第91話 女神の祭壇。
夕食は身内だけのリウィアさま歓迎会。
そんなに豪華にはやらないっぽいけど、久しぶりに会う兄妹なのだ。それなりに美味しいものが出るのかなぁとか考えて。
わたしはちょっと寝てしまっていたので髪とか乱れてしまっていて、アスターニャに直してもらった。
「アスターニャ、あんまりいろいろのせると重いです……」
「ああ、サーラ様すみません。少しでもサーラ様の可愛らしさを見てもらいたくて」
そう言うアスターニャは飾りを少し減らしてくれた。
ほんとはもっとシンプルでいいんだけど、アスターニャ的には許せないらしい。しょうがないか。
いつものようにアスターニャに手を引かれ食堂に着くと、わたしが一番最後だった。
「まあかわいらしい」
リウィア様がそう褒めてくれたので嬉しくなって。
「ありがとうございます。わたくしリウィア様に会えるのをほんと楽しみにしておりました。あとでゆっくりおはなしさせてくださいませ」
そうにっこり挨拶して席に着く。
夕食はコンソメスープにお魚のマリネ、仔牛のステーキ。そしてデザートにマスカットタルト。
美味しそうに食べるリウィア様。そしてそれを見て微笑むおとうさま。
多分、これはリウィアさまのお好きなものをメニューにしたのかな。うん。美味しい。わたしも大好きだ。
マルクス様も嬉しそうだ。よかった。
「ところで陛下、近頃の空気、危うい色が混じっておりますが」
「ああ、対処はさせてはいるが、難しいな。公国にも万一のことが無いよう、注意して欲しい」
「あれからもうじき五百年が経ちますし、そちらの対策もせねばいけません」
「わたくしに降りてきた預言では、どうやら次の世代での出来事となりそうですね」
「ということはまだ時間があるということなのか?」
「そうとも言えません。わたくしでは無い、と、しか」
あ、嫌な予感が降りてきた。
おとうさまたちは子供もいるこの場でははっきりとした言葉にしない、のだろう。
何の事を話しているのか聞いているだけではよくわからなかった、けど。
ああ、ダメだ。黒い色がわたしの目にフィルターみたいに被さる。
見たくない、から?
でも。
一瞬、リウィア様が黒い爆発に巻き込まれる映像が見えた。
☆
夕食の後。
リウィア様にお願いした。
二人っきりでお話がしたいって。
なんとなく、だけど。
このおはなしはリウィア様だけにしかしてはいけない気がした、のだ。
ほんとはわたしの部屋まで来てもらいたかったけどそうもいかず。リウィア様の泊まる寝室の隣の応接室を使う事に。
人払いして二人きりで向き合って。
だけどなかなか最初の一声が出ない。
もじもじしてると、
「ねえサーラちゃん。あなたもしかして色々見えるようになっちゃった、とか?」
そう、リウィア様から。
「そうなんです。なんか凄く嫌な予感がしてて。ビジョンも見えて。でも、こんな事他の人には話せなくて……」
それにリウィア様に危険があるビジョンなんて、他の人に話せない。
「そうなのですね……。わたくしも子供の頃同じような経験をしたのですよ……」
リウィア様のお顔がちょっと曇る。
……ああ、この子が次代なのね……。
それは、同情? 憐憫? 何故そんな感情なのかわからなかったけれど、そう感じた、そんな気持ちの心の声だった。
「ちょっとつきあってもらえるかしら」
そう言うと、リウィアさまは立ち上がり、廊下に出る。
わたしはその後をついていった。
アスターニャは居ない。手を引かれず一人で廊下を歩くなんて新鮮で。目の前をスタスタ歩くリウィアさまになんとかついていく。
わたしって歩くの遅かったんだな、とか、今更ながら考えて。
無言で廊下をどんどん歩くリウィア様の色は決意の赤だった。何か儀式の様に、わたしも無言でついていく。ちょっと疲れた。
扉の前で止まるリウィア様。
やっとたどり着いた? そこは、聖堂。
皇帝が神に祈りを捧げる場所。
わたしはそこには入った事がまだ無かった。
リウィア様が扉を開けると真っ赤な絨毯の先に祭壇があり、そこには黄金色の聖杯が見えた。祭壇には神々の絵姿が描かれ、中央には女神の姿。
その女神は流れる様な金色の髪、透き通るようなブルーの瞳。整った顔立ちは穏やかで、神秘的な微笑みを浮かべていた。
「貴女にこの世界の責任を背負わせる事になる……。ごめんなさい。たぶん、わたくしにはもう時間が無いのね」
ああ、リウィア様……。
わかってるんだ……。リウィア様にはたぶん、すべて……。
「ダメ、リウィア様。わたしリウィア様を助けたくておはなししたかったの。わたしが守る。リウィアさままもるから……」
「そうね。あきらめちゃ、だめよね。わたくしも抗ってみせますわ。ありがとうね。サーラちゃん」
リウィア様はわたしの頭を優しく撫でて。
そして、祭壇に向き直ると、聖杯に手を添える。
「カッサンドラ様の加護を」
聖杯から光が溢れて。
その光はわたしを包み。
そして。
わたしの意識は真っ白な、いつか来た、あの空間を漂った。
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