第5話『探偵ごっこ』
翌日、10月31日土曜日。
弥生は部活に来なかった。仕方がないので弥生の家に行った。インターホンを押しても、出てくる気配はない。でも、弥生の部屋の電気はついていて、中に人がいる気配がある。
(あ、これあれだな。居留守だな)
そう思った僕は、直接交渉は諦めて家の外から
「『地上庭園』で待ってるから」
と叫んで家に帰った。いつも通りの処置をして、制服のままベッドに寝転がった。倒れ込んだ衝撃を、ベッドのスプリングが和らげる。
(弥生は、僕の苦しみを和らげてくれたのに、僕にできることはないのかな…)
そう思って、言う。
「クサナギより申請,入場,千の塔,1階,地上庭園」
地上庭園は庭園という名称とは裏腹に小さな家が立ち並ぶ住宅エリアだ。中央に大きな塔が
僕は隠れ家に入ってまずアヤの部屋の前に立つ。ノックをして、中に人がいないことを確認する。僕は溜息をつきながら自分の部屋に向かった。僕はそこで少し休憩すると隠れ家を後にした。隠れ家の近くのファーストフード店でハンバーガーと抹茶ラテをテイクアウトで注文し、近くの広場のベンチで食べる。
地上庭園は少し特殊な造りになっている。上から見ると、ワッフルのような見た目になっている。少し高いところに通路があり、そこから少し窪んだところに家がある。脳戦士はその窪みをブロックと呼んでいて、地上庭園には三百ものブロックが存在する。ここは南にあるブロックの一つ『噴水広場』待ち合わせによく使われる所だ。
そこで、ハンバーガーの包みを剥がしていると、
「すみません、お隣よろしいですか?」
と男性が声をかけてきた。
「えっ、あっはい、どうぞ」
僕はそう言って席を詰める。
「待ち合わせですか?」
「はい、まあそんなところです。そちらは?」
(結構フレンドリーな人だな)
と思いながら僕は答えた。
「実は
「事件、ですか」
物騒な言葉に僕の脳が自然と反応する。
「はい。探偵になりたくて、その練習みたいなものです」
「探偵ですか、凄いですね」
どうやらフレンドリーだと思っていたのは、営業的な能力だったらしい。まあ、コミュ障の人に探偵は務まらないだろう。
「いえいえ、子供の遊戯みたいなものですよ。私は今、病気で入院していて、塔の中で軽い事件を解決しているだけです。それにまだ中学生ですし」
僕は驚いた。大人の
「そうなんですね、僕も中学生なんです。同じくらいの歳の人が他人の困りごとを解決しているのに、僕は自分の周りのことすら解決できていない。あなたはすごいですよ、僕とは違う」
「何かお困りごとが?私でよろしければ何か役に立てるかもしれません」
「実は一年前に…」
僕は事件の全てを話した。この人になら話しても良いと思えた。
「なるほど、でしたら犯人の気持ちになってみられたらいかがでしょうか」
「犯人の気持ち?」
男性もとい少年は、立ち上がってこう言った。
「はい、まずお姉さまが殺された778階『空の丘』はあまり有名な場所ではありません、何しろこの世界に入るためには階の名称を言わなくてはなりませんが778階の表の世界は『天空丘陵』であって、『空の丘』は778階の裏の世界です。ですので無差別殺人ではないと考えます。なんてったって、初めに入った人が名前を決めるのに、名前を運だけで当てるなんてまず無理でしょう。よってお姉さまを狙った犯行だと思われます」
そこで少し休んで
「あっ、何かご質問は?」
「やっぱり、姉ちゃんと同じ方法で入ったのでしょうか?」
「はい、お姉様と同じ。『裏口を見つけた』と考えるのが妥当でしょう」
「なるほど...」
「次になぜ犯人はお姉様を狙ったのか、その犯人はお姉さまに対して強い殺意を持っていたのは間違いありません。でなきゃ遺体が燃えるほどの炎は使わないでしょう。なんせ炎が使えるということは犯人逮捕の証拠になります。だからお姉さまは誰かに恨まれていた可能性があります。または、お姉さまが亡くなったことで得をする方がいる可能性があります。そのように推理すれば犯人像が見えてくるのではないでしょうか。まずは相手の気持ちになって、自分はどのような理由があれば人を殺すか、それを考えるとよろしいかと存じます」
少年の言葉から、何か犯人への糸口が見つかったような気がしたが、すぐに見失ってしまった。
「なるほど、そうですね。犯人の気持ち、その発想はなかったです」
「私
と笑った。
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