第101話 バカンス

 フローレンス伯爵からの新たな依頼。

 その内容は、伯爵が所有する孤島でバカンスを満喫するというものだった。


「――って、いいのかなぁ、ホントに」

「いいじゃない。塔のダンジョンと霧のダンジョンを攻略したご褒美だと思えば♪」


 イルナもすっかりバカンスモードだな。

 

「それより……ねぇ?」

「うん?」

「何か言うことがあるんじゃない?」


 そう言うと、イルナはその場でクルッとターンを決めてみせる。そして、


「どう?」


 と、尋ねてきた。

「どう?」というと……


「いい感じに引き締まっているな。日頃の冒険で相当鍛えられている」

「そ、そう? ――って、違う!」


 怒らせてしまった。

 俺としては褒めたつもりだったんだけど……


「はあ……ミルフィが苦労するわけだわ」

「えっ? ミルフィが?」

「そうよ」


 拗ねたように言うイルナ。

 すると、そこへ他の三人も合流した。

 そして、落胆しているイルナの様子を見た三人は何かを察したようにため息を漏らす。


「ダメですよ、イルナさん。フォルトさんに抜け駆けは通じませんから」


 ジェシカが諭すように語ると、イルナの顔は一気に赤くなる。


「は、はあ!? 抜け駆けとか意味分かんないんだけど!?」

「さすがにそれは無理があるかなぁ」

「はい……」

 

 イルナの主張に対し、肩をすくめるミルフィとマシロ。

 一体何のことなのか……俺にはサッパリだ。


 イルナ、ミルフィ、マシロが話し込んでいると、こっそりジェシカが近づいてくる。


「フォルトさん。いいことを教えてあげますね」

「いいこと?」

「はい♪」


 なんというか……悪い笑顔だな。


「この後、みなさんのことをトコトン褒めてあげてください」

「褒める? でも……」

「どうかしました?」

「さっきイルナを褒めたつもりだったんだけど……逆に怒らせちゃったみたいで」


 褒めたつもりが怒らせてしまった。

 これじゃあ逆効果だ。

 しかし、


「問題ありません。というか、イルナさんは怒っていませんよ。むしろ喜んでいると思います」

「えっ!? そうなのか!?」


 全然そんな感じに見なかったけどなぁ……


「自信がないというなら、試しに私を褒めてみてください」

「ジェシカを?」

「はい。褒めるところがないかもしれませんが……」

「そんなことはないよ」


 表情に影の落ちたジェシカへ、俺は言われた通りこれまでの付き合いから知ることのできたいいことを告げた。

 それはもう、これでもかと。

 ジェシカの表情は最初こそ平然としていたが、徐々に先ほどのイルナと同じように赤くなっていき、


「あ、あの、そろそろ……」

「あともうちょっとだけ」


 せっかくだから、これまでの冒険を手助けしてくれたジェシカの功績をたたえた。日頃どれだけ頑張っているのか、それが俺たちにとってどれだけ助けになっているのか、俺だけじゃなく、ミルフィもイルナもマシロも同じように思っているということも。


「~~~~っ!!」


 ついに声を発しなくなったジェシカを見て、やりすぎと気づいた俺はそこでようやく褒めることをやめた。



 ――ちなみに、一部始終を見ていた他の三人からもジェシカと同じように褒めてもらいたいという要望が出たため、とりあえず日を改めて行うと約束し、その日は日が暮れるまで遊んだのだった。

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