第149話 世界一狭いダンジョンの謎

 歩く広さもないほど狭い、ハーシェ村近くのダンジョン。

 しかし、ここでふたりの人間が行方をくらましている。


 ひとりはアイテム屋の店主でアメリーの父親。

 もうひとりは――俺たちの大事な仲間であるイルナだ。


 その行方を追うため、あのダンジョンの秘密を探ることになったのだが、思いがけないところでヒントを得ることになった。


「この絵にヒントがあるんですか?」


 俺たちが宿泊している宿屋。

 その食堂に飾られている一枚の絵画。

 以前、この村を訪れた旅の絵描きがお礼に残したというその絵を眺めながら、ジェシカが俺に尋ねる。


「ああ……確証があるわけじゃないけど、アメリーのお父さんとイルナに共通点を見つけたんだ。きっと、それがあのダンジョンの謎を解く鍵になっているはず」

「共通点って……」

 

 ジェシカに続き、ミルフィ、マシロ、トーネの三人も絵を見つめる。

 その時、


「あっ!」


 ジェシカが声をあげた。


「ジェシカ、もしかして……共通点が分かったの?」

「はい! ミルフィさん、アメリーさんのお父さんの手を見てください」

「手? ――あっ!」


 ジェシカのヒントを受けたことで、ミルフィたちも気づいたようだな。

 一見すると、何ひとつないように思えるふたりの共通点に。


「この人の武器……イルナと全く同じだわ」


 そう。

 アメリーの父親は、イルナと同じようにナックル・ダスターを装着して戦う、近接戦闘を得意とするタイプだったようだ。


「同じ武器で同じ戦い方をするふたりが消える……それが、ふたりを追うヒントになるってわけね」

「そういうことだ」


 今の段階で分かることはここまで。

 あとは、これを参考にしてあのダンジョンをもう一度調べるんだ。




 宿屋を出た俺たちは足早に例のダンジョンへと向かう。

 周囲に人の気配なく、ポツンと寂しげにそのダンジョンは俺たちを待っていた。


「よし……」


 到着早々、俺は右腕にある武器を装備する。

 それは、聖女の拳を手に入れる前までイルナが使用していたナックル・ダスターだ。


「あっ、それってイルナさんの」

「このダンジョンを探索するにはもってこいだろ?」

「で、ですが、それで一体何を……?」

「この壁を殴るんだ」

「壁を……ですか?」


 マシロがキョトンとした表情で俺を見つめる。


「殴るか、あるいは触れるか……とにかく、ふたりに共通している武器でこの壁に接触すれば、何か起こるかもしれない」

「なるほど……そういうことなら、フォルトに任せるわ」

「お願いします、フォルトさん」

「頑張って、フォルト」

「おう」


 女子たちからの声援を受けて、俺は拳を構えた。

 そして、目の前にあるダンジョンの壁に向かって、


「はあっ!」


 ナックル・ダスターを装着した拳で殴る。

 その直後――目の前の壁が突然光りだした。


「なっ!?」


 それに驚き、俺は思わず後退。

 だが、それを許さないとばかりに、光はいくつもの触手に姿を変えて俺の全身を覆いつくした。


「フォルト!?」

「今助ける!」


 いち早く動きだしたミルフィとトーネが手を伸ばす。それを掴もうと、俺も手を伸ばすのだが――ギリギリのところで間に合わなかった。


「ぐっ!」


 俺は壁に飲み込まれる直前、咄嗟にナックル・ダスターを外してミルフィたちに向かって投げた。

 ともかく、これで移動手段は判明した。

 俺は一足先にこのダンジョンの真の姿を拝ませてもらう――そして、この光の先にいるだろうイルナを救いだしてみせる。

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