第117話 バーベキュー。

 みんなを守るために必死で戦ってた時は何も考えている余裕なんかは無かったし身体も自然に動いた。


 きっと。


 さっきまでのあたしはこの狩が本当の意味での命懸けだということも、魔獣だってただやられている訳ではないんだという事も。


 反撃を受ければ生身の人間なんてひとたまりもないんだという事も。


 何もわかっていなかったんだ。


 だから。その油断があたしの身体がすぐに動くのを邪魔した。


 襲われそうになっている人とブラックシープの間に滑り込み防御膜をはる。ただそれだけの事ができなかった。


 時間にしたらほんの数秒だった。


 ブラックシープが取り囲んでいた人の手前にふっと現れてぐわっと身を起こした。


 まるで大きなクマのように。


 その巨体は人の背の軽く三倍は越していた。


 そのクマのような黒い巨体は、前脚を高く振り上げ、そこからその目の前の人に向かって振り下ろした。









 危ない!




 そう思ったその時。



 信じられない光景が目に映った。






 ブラックシープに襲われそうになっていたのはシルヴァだった。


 彼は左手一本でその襲いくるブラックシープの前脚を受け止めると、そのまま正拳突きよろしく右拳をその腹に打ち込んだ。


 衝撃がブラックシープの背中まで達したのがわかる。


 たぶん、あれは。


 内臓から脊椎、背骨まで貫通したのだろうその衝撃が血飛沫となってブラックシープの背中から噴き出した。




 あたしが茫然と見送るのをしりめに、他の皆はそれがさも当然とでも言わんばかりの喝采をあげ、残ったブラックシープにもとどめを刺す。


 シルヴァは手刀で(って、手刀だよ手刀、素手で、だよ?)倒れた巨体の頭のツノを手折り、そしてそのまま首を落としたのだ。


 流石に。


 あたしはその光景を茫然と見送るしかできなかった。






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 池のほとりで火を焚いて。


 臨時のバーベキューの準備が始まった。


 血抜きをしないまま食べるのかとちょっと思ったのは内緒。


 皆によると、どうやこのブラックシープは新鮮なものが一番美味だという事で。


 時間が経つと臭みも出るけれどそのまま焼いて食べるとどんなお肉よりも美味しいらしい。


 だから、狩をした日はまずその場で解体をしながらバーベキューで頂くのだそう。


 もちろん解体したお肉はギルドに卸す。それがルールでもあるらしい。直接食堂とかに売った方が高く売れそうな気もするけど、それをするともう次からギルドは買い取ってくれなくなるんだって。


 個人で持ち帰って食べるならともかく市場に流すのはギルドを通す。ってまあそんな決まりでも守らないとしょうがないよね。




 バチバチと火の粉が飛ぶ中、樽で運んできた果樹酒を呑みながら食べるお肉は絶品だった。


 しかし。ね?


 あたしの目の前にいるこの人、シルヴァさん、ほんと何者?


 あの身体能力、普通の人間じゃあり得ない。


 龍神族のマトリクスの時のあたしより、もしかして強い?




「気になるの?」


 ついついシルヴァさんを目で追ってしまうあたしに気が付いたのかアジャンさんが耳元でそう囁いた。

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