第13話 朝
朝の7時前。
朝の農道はすいているが、農家は朝が早いし、道路の脇から左右をよく見ずクルマが出て来るので、くれぐれも気をつけるよう、こちらの祖父母に言われている.
この時代の小型車としては贅沢な五速ミッションはOHVの卵型のエンジンを積んだ小さな車体を切れ目なくスムーズに加速させていく。
ミッションをこまめにシフトし、エンジンのパワーバンドを外さなければ、驚くほどスポーティーな走りを味わえる。美生はまだそのレベルには至っていないが、もちろんツーリングには不自由はない。
祖父母の家に戻って来ると、父の貴生が軽トラックで出るところだった。
「じゃあな、事故に気を付けろよ。」
貴生は帰って行った。
美生は家に上がるとダイニングのテーブルに付いた。
「ただいま。おはよう、おばあちゃん。」
「お帰り、ミオ。もうちょっとでできるからね。」
陽気な歌声が聞こえる。
Amami!
Ti voglio bene!
Con 24000 baci
Oggi saprai perché l'amore
Vuole ogni istante mille baci
Mille carezze vuole all'ora
背の高い祖母の細く引き締まった背中にかかる髪が揺れる。だいぶ白髪が混じっているが、その髪は美生と同じ明るい茶色のくせ毛であった。そう、美生の髪はこの祖母からの遺伝なのだ。
美生の父方の祖母、
この髪の者は一族の象徴であり誇りだったが、戦後になって時代が変わると、この髪を持った子は生まれなくなり、爵位を継ぐ者もいなくなって、かつての居館は今ではホテルとレストランになっている。
美生が生まれた時、40年ぶりにこの髪を持った子が生まれたということで、カトリアがSNSに美生の写真をアップすると、イタリア中の親戚からお祝いのメッセージが届いたそうだ。
そんな訳で、カトリアが孫の美生を可愛がること、並大抵ではなかった。
「はい、お待たせ!」
カトリアはテーブルにパニーニとカフェラテを置いた。
「ありがとう、おばあちゃん。いただきます。」
美生はパニーニにかぶりついた。
「今日はまず庭の草むしりから始めるね。広いから2、3日かかると思う。」
「暑いから気を付けてね。お昼は元気が出るような食事を作るわ。」
「うん、ありがとう。」
美生はカトリアの若い頃の写真を見せてもらったことがある。ハリウッド女優もかくやというエキゾチックな美人で、明るい茶色のくせ毛が美貌を引き立てていた。
一方、美生の方はまあ十人並みといったところである。
「どうせなら顔もおばあちゃんに似てほしかった。」
カフェラテを飲みながら、美生はため息をつくのでありました。
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