第156話 解錠士《アンロッカー》として

「いつかは直接お会いしたいと願っておりましたが……いやはや、このような形で実現するとは夢にも思っていませんでした」


 マルクスさんは感慨深げに言う。

 でも、バッシュさんと知り合いで、俺のことを聞いているなら話は早い。


「先ほどのA級解錠士アンロッカーっていうのは……バッシュさんが定めた新しい規定なんですか?」

「厳密に言えば、彼はそれを決める判定員のひとりです。これまで、解錠士アンロッカーとは、その役割の持つ重さに対し、実に曖昧な存在でした」

「曖昧な存在?」


 その意味を理解しきれなくて、俺はマルクスさんに問う。


「騎士にとっての騎士団や、冒険者にとってのギルドのように、我らを統括するような組織はありません。常にフリーで、報酬の規定もバラバラ……そのせいで、ドン・ガーネスのような、悪徳な解錠士アンロッカーを生んでしまう」


 それはバッシュさんも危惧していた。

 解錠士アンロッカーへの集権化。

 これにより、一部の解錠士アンロッカーが強大な力を得ることとなる。その力を平和的に使えればいいのだが、ドン・ガーネスのように争いを生みだすような行いを繰り返す解錠士アンロッカーも少なくない。


 バッシュさんはこの現状をどうにかしようと奔走していた。

 自身も王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーでありながら、大貴族であるフローレンス家と協力体制を取り、強大な解錠士アンロッカーたちと真っ向から戦おうとしている。

 氷雪のダンジョンで出会った、同じく王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーの力を持ったウィローズのように、こちらの考えに賛同して協力しくれる解錠士アンロッカーを増やすことが急務となっていた。


 そんな中で、解錠士をレベルごとに階級分けするという試みを実施しているらしい。

 それを実行しているのが、「協会」と呼ばれる組織。


「先ほど言っていた、協会というのは?」

解錠士アンロッカー協会のことです。将来的には、世界中の解錠士アンロッカーがここへ登録し、こちらで定めた規定に従ってもらいたいと考えています。もちろん、彼らの活動の支援も行っていくつもりですよ」

「その組織の代表者って、どんな人なんですか?」

王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーとして世界でもトップクラスの実力を持ち、その慈悲深さと美しい容姿から【聖女】と呼ばれるルナリア様です。バッシュも私も、彼女の考えに賛同しています」


 聖女ルナリア。

 世界トップクラスの解錠士アンロッカーか。


 もしかしたら……その人なら、俺の持つ女神の鍵について何か知っているのかもしれないな。


「すべてはまだ試験段階。それに……強権を持つ解錠士アンロッカーたちは、我々の考えに反対するでしょう」

「……でしょうね」


 せっかく手に入れた莫大な富が失われるかもしれないものな。

 ……でも、この世界では、宝箱からドロップするアイテムが人々の生活に多大な影響をもたらす。だから、冒険者はダンジョンに潜り、命懸けでお宝をゲットする。しかし、その中身を手に入れるためには、解錠士アンロッカーへ解錠の依頼をしなければならない。


 そこで依頼を受けられなければ――せっかく手に入れた宝箱は、何の意味も持たなくなってしまう。

 それを知っているから、一部の解錠士アンロッカーは法外な報酬を要求する。それが繰り返されることで、人々の生活は困窮していくのだ。


「…………」


 聖女ルナリア、か。

 まだ会ったことはないけど……その考えには俺も賛同できる。


「……マルクスさん」

「なんだい?」

「その聖女ルナリア様には――どこへ行けば会えますか?」


 自然と、そんな質問が口をついたのだった。

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