第78話 Minister of Health

 最終日。

 今日は、帰る日だ。

 名残惜しいが、家がある以上、帰らなければならない。

「たっ君、はい、あーん♡」

 司が食べかけのソフトクリームを持って来た。

「最後まで食べないのか?」

「たっ君と間接キスしたかったの♡」

「分かったよ」

 言われた通り、ソフトクリームを頬張る。

 心なしか、司っぽい味がする。

 その正体は、何か分からないが。

「勇者様、私のも♡」

「分かってるって」

 オリビアの額にキス。

 ちょっとアメリカ人が出てしまったが、事実婚になる身だ。

「勇者様♡」

 デートを楽しみ、更にキスもされ、オリビアは破顔一笑である。

 両手に花は、世の多くの男性達の夢だろう。

 然し、平等に愛さなければ意味が無い。

「勇者様、子種が欲しいです♡」

「それは、司の後だな」

 何事も司が最初でなければならない。

「たっ君。第一子は、男の子と女の子、どっちが良い?」

「女の子かな? 『パパ』って甘えられたい?」

「その枠は締め切っています」

 シャロンが、子泣き爺の様に背中にしがみつき、抗議する。

「娘は私だけで十分」

「あれ? 『前、娘じゃなくて1人の女性として見て欲しい』って言ってなかったっけ?」

「両方よ」

 我儘わがままですやん。

 呆れていると、シャロンが俺の胸部を触りつつ、

「第一子は、男の子が良いな?」

 と、謎のアピール。

 シャロンを育てたのだから、今度は男の子というのもありだろう。

「運次第だけど、司と要相談だよ」

「御母さん、産み分けって出来るの?」

「100%ではないけれど、出来なくは無いわよ」

 皐月、ドーナツを頬張りつつ、ホワイトボードに表を書く。

 ―――

『[男子を産む方法]        :[女子を産む方法]

 排卵日に性交           :排卵日の2日前に性交

 精子の数を増やす為に最低5日間禁欲:3日に1回性交し、精液を薄めておく

 女性が性的絶頂に達する濃厚な性交 :あっさりめの性交

 グリーンゼリーを使用       :ピンクゼリーを使用

 リンカル摂取           :性交後は避妊』(*1)

 ―――

「「「おお~」」」

「不妊治療をしている人は妊娠率が更に下がる。高齢者は加齢で。初めて妊娠する人は、中々妊娠出来なかった場合、何が原因なのかが突き止め難くなる為、実践は、余り良くないよ」(*1)

 流石、現役の医者だ。

 知識が豊富で且つ、分かり易い説明である。

「あ、それと皆に伝え忘れた」

「何?」

「閣僚になっても良い?」

「「「!」」」

 司達は、驚く。

 民間人閣僚は、戦後の日本の国政を担ってきた人々だ。

 実現すれば、平成24(2012)年以来9年振りの事になる。

「え? 大臣になるの?」

「現時点で『かも』よ」

「厚生労働大臣?」

「そうよ。賢いわ。煉、好きよ♡」

 頬にキスされる。

 最近、スキンシップ激しいな。

 本当に恋してるっぽいな。

 医師の皐月には、厚生労働大臣が、適任だろう。

 歴史的には、令和3(2021)年3月時点で、厚生労働大臣は23代13人居るが、その内、女性は14代の1人のみ。

 厚生労働大臣という要職が設置されたのは、平成13(2001)年からなので、他の国務大臣と比べると歴史が浅い。

 が、それでも13人中女性が1人というのは、男女同権の理想からすると何とも寂しい現実であろう。

 信介が、仲良し且つ大票田の皐月を登用する事で、フェミニストや女性の支持率も得たい、という姿勢の表れなのかもしれない。

 もっとも、民間人閣僚の短所は、政治的経験がほぼ皆無の為、その手腕が未知数だ。

 任命されたとしても、衆議院議員選挙後の組閣や内閣改造にともない、解任されることも多い。

 殖田俊吉うえだしゅんきち(1890~1960)が、昭和23(1948)年に日本史上初めて民間人閣僚になり、以降、平成24(2012)年の内閣の防衛大臣まで24人存在するが、長くても2年短くても1年未満だ。

