第238話 扉の向こう側

 俺の解錠スキルによって開けられた部屋の扉――その先の光景を目の当たりにした時、俺は思わず、


「えっ……?」

 

 困惑の声が漏れる。

 なぜなら、そこには、


「何も……ない?」


 開け放たれた扉の先にある空間――そこには本当に何もなく、ただただガランとした殺風景なものだった。


「ど、どういうことだ!?」

「バカな……こんなことが……」

「長らく王家が守り続けてきた物があるんじゃないのか!?」


 俺たち以上に、騎士たちは混乱していた。

 無理もない。

 彼らはここに国家機密級のお宝があると思っていたが……開けてみたらそこには何もない。その衝撃は計り知れないだろうな。ずっとここを守り続けてきたみたいだし。


 さらにショックを受けているのは、シェンディル国王だ。


「そんな……父上はこれまで一体何を守り続けてきたというのだ……」


 放心状態となり、その場に膝から崩れ落ちる。

 すぐに周りの騎士たちが「陛下!」と集まってきて、体を支える。


「ど、どういうことなの……」

「中身が空っぽっていうことは……誰かに盗まれたのかしら?」

「でも、警備は厳重だって話よ。夜だって、強力な結界魔法を張っていたっていうし」


 イルナとミルフィが話している通り、シェンディル王国はこの部屋を守るために厳重な警戒態勢を敷いていた。それはここ数年のうちに始まったことではなく、長い年月をかけて続けられている。


 そんな状況で、盗んだ痕跡を綺麗サッパリ消し去り、中にあったお宝を城の外へ持ち出すことなど、果たして可能だろうか。


「……………」


 俺はどうしても信じられなかった。

 ――本当に何もないのか?

 

 混乱する周囲をスルーして、俺は部屋の中へと入っていく。そして辺りを見回してみるが、


「やっぱり何もない……」


 これといって不審な点はない。

 ――逆に言えば、そっちの方が不自然なのかもしれない。

 先代国王がこの事態を知っていたかどうかでまた事情は変わってくるけど……最初から何もなかったということはないと思う。

 だが、その何かは痕跡のひとつも見つからない。


「一体どうなっているんだ……?」


 それでもあきらめきれなかった俺は、部屋の隅々までチェックしようとさらに奥へ。


「あっ、フォルトさん」


 そんな俺の行動に気がついたマシロが駆け寄ろうとした――その時、


「きゃっ!?」


 何か躓いたマシロは派手に転倒。


「お、おい、大丈夫か!」


 俺たちは慌ててマシロのもとへ。

 顔面からもろにいったからなぁ……痛そうだ。


 と、


「あれ?」


 マシロの足元に、溝のようなものを発見する。

 どうやらこれが転倒した原因らしいが――


「! もしかして!」


 俺の脳裏に、ある可能性が浮かび上がった。


「どうかしたの、フォルト」

「ここを見てくれ。何か溝のようなものがあるんだ」

「! ほ、本当ですね」


 ジェシカは腰を下ろしてその溝を指でなぞる。

 そして――溝の正体がハッキリすると、


「こ、これは!?」


 目を見開き、新たに浮上した可能性に声をあげた。


 ――そう。

 この部屋は空っぽなんかじゃなかった。

 すべては足元に秘密が隠されていたんだ。

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