第142話 結びつく想い

「タチの悪い王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーは多いですわ。その中でも、群を抜いて悪評が目立つのがドン・ガーネスという男……」

「俺たちも、これまで何度もその名を聞いたよ」


 主にマシロ絡みの案件だが、最近ではフローレンス家ご令嬢の件でもその名を耳にしたな。厳密に言うと、その男が雇っていると思われる呪術師についてだが。


 ウィローズは家族を元の姿に戻すため、解錠士アンロッカーとなった。

 そのため、ドン・ガーネスのような外道は許さない、という強い信念を持っているようだ。


 そんなウィローズに、俺は紹介したい人物がいた。


「なぁ、ウィローズ」

「なんでしょう?」

「バッシュという名前の王宮解錠士【ロイヤル・アンロッカー】を知っているか?」

「名前だけは聞いたことがありますわね」


 俺たちにいろいろとアドバイスをくれ、今もドン・ガーネスのような悪徳解錠士【アンロッカー】の撲滅に動いている人物だ。フローレンス伯爵からも信頼を置かれており、期待の若手といえるだろう。


 ウィローズには、その志がマッチするのではないかと考えた。

 バッシュさんにフローレンス伯爵も、同志を募っていると言っていたし、ウィローズは適任じゃないかな。


 俺はそのことをウィローズへと語った。

 最初はこちらの話を黙って聞いていたウィローズだが、次第にいろいろと質問が飛んでくるようになり、少なからず関心を抱いたようだった。

 そして、話を終えると、


「実に興味深いですわね」


 と言って笑みを浮かべた。


「そのバッシュという方の考え方には共感を覚えますわ」

「! やっぱり、君ならそう言ってくれると思ったよ」

「スノー・フェアリーで家族を元の姿に戻したら、その方と一度お会いしてみましょうか」


 そう語ったウィローズだが……もしかして、


「ウィローズは、冒険者を続けるつもりなのか?」


 かつてのように貴族とはならなくても、家族みんなで平穏に暮らせる。

 そちらの道を選ぶと思ったが……どうやら違うようだ。


「わたくしは今の冒険者としての生活がとても気に入っていますの。それに……この子たちを置いてはいけませんわ」


 彼女の言う「この子たち」というのはパーティーメンバーのことを指している。

 なんでも、パーティーの女の子たちもまた、いろいろと訳ありで、行くあてのない子たちをウィローズが引き取り、行動を共にしているらしい。それこそ、俺たちでいうマシロのような存在だった。


「そういうわけですので、またどこかのダンジョンでお会いできる日が来ることを楽しみにしていますわ」

「こちらこそ」


 俺とウィローズは固い握手を交わす。

 同じ解錠士アンロッカー同士、さらには同じ思いを共有する仲間として、これからも会う機会はあるだろう。



 氷雪のダンジョンでの冒険は、俺たちにとって多くの収穫を与えてくれた。

 ひとりはパーティーメンバーのトーネ。

 そしてもうひとつは、志を同じとする王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーのウィローズだ。


 どんなお宝よりも、価値のある出会いとなった。


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