第104話 アリシア。
あたしは夢を見ていた。ここのところずっと毎日、少しずつ。
瑠璃だった頃の夢? ううん。
瑠璃の記憶を持ったまま不完全だったこの世界に転生してきた頃の夢。
皇女として、サーラとして過ごした日々。
そして。
大聖女様、サンドラとの出会い。
全部を思い出したわけでは無いし、あたしの自我はレティーナとしてのものであるのも間違いない。
当時の感情とかも思い出しはしたけど、ちょこっとそこには何だかカーテンのようなものがかかって居る。
亜里沙ちゃんの事も。
夢の中で、あんなに大好きだって思っていたのにね。
そして。その亜里沙ちゃんがアリシアだって事も。思い出したのだ。あたしは……。
厳密に言えば今のアリシアは完全な亜里沙ちゃんの転生体では無いのだろう。彼女から流れてきた記憶がそれを物語っていた。
特に、強烈に残っている記憶。
今朝はそんな、昔の出来事。
たぶんアリシアの記憶。そんな夢を見てた。
☆☆☆☆☆
クロコとシロ、そしてレヴィアも巨大化し、4対1で戦うもバルカは強かった。
わたしがバルカの後をまっすぐ追って来れたのも、魔王石のおかげだろう。
身体の中の魔王石が惹かれあってるのがわかる。
バルカとわたしに別れた魔王石。
それが根本では繋がってる、そう感じてる。
だから迷いなく追ってこれた。
そうか。
魔王石が一つになりたがってるのか。
バルカの攻撃もこちらを殺そうとするものでも無い。する気になればいくらでも殺傷能力の高い魔法が使えるはずなのに。
きっと、わたしを呑み込む隙を探っているのだろう。
わたしも。
ダメだな。此の期に及んでバルカを殺す事が出来ずにいる。
……しょうがないよ。それがアリシアなんだもん。
うん。ごめんねナナコ。
何度も激突し、そしてお互いにかなり消耗して。
いつのまにかわたしたちを取り囲むように現れた騎士団。
カッサンドラ様、リーザ、コルネリアの姿も見える。
「加勢します!」
そう言って飛び込んでくるコルネリア。
「気をつけて! コルネリア」
サーラお願い!
……コルネリアに加護を!
わたしの身体の中にいるサーラの心から金色の膜がゆらゆらと立ち登り、コルネリアを包み込む。
「え?!」
驚いたコルネリアが一瞬こちらをみるも、何か納得したような顔になりそのままバルカに切りかかった。
コルネリアが斬りかかる。
両手のヤイバで薙ぎ払うバルカ。
その隙にクロコが弾丸アタック。弾かれたバルカをシロの雷撃が襲う。
レヴィアが氷の刃を飛ばす。マントでなんとか防ぐバルカ。
わたしがそのままライダーキック宜しく飛びキック。なんとかバルカを地面に叩きつけることに成功した。
砂煙が消えると其処には精根尽き果てたかのようにしゃがみ込むバルカの姿があった。
《まだ、油断は禁物だ魔王殿。奴の事、この一帯をもう一度焼き尽くすだけの魔力を残しているやもしれん》
うん。
地面に降りると、ゆっくりと、わたしはバルカに近づいた。
「どうした。トドメをささぬのか?」
何かあっさりとした顔になっているバルカがそうこちらを向いて言った。
わたしはそれには答えず無言で歩いていく。
……え? どうするつもり? アリシア。
……亜里沙ちゃん、危険です!
ごめん。
わたしは両手を広げると、バルカの目の前に突き出した。
わたしの掌を見つめ、バルカ。
「俺を取り込むつもりか? なら話が早い。お前の中から乗っ取ってやれば良いのだからな」
「できるものならやってみれば良い。ワタシは構わない」
……え? 何言ってるのアリシア。
……亜里沙ちゃん、ダメ!
ああ、ごめん。ナナコ。サーラ。
ダメなの。理性では理解できても感情が言うことをきかない。
心の奥の感情の部分、そこが赤く腫れ上がっているような。
クロコとシロ、そしてレヴィアがわたしの中に潜り込んでくる。
魔王石が呼んでいる?
赤く腫れ上がった魔王石。今わたしをコントロールしているのがこいつだと、そう理解はできるのだけどどうしようも出来ない。
そしてわたしは両手からバルカを取り込んだ。バルカの意識はそのまま魔王石となり、わたしの魔王石に吸収される。
ああ。至福。
コレデワタシハ完全ナル魔王トナレル。
暗転。そして……。
☆☆☆
アリシアの中からはじき出されたサーラのあたしはサンドラの中に戻っていた。
接続も、切れた? どういう事?
……どうやら魔王は完全体となって復活した様子ですね。
どうして? サンドラ、貴女知ってたの?
……これが本来の計画でしたから……。
計画って何よ! そんな事一言も教えてくれなかったじゃ無い!
……今度こそ、失敗するわけにはいかなかったのですよ。この世界を救う為にはこの方法しか無かったのです。
亜里沙ちゃんを犠牲にして? そんなことしないって、そう約束してくれたじゃないの!
まさかサンドラ、こうなる事を見越してあの時魔王石のカケラ亜里沙ちゃんに渡したっていうの?
……もちろん封印に使う為の石は二つ残してありますよ。真皇真理教より拠出させましたから。
え? どういう、こと?
