第190話 ガーネス・シティへ

 聖騎士団のトップであるフォーバートさんを加え、そうそうたる顔ぶれが揃ったドン・ガーネス討伐部隊。


 終結から一夜明けた翌朝。

 横取り屋のバルテルに誘いだされている途中のカタルスキーさんが、それに乗る形でまずガーネス・シティへと入る。

 さらに、後を追って別のチームが町へ侵入。

 それぞれの合図を待って、出た瞬間になだれ込もうという算段だった。


 ここで重要になってくるのは、ドン・ガーネスの容姿。

 王族でさえ迂闊に手を出せないとされるほどの力を持つガーネスだが、その素顔を知る者は少ない。

 ただ、うちのパーティーにはその数少ない素顔を知る者がいる。

 そう――マシロだ。

 かつて、ドン・ガーネスのお気に入りとしてシアターの歌姫を務めていたマシロは、何度かガーネス本人と言葉を交わしたことがある。当然、どんな外見をしているのか知っているのだ。


 それによると、


「見た目は……小太りの中年男性です」


 とのことだった。

 しかし、当然それだけでは判別がつかない。

 なので、もう少し詳しく容姿を聞き取ることとなった。


 マシロがカタルスキーさんや、先行してガーネス・シティに侵入する者たちへ説明をしている間、俺たちは戦闘準備を進めていた。


 今回、霧の旅団の出番はかなりあとになる。

 ガーネス・シティにいる者たちは、みんなガーネスの息のかかった者たちばかり――言ってみれば手下だ。そんな連中がうようよいるものだから、戦闘になった際はこちらが不利になる。


 ――が、こっちは量ではなく質で勝負する。


 名うての冒険者たちに、聖女ルナリア様の命を受けて合流したフォーバートさんたち聖騎士団をはじめ、頼りになる仲間が集まった。

相手が数の差で押し込んでこようとしても、それをはねのけるだけの力があるメンツであった。


 一方、霧の旅団の中で、俺とミルフィのふたりだけが先行組へ合流する。

 選ばれたのには理由があった。

 俺には戦闘で役立つことを期待されているらしく、ミルフィは数少ない優秀な回復士ヒーラーとして頑張ってもらうとのこと。


 なので、実際に戦闘となった際、俺とミルフィは他の冒険者たちよりも先に危険な場所で戦闘をしなくてはならないという条件であった。


 これについて、霧の旅団のリーダーであるリカルドと娘のイルナが「いくらなんでも危険すぎないか」と猛反発。

 ……それだけ俺たちのことを思ってくれているというのはありがたいが、やはりここは行くしかない。俺たちが突破口を開かなくては。

 

「大丈夫ですよ。やってみせます」

「フォルトの言う通り。任せてください」

「君たち……」


 俺たちの訴えを耳にしたリカルドさんは最初戸惑った様子であったが、すぐに優しい表情を浮かべて頷いた。


「気をつけるんだぞ」

「「はい!」」

「危なかっしいコンビだから心配だわ……」


 イルナにも心配されたが、たぶんイルナほどじゃないと思う。


「よし! 第一陣はそろそろ出発するぞ!」


 カタルスキーさんの呼びかけで、いよいよ俺たちはガーネス・シティへと乗り込む。

 それは同時に、世界を揺るがす大きな戦いの幕開けを意味していた。

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