第130話 スノー・フェアリー

「マ、マッスルスライムが父親って……」


 そんなこと……あり得るのか?


「あり得ないでしょ!?」


 最初に叫んだのはイルナだった。


「モンスターから人間の子どもが……う、生まれるわけがないじゃない!」

「えっ!? そうなの!?」


 なぜかトーネが大きなショックを受けていた。


「これこれ、トーネ。おまえはワシの正体を知っておるじゃろ」

「しょ、正体だって?」


 やっぱり、


「そ、そりゃそうよね。モンスターと人間の間に子どもができるわけがないもの」

「……果たして、本当にそうでしょうか」


 イルナの言葉に異を唱えたのはジェシカだった。


「ハーフエルフやハーフドワーフという言葉もあります。ハーフモンスターという存在がいても不思議ではない気が……」

「いやいや! エルフやドワーフは人間と外見があまり変わらないじゃない! モンスターはほら……ネバネバしていたり、触手がいっぱいだったり……そ、そんなのと、しなくちゃいけないんでしょ?」

「? しなくちゃ、というのは何を指すんですか?」

「へっ!? そ、それは……ほ、ほら、子どもができるってなったら、することがあるでしょ!」

「はて? 私には皆目見当もつきませんので、ご教授願えませんでしょうか」

「んなっ!?」


 ……ジェシカのイルナいじりはさておいて。

 冷静に考えて、モンスターから人間は生まれない。

 それ以前に、こうして普通に会話していることがあり得ないのだ。


 ということは……


「あなたは……元人間ですね」

「……うむ。わけあって今はマッスルスライムの姿をしておるが、それはそれはハンサムな冒険者でなぁ」

「パパは呪術師にそそのかされてモンスターの姿になったの」

「……愛娘よ。もう少し言い方というものがだな……」


 トーネに暴露されてシュンとなるゴルディンさん。

 って、待てよ。

 呪術師といえば……


「そういえば……フローレンス伯爵の娘のライサも……」


 精神解錠メンタルアンロックの力で救ったライサ。

 彼女も呪術師の手によって苦しめられていたな。


「背後にいるのは……ドン・ガーネスか」

「!? しょ、少年、あまりその男の名を口にするものじゃないぞ」


 ゴルディンさんはドン・ガーネスに対して恐怖心を抱いているようだ。

 やはり、あの男は冒険者たちにとって相当厄介な存在なのだろう。


「うん? 呪術ってことは、もしかして……ゴルディンさんたちもアイス・フェアリーを求めて?」

「まあのぅ。かれこれ五年になるか」

「ご、五年!?」


 そ、そんなに探し回っているのか……。


「何せ、いつ咲くのか分からない上に、咲いているのはほんの数分のみ。おまけに場所はランダムで法則性がないときている。運任せに探し回っても、そう簡単には見つからないんじゃ」


 実際にやっている本人が言うんだから説得力がある。

 

 ――でも、そういう事情があるなら、俺たちもそのスノー・フェアリーをターゲットにしてみようか。

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