立ち尽くすアリシアを中心に騎士団が取り囲む。
その布陣はまるで魔法陣の様にも見え、そして。
その両端に立つ二人の姿。
片側はプブリウス。右手に剣を掲げ、左手には女神像を抱えている。
そして。
その丁度反対側に立つのはコルネリアと同じ真っ赤な騎士服に身を包んだ女性。プブリウスと同じ様に剣を掲げ女神像を抱えている。
しかしその姿は……。
「ガレシア!」
なんであいつが此処に?
そうあたしが叫んだ時、二人が持つ女神像が光り輝き。
サーラの身体の主導権を再度もぎとったカッサンドラが両手を天に掲げ。
光の魔法陣が完成し浮かび上がり、アリシアを包み込んだ。
☆☆☆☆☆
……うむ。やはり時間は無いな。ちょっと強行手段に出るぞ。
何? レヴィア、ううん、カエサルさま。何をするの?
……なに、魔王を一旦此処から排除するだけさ。アリシア殿、お主のマイクロコスモスカッターな、あれを使わさせて貰う。
えー? でもあれ、起動するのに莫大な魔力がいるし
……今この身体の周囲に展開している魔法陣と魔王本人の魔力を拝借すれば良いのさ。
そんな都合のいいことできるわけ……、そう言いかけて辞める。
そっか。この人わたしなんかよりずっと魔王のチカラの事よく知ってるんだもの。そう思うとなんだかこの人が言うなら何でも出来るような気になった。
うん。お願いカエサルさま。
魔王を排除するって言ってもインナースペースに深く根付いた魔王の感情の塊を切り離すにはけっこうな範囲で切り取らなければ無理。
カエサルを中心に起動したマイクロコスモスカッターは、あの紅く脈動する光の及ぶ周囲を根こそぎ囲み。
そして……。
気がつくと。
荒野に立ち竦むわたし。
その手に真っ赤な石を抱えて。
ああ、これが魔王。そう。わかる。
わたしの一部だったもの。
わたしの周りに展開していた光の魔法陣は終息し、周囲には騎士団の面々が取り囲んでこちらを警戒している。
「亜里沙ちゃん!」
ああ瑠璃。無事だった。良かった。
「貴女、どうして……」
一瞬だけ瑠璃が見えたと思ったのに。目の前にいるサーラは直ぐにカッサンドラの顔になった。
「ごめんねカッサンドラ。あなたにこれは渡せない」
自然とわたしの口から出たそんなセリフ。
ナナコ?
「このままではこの世界は崩壊します。神さま、貴女が出来ないのならわたくしが円環の役割を果たすしかないじゃないですか」
ああ。そっか。
みんなほんと、大好きだよ。
わたし。この世界も、そしてこの世界を大切に思ってるみんなが大好き。
「ばかね。それはわたしの仕事だっていうのに」
そうだね。ナナコ。わたしたち、そのために此処に居るんだよね。
ああ、なんだかナナコとわたし、意識が融合しかけてる? 自然とナナコの思考が言葉になってでてきてる。でも、これも悪くない、な。
「ダメ! 亜里沙ちゃんだめ……、お願い、何処にもいかないで……」
ああ、瑠璃。ごめんね瑠璃。ごめんねもう一人のわたし。でも、これがわたしの役割だったんだよ。きっと。
真っ赤に脈動する石。わたしのインナースペースを顕現させたコレ、は、まだ生きている。
このまま大気に溶ければ良いんだって、そうすれば……。
《我に任せてはくれないか。ナナコ。その役目は元々我がするべきったこと。本来我がなるべきだった筈。だから……》
カエサルさま!
え? 何処から声が?
わたしの抱えていた石が浮き上がる。
手を伸ばすも振り切られ、空中に浮かび上がったソレは、カエサルの姿にと変わり。
もしかしてカエサル、切り離す時向こう側に残ったの?
確かにわたしは、寂しかったあたしは、理を収める器としてあなたを求めた。
でもそれはあたしのパートナーとして、だったのに。
《好きだったよ。大切だった。だからこそこれは償い、だ。あの時の過ちを悔いて長い年月(としつき)を過ごしてた我にやり直す機会を与えては貰えぬか? ナナコよ……》
……うん。うん。ごめんねカエサル。あなたに会えて嬉しかったよ。ほんとありがとう……。
空中に浮かび上がったカエサルの姿が紅く瞬き弾けた。
そして。
空が紅く焼け、金色の輪がだんだんと溶ける様に広がっていった。
カエサルが空気に溶け、大気と同調しているのだ、と。
☆☆☆☆☆☆
ああ。
あたしの涙がほおを伝って落ちる。
感情が、同調している。
夢の中で自分が泣いているのがわかる。
亜里沙ちゃんの
そして。そんな亜里沙ちゃんを助ける為、自分の存在を彼女に押し込んで融合したナナコ、神様。ううん、それも、あたしだったもの。
この世界の神として存在していたもう一人のあたしだった。
お日様のあたたかい陽射しがカーテンの隙間から注ぐ。
「おはようレティシア! もう朝だよ」
そう起こしてくれるティア。笑顔が思いっきりかわいい。
「おはようティア。さあ今日は何をしようか」
あたしは目をこすってベッドから起きると、そのままティアにハグをして。
うん。大好きだよ。そう呟いた。
転生皇女 end
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