出席者や視聴者は、内心、突っ込む。
裁判官が、苛立った様子で言う。
『私達は、この裁判を「愛国者達」が採択した新法に従って行う。被告はどうぞ起立して下さい』
『国の憲法を読め!』
『私達は読んでいる。貴方に指示される筋合いは無い。憲法を尊重しなかった貴方より私の方がよく知っています』
舌を出した後、カリオストロは、テレビカメラを睨んだ。
『どんな質問にも答えないぞ』
たまらず弁護人が入る。
『私は、この軍法会議法廷の被告の弁護人です。被告と話す許可を頂きたい』
そして、カリオストロに囁いた。
『伯爵、ここで貴方の行動の動機を述べる機会があります。
これは、合憲の法廷です。
伯爵の作った議会は、国民の力で廃止されたのです。
御分かりですか? 弁護して欲しいと思うなら如何か話して下さい、貴方に対する道徳的義務を果たしたいのです。
起立して下さい。
貴方が認める認めないに関わらず、これは、最終的な法廷なのです』
弁護人がどれ程説得しても、馬耳東風だ。
『憲法を読みなさい。
そうすれば、まだ朕の作った議会は権限を保持している事が分かるだろう。
だから、朕は、朕の議会以外、どんな裁判も認めない』
呆れた弁護人は、最終確認を行う。
『それでは、弁護さえ望まないんですね?』
『要らない』
裁判長が、訴状を読み上げる。
『彼はこの数日間、国民を恐怖で支配した。
そして、今も法廷に協力しない事実は、良く知られている。
被告は、王位を簒奪し、女性王族を性奴隷にする事を企んでいた。
一方、国民は外出自粛を強いられ、恐怖の日々を過ごした。
被告が行った大逆、国民への人権弾圧、
そして、国民の名で語る権利があるという傲慢。
今日も話そうとしない。
卑怯者だ。
検事側、どうぞ訴因を提出して下さい』
検事が起立した。
『裁判長及び法廷各位。
本日は、国民に対し、重罪を犯した被告を裁かなければなりません。
被告は、人間の尊厳と相容れぬ行為を行い、国王を
被告の犯罪に対し、国民、そして無実の犠牲者の名において、裁判長及び法廷各位に対し、以下の犯罪行為の実行の咎により、死刑を求めます。
・刑法357条1項Cの大量殺人
・刑法162条の国家権力破壊
・刑法163条、国家の資産破壊による国内攪乱行為
・刑法165条、国家組織を利用した国内経済の破壊行為。
以上であります。裁判長』
『座って宜しい』
それから凍てつく様な無表情で、被告を睨む。
『聞こえたか? 被告人。
法廷は、起立を求めている』
名前さえ呼ばなくなったのは、それさえも嫌になったのだろう。
それでも、カリオストロは
『www』
『貴方に対する訴因を聞きましたか?』
『私設した議会以外では答えない。
どんな芝居でもするが良い。
朕は認めない』
『芝居は貴様がやってきたではないか?
お前が国を追い詰めたのだ』
『この裁判は認めない。
全てが嘘だ。
500万戸のアパートが建てられ、1万もの―――』
『つまり、訴因は認めない、という事ですね?』
『そういう事だ。
そして何も署名しないし、どんな宣言もしない。
もう一言も喋らないぞ。
何も署名しない』
裁判長は、大きく溜息を吐いた後、
『我が国の状況は、明白だ。
この破壊的状況は、冷戦期を彷彿とさせる。
共産主義者の為に病院ですら薬剤が不足し、大人も子供も死んだ。
食糧も暖房も照明も無い。
あれ以来だ。
貴方はこの事を考えた事は無いのか?』
『蜂起の際に多くの国民を殺害したな? 誰が命じたか?』
スクリーンに大量の死体の写真が表示される。
多くは、ドイツ系の国民であった。
衝撃的な事実に法廷は騒然とする。
『なんて事を!』
『まるでカチンの森だ!』
そんな怒号にも、カリオストロは言い返す。
『返事はしないぞ!』
裁判長も負けてはいない。
『貴方が頑固なのは知っている。
これまでの態度を見ていれば十分分かる。
では、大量殺人の責任者は、誰なのか? 回答を拒否するんですね?』
『朕の議会に対してならば答える。然し、鬼畜米英の手先として働き政変を組織した輩には、答えない』
『私の質問内容に答えて下さい』
『いや、何も答えない』
『誰が、首都で群衆に発砲命令を出したのか?』
『群衆? どの群衆の事だよ?』
『知らないのか? 首都の状況も?
