第99話 コウラス・コルネリウス・プブリウス。

「あなた、わたくしに隠し事があるのではありませんか?」


 まっすぐに目を見て、私にそう話すサーラ様。


 そう。私が守りたいのはこのまっすぐな綺麗な目のサーラ様だ、と。改めて思う。


 そして、そんなサーラ様を騙すみたいな真似をしている自分が、ものすごく恥ずかしくなった。




 私、コウラス・コルネリウス・プブリウス。


 コルネリウス家、プブリウスの長男で騎士科の四年生。


 上には姉が四人いる。皆淑女科だけど。


 子供の頃から姉たちによくおもちゃにされ、着せ替え人形にされてたのもあってこういう女子の格好をするのは慣れてる。


 まあ、似合うし。ならいいか、って。


 クラスの女王様、マリアンヌ様に目をつけられてからは常に制服もスカートで、擬似同性のお友達、を演じさせられてたから、ほんとこの格好をすることについての違和感とか羞恥とかはあまりないのだ。


 気さくで遠慮のないマリアンヌ様は、


「あまりにも周りが男子生徒ばかりだと気が滅入るの」


 って話してて、私にはほんとうの女子の友達といった感じに接してくる。


 それはそれで、どちらかといったら男子の間では少し浮いてた私にとっても良かった、の、だけれど。



 そんなマリアンヌ様が話すサーラ様のおはなしは、私にとっては楽しみの一つ、だった。


 一歳年下のサーラ様。


 お披露目の時に初めてお見かけした時、天啓が降りたのかと思う程の衝撃があった。


 ああ、この方に一生お仕えしたい。そう思い込むほどに。


 四人の姉を見慣れていたせいか、か弱く可憐で清楚なその姿、そして、真っ直ぐで綺麗なその瞳、に、守ってあげたい、そう感じて。


 それは、多分、初恋や一目惚れよりも強烈な、何か、だと、そう思う。


 それ以来、私にとってサーラ様は何よりも大切な物になったのだ。



 お父様やコルネリウス家当主の大叔父様は皇太子さまにお仕えしているけど、私は絶対にサーラ様の騎士になる。


 そう決意して。



 そんな折だった。


 マリアンヌ様からサーラ様が家出をするかもしれないから心配だ、と、聞かされたのは。


 私は居ても立っても居られないほど動揺した。


 私がお側で守ります!


 おもわずそう叫んで。


 マリアンヌ様はにっこりわらって。


「ならあなた、今日からコルネリアって名乗りなさい。同性同年代ならどんな場所にも密着できるわ。あ、そうそうちょうど試しに作らせてるピンクの可愛い騎士服があるの。明日持って来るから着てみなさい」


 嬉々としたその姿に、私にはもうそれを断るっていう選択肢は用意されていなかった。

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