第364話 苦手 ①

強いて言えば、母が苦手だ。


いや、解っている。

母は本当に俺を愛して育ててくれた。

もちろん、とても感謝している。


だが…


「あんた。これ、好きやろ?」


と、毎度、毎度、キャラメルを買ってくるのはやめてくれ。


好物だったのは40年前。

「入れ歯でそれはもう食えねえ」

と、何度言っても忘れてしまう。



★☆★


母親は、何十年経とうとも、子供が一度「好き」といった食べ物は忘れない。

だが、嫌いなものや、好物でなくなったものは、何百回言っても覚えない。

(アルツハイマーというわけではない)


息子の好物を渡した筈なのに、息子が食べてくれない。

その哀し気な母(70才オーバー)の顔を見るのが辛い息子(50才オーバー)であった。


残り1話。

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