宮殿広場で群衆に発砲が行われた。
貴方はこれに無関係だと?』
『……』
『今、この時にも、貴方の狂信的な残党が無実の国民を撃ち続けている。
あの者達は何者だ?
養成したのは国民なのか? 貴方なのか?
誰がそんな金を払ったのだ?』
『……どんな質問にも答えない。
これを答えとも見なすな。
ただ、一つ言っておきたいのは、宮殿広場では誰も撃たなかった、という事だ。
それ所か、「発砲するな」という命令が出されていたんだ』
『命令者は誰か?』
『私だ。
電話会議を通じて、な?
貴方方が述べた事全ては、嘘、偽り、そして挑発なのだ』
裁判長が叫んだ。
『書記官! 被告は次の様に述べた。
「私、或いは私の臣下が宮殿広場で発砲命令を出した事は認めない。
発砲した事すら無い。むしろ、私は発砲しない様に命令したのだ」。
この発言を記録しなさい』
それから、カリオストロに向き直った。
『良いですか? 貴方が国王に即位して以来、1日で100人以上が犠牲になっている』
検事が怒りに満ちた表情で問う。
『今、この時間にも国内至る所で住民に発砲、或いは強姦を行っている外国人傭兵は何者だ? 連れて来たのは誰だ? スポンサーは誰だ?』
『宜しい。被告、答えなさい』
『又、新しい言いがかりだ。
朕は、朕の議会以外では、如何なる質問にも答えない、と言っているのだ』
『書記官、記録しなさい。
「テロ行為を実行し、今も続行している外国人傭兵の雇用者は誰か? という質問に対し、被告人は答弁を拒否した」
と。
検事、未だ尋問はありますか?』
『被告、当法廷の合法性に対する非難以外に質問に答えられない理由はありますか?』
『どんな質問にも朕の議会と朕の支持者の前でぼに答える。
良いか? どんな質問にも―――』
『ここで答えなさい! 貴方は、答弁を拒否するのか!』
『朕の支持者の前でなら、どんな質問にも―――』
見苦しいその姿は、直ぐにSNSで評判となった。
———
『チャウシェスクの様な末路だなwww』
『カダフィよりかは、マシよ。一応は、裁判を受けさせてくれたんだから、良心的』
『不敬罪って死刑不可避だよね? 死刑方法は何だろう?』
———
人々の次の注目は、カリオストロがどの様な死に方を遂げるかだ。
トランシルバニア王国では、公開処刑がある数少ない国だ。
各国の公開処刑廃止年は以下の通り。
イギリス(*1):1868年
日本 (*1):明治2(1870)年
明治12(1879)年には、
フランス(*1):1939年
当然、人権大好きなEUは公開処刑に否定的だ。
然し、強く言うと、石油を停められる可能性がある為、強くは言えない。
日本でも盛んに報じられていた。
『―――政変である事は、実しやかに囁かれていましたが、今後、前国王はどうなるのでしょうか?』
『ハイ』
大使が、国営放送に出演し、説明を行う。
『既ニ死刑宣告サレテイル様ニ、死刑ハ、免レマセン。
問題ハ、ソノ方法デス。
日本デハ、絞首刑シカ採用サレテイナイ様デスガ、我ガ国ハ、被害者ガ死刑ノ種類ヲ選ブ権利ガアリマス』
フリップでトランシルバニア王国が採用している死刑の種類が、紹介される。
———
『・絞首刑
・斬首刑
・切腹
・鋸挽き
・生き埋め
・溺死刑
・十字架刑
・薬殺刑
・杭打ち
・串刺し
・磔刑
・腰斬刑
・皮剥ぎの刑
・腹裂きの刑
・凌遅刑
・石打ち刑
・火刑
・釜茹で
・銃殺刑
・突き落とし
・車輪刑
・電気椅子
・炮烙
・圧死刑
・引裂刑
・猛獣刑
・吊し刑
・引きずり回し』
———
これほど多種多様なのは、
・ドイツ帝国
・フランス帝国
等、世界史に名を残す国々に支配された歴史があるからだ。
一部、中国由来の欧州とは違う死刑があるのは、華僑や華人が持ち込んだものだ。
『公開処刑ハ、観光資源デモアリマス。
ドウゾ、日本ノ皆様モ是非観光ヘ。
オ・モ・テ・ナ・シ、オモテナシサセテ頂キマスヨ?』
笑顔で説明する駐日大使。
その後、ネット上でサイコパス大使の愛称が付けられるのであった。
[参考文献・出典]
*1:ウィキペディア
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