第176話 トロール討伐作戦

「いけぇ! 邪魔者をすべて食いちぎれぇ!」


 遠くから聞こえるデクスターの声。

 ヤツもここで失敗したまま帰った場合、ドン・ガーネスに何をされるか分かったものじゃないから必死だな。

 ――だからといってこちらが退く気はまったくない。


「危ねぇぞ、坊主!」

「引き返せ!」


 逃げながらも心配して声をかけてくれる冒険者たち。

 彼らとしても、奪われた宝箱を前にして逃げださなくてはいけないという歯がゆさを感じているはず――でも、大丈夫。そんな気持ちはあのトロールと一緒にこの鍵で封じ込めてしまう。


「封印の鍵!」


 俺は鍵に魔力を込めながらそう叫ぶ。

 封印の鍵――それは、かつて砂漠のダンジョンで猛威を振るったアサルトスコーピオンを封じ込めた施錠魔法だ。


「グウ?」


 魔力と声に反応し、トロールがこちらへと視線を移す。

 だが、その時にはすでに準備万端。

 ヤツの頭上にはこれから封じ込められることになる巨大な宝箱が浮かんでいた。


「な、なんだ、あの宝箱は!?」

「宙に浮いているぞ!?」

「どうなってんだ!?」


 逃げ惑っていた冒険者たちだが、冒険者としてのさがなのか、突如現れた巨大宝箱に関心が向けられる。

 

「やっちゃえ、フォルト!」

「頑張って!」


 イルナやミルフィたちはこの力を以前目の当たりにしているため、これから何が起こるか分かっているようだ。――ただひとり、新入りのトーネだけは初見のため、マシロが宝箱についていろいろと説明していた。


「い、一体何をするつもりなんだ……」


 いつの間にか姿を現していたデクスターも、口を半開きさせながら宙に浮かぶ宝箱を見つめている。

 が、それを冒険者たちに見つかり、あっという間に身柄を拘束された。何をやっているんだか……。


 ともかく、これでひとつ不安材料は払拭された。

 あとはあのトロールを封じ込めるだけだ。


「いけぇ!」


 俺が叫ぶと、トロールの足元――無数の黒い鎖が地面を突き破ってその巨体に巻きついてがんじがらめにする。


「グオオオオオオオッ!」


 なんとか振りほどこうと暴れるが、魔力でガチガチに強化している鎖はたとえ力自慢のトロールであっても破壊できる強度ではない。


「残念だったな」


 暴れているトロールへそう言うと、ヤツは鎖とともに宝箱の中へと吸い込まれていく。それを見届け、宝箱がゆっくりと俺の目の前まで下りてきたら女神の鍵でしっかり施錠して討伐は完了だ。


「す、すげぇ……」

「モンスターを宝箱の中に封じ込めやがった……」


 トロールによる脅威が去ったことを認識した冒険者たちは一斉に歓声をあげる。ちなみに、デクスターはボコボコにされた挙句、魔力の練られたロープで厳重に縛られていた。


 それから、イルナたちが俺のもとへと駆け寄ってくる――が、その後ろから屈強な冒険者たちが雪崩のように押し寄せてきてもみくちゃに。


「よくやってくれた、坊主!」

「おまえそんな凄い力を持っていたのか!」


 冒険者らしいというべきか、バシバシと叩かれながら手荒く褒められた。

 奪われた宝箱もそれぞれのもとへ戻ったようだし、これで一件落着かな。



 ――とは、いかないだろう。

 なぜなら、最後のどさくさに紛れて、バルテルが姿を消していたのである。


 横取り屋のバルテル。


 ヤツとはいずれ決着をつけなくちゃいけないな。

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