第89話 隠されたその先に


 霧のダンジョンの最奥部――そこの壁の一部がキラキラと輝いているのを。


「あれは……」


 塔のダンジョンで、塔内部へ侵入するための魔法陣があった隠し部屋。それを見つけた時も、あの壁のように光っていた。ということは、


「やっぱり……このダンジョンにはまだ謎があるな」

「? どうかしましたか、フォルトさん」


 ジェシカの問いかけに、俺は頷くことで返事とした。

 察しの良いジェシカやミルフィは、その反応だけで何を発見したか悟ったようだ。


「まさか……隠し部屋ですか?」

「その通りだ」


 ジェシカの質問に答えると、他のみんなから「おお!」と歓声が上がる。


「お宝のある部屋か、塔のダンジョンのように別の場所へ繋がる魔法陣のある部屋か――できることなら前者を望むけど」


 そう言いながら、俺たちは光り輝く壁の前に立つ。

 正確な位置をイルナに教え、そこに向かって渾身の一撃をお見舞いしてもらった。ガラガラと崩れ落ちた岩壁の向こうに――狙い通り、鍵のかかったドアが出てきた。


 そのドアも俺の鍵であっという間に開け、中に入ってみると、


「……どうやら期待外れのようね」


 イルナが言うように、望んでいた宝箱はそこになく、床に描かれた魔法陣が怪しげな光を放っていた。


「この魔法陣はまだ生きている……どこかに繋がっているみたいだな」

「どうする? ここまでまだ戦闘はしていないから、みんなの気力も体力も十分にあるけど……」


 こちらに判断を仰ぐミルフィ。

俺としても、やっぱりこのまま手ぶらで帰るというのは気が引ける。

せっかく霧が晴れても、何もないのであればそれはそれで問題だ。

……ペドロさんのためにも、せめて何か成果を持ち帰られないと。


「よし。もっと奥へ潜ってみよう」


 俺がそう言うと、全員が「おぉ!」と揃って返事をした。

 というわけで、早速魔法陣の先へと向かうことにしよう。


「行くぞ」


 まず俺が先頭になって魔法陣へと足を踏み入れる。

すると、全身は光に包まれ、視界がそれに覆われたと思った直後、まったく別の場所へ移動していた。塔のダンジョンの時とまったく同じ現象だ。


「ここは……」


 塔のダンジョンでは塔の内部へ移動したが、今回はまったく別のダンジョンへ移動したみたいだな。


「どこなんだ……?」


 辺りを見回してみると、ほんの二、三メートル先に出口らしきものが見えた。淡い光が入り込んでいるそこへ足を進めていくと、


「うおっ!?」


 思わず驚きの声が漏れた。

 そこは深い森の中だった。地上でも滅多にお目にかかれないサイズの巨大な木々が立ち並んでいる。


「本当にダンジョンの中なのか……」


 砂漠のダンジョンや塔のダンジョンの時も思ったけど……ここはまた一段とそうした疑問を浮かび上がらせる。


「これが霧のダンジョンの本来の姿……なの?」


 あとからやってきたイルナがそう口にする。

 

「まだなんとも言えないが……その可能性が高いな」


 それでも、ここが聖窟である以上、宝箱をドロップするモンスターはいるだろう。調査がてら、パーティーが揃ったらここらあたりを散策してみよう。

 しばらくすると、


「うわっ! 凄いですね!」

「随分と大きな木ね」

「こ、これほどのサイズは初めて見ます……」


 ジェシカ、ミルフィ、マシロが新しい聖窟の第一印象を語っていく。

 ――というわけで、早速本題へと移ろう。


「全員揃ったみたいだから、この辺りを調べてみよう。ただ、いつどこでモンスターが出てくるか分からないから、みんな周りには注意するように」

「「「「はーい」」」」


 なんとも元気のいい返事だ。

 ……さて、何が出るかな。

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