第92話 厄介事

 霧のダンジョンを攻略し終えた俺たちのもとへやって来たのは、王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーのバッシュさんだった。


「バッシュさん!? どうしてここに!?」

「まあ、いろいろあってな」

「なんだ、君たちの知り合いか。ならば話は早い。ささ、入ってくれ」

「いいのかい? なら、お邪魔します」


 ダンジョンが攻略されたことで上機嫌なうえ、俺たちとバッシュさんの関係が悪くないと見たペドロさんは、彼を家の中へ招き入れる。

 

「おまえさんも冒険者かい?」

「いや、俺は王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーだ」

「そうかそうか――って、王宮解錠士ロイヤル・アンロッカー!?」


 バッシュさんの肩書を耳にした途端、ペドロさんは大きく動揺。

 一般市民からすれば、王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーって雲の上の存在だからなぁ。そもそも普通の解錠士アンロッカー自体も割と珍しいんだけど。


「まあそう身構えなさんな。確かに王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーにはその立場を利用したクズ野郎が多いけど、俺は違う」


 バッサリと切り捨てるバッシュさん。

 相当他の同業者を嫌っているな。

 ……マシロの話を聞いたら、それも理解できるけど。


 ――って、そうじゃない。

 本題に移ろうと提案する直前、再びバッシュさんが口を開いた。


「聞いたぜ……君たちの快進撃。砂のダンジョンだけでなく、あの塔のダンジョンまで攻略するとはな。しかも、今はZランクに指定されている霧のダンジョンへ潜り――なかなかの成果を得たようだな」


 バッシュさんはお見通しだった。

 とはいえ、恐らくその情報の出所はリカルドさんか、或いは懇意にしているらしいフローレンス伯爵か。


「今回はその功績を称えに来た――と、言いたいところだが、ちょいと厄介な情報を耳に挟んだんで、知らせておこうと思ってな」

「厄介な情報?」

「君とミルフィの元仲間――レックスといったか」

「「!?」」


 俺とミルフィの表情は一気に強張る。

 今の俺がいるのはある意味あの男のおかげではあるが……たまたま幸運が重なっただけで、普通ならあのままモンスターの餌食になっていたからな。そのレックスも、塔のダンジョンで騎士団に捕まり、今は牢獄にいるはずだ。


 もしかして、


「レックスが脱獄でもしたんですか?」

「いや、あいつは大人しく牢屋でメソメソしているよ」


 メソメソって……。


「問題があるのは、そのレックスを裏で操っていた連中のことだ」

「! まさか――」

「そのまさか、だ。……同業者だったよ」


 王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーが黒幕に控えていたのか。


「今、騎士団と協力してそいつの手足とも呼べる冒険者パーティーを捜索中だ。近いうちに見つけだしてやる」


 瞳に闘志の炎を宿らせるバッシュさん。

 だが、わざわざそれだけを俺たちに伝えてきたとは思えない。

 ……ここまでのやりとりで、俺の頭にある考えが浮かんでいた。


「もしかして、その黒幕というのは――ドン・ガーネスですか?」

「! 察しがいいじゃないか」


 やっぱり。

 マシロを歌姫として無理やりシアターで歌わせていた、あのドン・ガーネスがバックにいるのか。


 これは確かに、相当厄介な案件になりそうだ。


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