 素人だからこそ、1番、整理解雇リストラやすいのだろう。

「……どうかな?」

「私はして欲しいな。薬に関して法改正して欲しいから」

「承認をもっと早く?」

「そうだよ」

 司らしい考えだ。

「煉は?」

「俺は、反対だよ」

「どうして?」

「一緒に居たいから。後、性犯罪に遭うかもしれないから」

 俺が心配しているのは、国会キス事件の二の舞だ。

 昭和23(1948)年12月13日、大蔵大臣の泉山三六(1896~1981)が泥酔により、他党の女性議員の手を握ったり抱きついたりした為、議員辞職した。

 国会議員には開会中、不逮捕特権があるとはいえどもも、これは流石に現代では、国民の多くが激怒するだろう。

「意外と心配性ね?」

「そうだよ」

 俺は、愛妻の家族も大事にする主義だ。

 皐月が被害に遭えば、相手を殺すだろう。

「有難う。心配してくれるんだね?」

「当たり前だよ。だから、俺としては反対だ。ただ、無理強いはしないよ」

「分かった……熟考して決めるわ」

 北大路家が政治の道へ進む。

 政権との繋がりがある家なので、閣僚になるのは、願っても無い事だろう。

「大好きよ♡ 煉♡」

 何度も頬にキスされる。

 その度に頬が口紅で赤く染まっていくのであった。


 ねずみの御土産を沢山買い込んだ女性陣は、良い笑顔だ。

「「「♡ ♡ ♡」」」

 シャロンに肩に乗られ、司に左腕を、オリビアに右腕を絡め取られ、俺は歩く。

 両手に花の上にもう1人居るのは、まさかの展開だ。

「……」

 肩車されたかったのか、シーラは、不機嫌で睨んでいる。

 一方、スヴェンは、

「師匠が寝取られて……ぐへへ♡」

 等と、あらぬ妄想に浸っている。

「―――」

『―――』

 ナタリー、ライカのドイツっ娘コンビは、ドイツ語で何やら話している。

 時折、笑っている為、談笑しているのだろう。

 内容は分からないし、聞く必要は無いが、2人が仲が良いのは、良い事だ。

「煉、後、どこ回る?」

 1番嬉しそうなのは、皐月だった。

 少女の様にウキウキルンルン気分で尋ねた。

 前夫とデートした時以来なのかもしれない。

「いや、俺はもう一杯だよ」

「分かった。じゃあ、帰ろう。良いよね? 皆?」

「うん」

「はい」

 聞き分けの良い司とオリビア。

 家長・皐月の指示には、従う。

 良い嫁になるだろう。

「じゃあ、一杯買ったし、帰ろう」

 という訳で帰宅だ。

 沢山の買物し、満足した俺達は、昼時でチェックアウト。

 午後は家でゆっくり過ごし、慣らさないといけないだろう。

 運転手は、ライカだ。

 国際免許証を持つので、日本でも運転可能なのである。

「たっ君は、ここ」

「はいはい」

 シャロンを下した俺は、司の誘導により、後部座席の真ん中へ。

 左右はやっぱり、司、オリビアだ。

 シャロンは、真ん中で俺の代理なのか、シーラを抱っこする。

「パパの浮気者……」

 呪詛じゅその言葉を吐く愛娘が怖い件。

 シーラも見返り美人風に振り返って睨んでいる。

 愛娘と義妹から、この態度は正直辛い。

『ばーか』

 助手席のナタリーがバックミラーで確認しつつ、わらった。

 酷いなぁ。

 一応、上官と部下の関係なんだけど。

「ししょう、どうぞ」

「有難う」

 スヴェンは、甲斐甲斐しくペットボトルをくれる。

 でも、直ぐに、司に奪われた。

「ふぃ~♡ おいち♡」

「司、それ俺のだけど?」

「はい♡」

 口に水を含み、司は、口移しで流し込む。

「あらあら♡ 熱いわね♡」

 皐月は、微笑んでスマートフォンで連写。

「勇者様! 私も!」

 オリビアもキスをせがむ。

 結局、3人で舌を絡め合う。

 愛娘や義母の前ではしたくないが、それ以上に2人の機嫌を損なわせるのが怖い。

 一夫一妻制の人々には、奇異に映るだろうが、これが俺達の愛の形なのだ。

 異常に見られ様が、気にはしない。

「殿下、御幸せそうで何よりです」

 ライカは涙ぐみ、鼻をティッシュでむ。

 俺達の小旅行は、こうして終わるのであった。


[参考文献・出典]

*1:Taking a STAND

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