第225話 迷いのダンジョン
初心者に優しいと評判だった沼のダンジョンは、もはやその名前とはまったく異なる特徴を有するようになっていた。
コロコロと道順を変えて冒険者たちを惑わすその仕掛けは、まさに迷宮と呼ぶに相応しい。リカルドさんたちが現在探索している大迷宮のダンジョンは、その広大さから大迷宮という名がつけられたが……ここの場合はまったく違う。
ほんの数分前まであったはずの道が消え、まったく新しい道ができている。
そのため、地図は役に立たない。
つまり――俺たちは出口のまったく分からないダンジョンに取り残されてしまったのだ。
「……他の冒険者も、こんな展開になったのか」
このダンジョンの中で、次々と失踪している冒険者たち。ルーファスさんの仲間も、このトラップに引っかかって脱出不可能となったのか。
どうにかして外へ出て、この状況を知らせなければ。
「でも……どうする?」
「闇雲に歩き回っても、無駄に体力を消費するだけです」
「だよなぁ」
こういった事態を想定――しているというわけではないが、ダンジョンへ潜る時には非常食を携帯している。しかも、以前購入した時よりもたくさんのアイテムを保管しておけるファイルを使用しているため、かなりの量がある。この中に入れておけば腐らないっていうんだから、本当に優れ物だ。
とはいえ、楽観視はできない。
食料があると言っても、それはあくまで長期戦に耐えうる備えがあるということ。ここから出られないとなったらそれも意味をなさなくなる。
だが……ここから抜け出せる方法は何も思いつかなかった。
しばらく重苦しい沈黙が流れていたが――
「うん?」
トーネが何かに気づいたようだ。
「どうした?」
「誰かが……近づいてくる」
「えっ?」
俺たちよりも聴覚が優れているトーネには、遠くからこちらへと近づいてくる足音が聞こえたらしい。その話を聞いた直後、
「おーい! 誰かいるかー!」
こちらへ向かって、男性が叫んでいる。
どうやら、俺たちを捜しているようだ。
「だ、誰!?」
「……警戒をしておく必要はありそうね」
驚くミルフィとは対照的に、イルナは拳をガンガンとぶつけながら臨戦態勢をとる。俺も龍声剣に手をかける――が、
「心配はいらない! 俺たちは敵ではない! 君たちを助けに来たんだ!」
その言葉がダンジョン内に響き渡ると、俺たちから闘争心は一気に消え去った。
「た、助けに来たって……?」
「どういうことでしょうか……?」
思わずジェシカと目が合う。
気になったのは、こちらへ近づいてくる男性は「俺たち」と言った。つまり、ひとりではないということだ。そのヒントから、俺たちに近づいてきている人物に心当たりが浮かび上がる。
「もしかして……行方不明になっている冒険者たちか?」
誰も戻ってきていないということは、失踪した冒険者はまだこのダンジョンに残っている可能性もある。
「どうする、フォルト」
イルナの問いかけに、俺は――
「会ってみよう」
そう答えるのだった。
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