第85話 dystopia
『【サウジ「
『【ヨルダン軍が前皇太子を軟禁 国王へ抗議扇動か、逮捕も】』(*2)
―――
とある様に、例え王族であっても、命の保証は無い。
トランシルバニア王国でも、政変の臭いがプンプンしていた。
「次の王位が、あの
ふん、と鼻息を荒くしているのは、カリオストロ。
中年の皇太子で、リトル・セント・ジェームス島で少女達を売春していた、とされ、彼も又、廃嫡されていた。
然し、同じ廃太子の身分でありながら、オリビアは、アメリカ系という事で、一気に次期王位継承者の候補に躍り出た。
カリオストロが、不満を持つのは当然だろう。
「それにあの女は、貴賤結婚した身ではないか? 恥さらしめ」
血を重んじる王室では、平民との貴賤結婚に抵抗を持つ者は多い。
最良は、王族。
最低でも、貴族が許容範囲だ。
それなのに、オリビアは平民と結婚した。
これは、王室の危機だろう。
特に隣国ではアメリカ人と結婚した事により、その国の王室は今や御家騒動の様になっている。
「危険な芽は、早めに摘まないとな」
カリオストロは呟くと、立ち上がった。
「同胞に頼るかね」
年末が近づく中でも、俺は指導で忙しい。
「相手が子供でも戦闘員だと確認出来れば躊躇うな。でなきゃ死ぬぞ?」
「「「……」」」
親衛隊に見せているのは、自爆テロの映像だ。
母子が歩いて検問所に入っていき、直後、爆発する。
生首や手足が千切れ飛び、検問所はクレーターの様に陥没する。
「「「……」」」
誰も目を逸らさない。
これが、世界の現実だ。
決して作り物ではないのである。
「今回は母子だったが、子供1人の場合もある。ベトナムの時は幼子を戦災孤児に偽装し、爆弾を装着し、米兵が抱き上げた所、炸裂させていた」
ライカが挙手した。
愛人関係にあるが、仕事中は上官と部下だ。
「少佐殿、何故、そんな事を?」
「それを親に見せているんだよ。保護されたら誘拐された、と感じ米兵を恨み、爆死しても米兵を恨む」
「「「……」」」
反米の感情を刻み込めるやり口だ。
これが戦争だ。
良心があればある程、死に易い。
時々良い人ほど早逝する、という話があるが、まさに戦争はそんな世界だ。
「戦場では決して油断するな。家族や親友、恋人に又、会いたければ、再び故郷の土を踏みたければ、絶対に気を抜くな」
「「「……」」」
全員、熱心に聞いている。
「もう一つ。諸君は女性だ。後は分かるな?」
「「「……」」」
女性が戦場に出るというのは、当然、殺傷される以外にもう一つ、想定されるのは、誰でも分かる。
直近で世界に衝撃を与えたのが、クルド人女性兵士の最期だろう。
―――
『【クルド人女性戦闘員の遺体動画に怒りの声 シリア】
シリアの少数民族クルド人の勢力は2018年2月2日、クルド人民兵組織の女性戦闘員の遺体が、一部が切断される等して痛めつけられ、その様子を撮影した映像が明らかになった事を受け、トルコが支援するシリアの反体制派勢力を非難した(以下省略)』(*3)
―――
日本には死者に鞭打つ文化は無いが、戦場になったら、歯止めが利かない為、絶対に無い、とは言い切れない。
然し、これ、一線を越えている。
戦争犯罪、と言っても良い筈だ。
鐘が鳴った。
「最後に、これだけは覚えておいてくれ」
「「「……」」」
生唾を飲み込む音がした。
「俺は、諸君を死なせたくは無い。死ぬんだったら俺1人で良い。決して神風の様にはなるな。良いな?」
「少佐殿、何故最後、あの様な御発言を?」
お昼休み。
俺の部屋にいつものメンバーが集まっていた。
オリビアに、シャロン、スヴェン、シーラ。
皐月、司、ナタリーは本家だ。
「まさか、神風を否定されるとは思いもしませんでした」
トランシルバニア王国では神風特攻隊は、英雄視されている。
自己犠牲で国を守ろうとしたのだ。
その精神を軽視したり、嘲笑するのは、人間の心を持っていない。
「否定した訳ではない。俺だって、神風には敬意を持っているよ」
シャロンをぎゅっとバックハグ。
戦争の話になると、決まって愛娘を抱擁したくなるのは、俺だ。
彼女は嫌がる事無く、笑顔で俺の弁当から唐揚げを奪っている。
酷い奴だ。
「あくまでも個人的な意見だが、神風は国の将来を背負う若者を死なせたのは、否定出来ない。これは、非難しなければならない。上から死ぬのが、筋だよ」
「師匠は、二等兵よりも早く戦死されたい、と?」
「語弊があるが、まぁ、そうだな。若者を死なせて、年上が生きるのは、
「……」
シーラが潤んだ目で、袖を引っ張った。
「ああ、悪かった。死なないよ」
すると、シーラは、笑顔で俺の頭を撫でる。
可愛い義妹を泣かせてしまった。
兄、失格だな。
軽く反省後、俺はライカの弁当箱から、お握りを奪取。
「あ」
そしてそのまま丸のみ。
「ああ、少佐殿、御自分があるのに―――」
「いや、単純に美味そうだったから。自分で作った?」
「はい」
恐る恐るライカは、尋ねる。
「不味かったですか?」
「全然。美味しかったよ。はい、お詫びに」
卵焼きをプレゼントされ、ライカは笑顔に。
確実に戦力的には、マイナスっぽいが、奪うだけだとパワハラになりかねない。
部下には、良い暮らしをさせるのが、真の上官だ。
「師匠、私のも如何です?」
「要らんよ。どうせ媚薬でも仕込んでるんだろ?」
「! よくお気づきで?」
仕込んでいたんかい。
呆れつつも、スヴェンの卵焼きを奪う。
「あー!」
「煩い。師匠に敬意を払え」
「そ、そんな。パワハラ―――」
「あ?」
「何でもないです……ぴえん」
涙目なスヴェンに罪悪感を覚えた俺は、唐揚げを送る。
「やった! 師匠から愛のプレゼントだ!」
目に見えて喜ぶ。
本当に子犬みたいに分かり易いな。
本当にこいつ、元モサドなの?
内弟子2号に見ていると、
「……」
ぼふ。
シーラから有難い(?)右ストレートを食らいました。
[参考文献・出典]
*1:AFP 電子版 2020年3月8日 一部改定
*2:共同通信 電子版 2021年4月4日 一部改定
*3:AFP 2018年2月3日 一部改定
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