第311話 呪縛
何の脈絡もなく、突然苦しみだしたエスパルザ。
「な、何が起きたんだ……?」
龍声剣を強く握りしめたまま、俺はヤツの動きを警戒。吐血までしていたのだから演技ってことはないのかもしれないが、それでも油断はならない。
悶え苦しむエスパルザを見つめていたルナリア様は、小さく息を吐いて静かに語り始める。
「やはり、禁忌のアイテムに触れましたか」
「き、禁忌のアイテム?」
「この世界には大きな効果を得る代わりに、それと匹敵する代償を求められることで効果を発揮するアイテムがあるのです」
「そ、そんな物があるなんて……」
アイテムマニアのジェシカでさえ知らないとは。
よほど希少価値がある――というより、きっとその代償ってヤツを恐れて誰も手をつけてこなかったんだろうな。
「百年以上前に死んだはずのエスパルザがよみがえって私たちの前に立っている……恐らく、禁忌とされる蘇生アイテムに手をだしたのでしょう」
「そ、蘇生アイテム……」
確かにそいつは代償が大きそうだ。
現に、エスパルザはあんなにも苦しんでいる。
「はあ、はあ、はあ……」
もはや言葉も話せないほど弱ってしまったエスパルザ。
――だけど、妙だな。
ヤツの魔力は消失する気配がない。あそこまで消耗していたら、普通は魔力も弱まっていくはずなのに。
「もうやめなさい、エスパルザ。あなたが生きるべき時代はもう終わったのよ。これからは新しい世代に託さなくては」
「ル、ルナリア……」
その瞳には恨みが込められていた。
「俺は……俺の力でのし上がっていく……今までコケにしてきた連中全員を見返してやるんだ……おまえの力があれば……」
「あなたは私ではなく、私の持つ女神としての力が欲しかったのでしょう?」
「ぐっ……」
ルナリア様が口にした女神という言葉。
まあ、今更だけど――やっぱり、あの絵本は真実を語っていたんだ。
あの絵本の主人公はルナリア様とエスパルザ。
女神の力に溺れ、何もかも失ったヤツはそれを取り戻すために生前のうちから仕込んでいた蘇生アイテムで現世へと舞い戻り、再び力をつけてきたってわけか。
だが、それももうおしまいのようだ。
「やはり、おまえが……」
「私は女神ですから。あなたの持つ蘇生アイテムを無効化させるなど造作のないこと」
ここへ来て、ルナリア様の声がわずかに震えはじめていた。
非情に徹しようと無表情かつ平坦な声色できたが、とうとう昔の想い人への感情が溢れでようとしている感じがした。
俺はルナリア様へ声をかけようとしたが、「これは私たちの問題ですから」と制止されてしまう。
それはそうなんだろうけど……と、思った矢先、目の前が赤く染められた。
「えっ?」
最初は状況がよく分からなかった。
しばらくして理解する――俺が見ている光景を赤く染めたのはルナリア様の血だった。
「きゃああああああっ!?」
ミルフィの叫び声をきっかけに、周囲は騒然となった。
直後、
「ハハハハハハッ! バカめ! 油断しやがったな!」
倒したはずのベクルスが復活し、自身が持っていたナイフをルナリア様へと投げつけたのだ。
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