第85話 難敵

「ここが霧のダンジョンか……」


 たどり着いたダンジョンの入口をチェック。

 外観については特に変わった箇所は見受けられない。他の聖窟と大差ない、至って普通の聖窟に見えた。


「今からここへ入る。――分かっているとは思うけど、油断はしないように。常に周りに注意を払いながら進むぞ」


 俺の呼びかけに、全員が即座に返事をした。

 それを確認してから、霧のダンジョンへと足を踏み入れる。


「……外観同様、他のダンジョンとあまり変わらないわね」

「ホントですね……」

 

 イルナとジェシカの抱いた第一印象の通り、特に目立った様子はない。ここまでなら、過去に潜ったダンジョンの中でも地味な部類に入る――が、まだその名の由来となった霧は発生していない。



 二十メートルほど進んだが特に異変はない。

 さらに進んでも何もない。


 ――五十メートルくらい進んだ時だった。


「あれ?」


 辺りに広がる白い霧。

それは徐々に周辺一帯を包み込み、視界が狭まっていく。


「ついに来たな……」


 これが霧のダンジョンたる所以。


「ちょ、これ、まずいんじゃない!?」


 イルナが叫ぶ。

 霧はだんだんとその濃さを増していき、視界から得られる情報を制限していく。


「みんな、はぐれないように俺の近くへ来るんだ!」


 咄嗟に、俺はそう指示を出した。

 ここではぐれたら見つけるのは至難の業だ。

 みんなが俺を囲むように集まって来た――その直後、

 

「ゲゲェ!」


 モンスターと思われる生物の鳴き声がこだまする。


「!? どこからだ!?」


 霧が邪魔をして、モンスターを視認できない。そうこうしているうちに、モンスターの鳴き声はその数を増やし、そしてボリュームが大きくなっていく。

 こちらには圧倒的な防御力を誇る破邪の盾があるのだが……いつどこから襲ってくるか分からないという恐怖は消えない。


「フォ、フォルト……」


 珍しく弱々しいミルフィの声。

 姿が見えないというだけでこうも戦いにくいものか。

 不安を煽るかのように、モンスターの声はさらに増え、大きくなっていく。さらには地面がわずかに揺れ出した。なんてことだ……それほど巨大なモンスターが接近してきているということかよ。


 アサルトスコーピオンやアイアンビートルのような大型モンスターとだって渡り合ってきた俺たちだが、さすがにこれ以上は――


「みんな、一時撤退する! 竜の瞳を使うから俺に掴まれ!」


 俺は撤退を選択した。

 一斉に俺の服を掴むメンバー。全員いることを確認して竜の瞳を使用し、ダンジョンの入口まで戻った。


「こ、怖かったです……」

「わ、私も……」


 ジェシカとマシロがその場に崩れ落ちる。

 他のメンバーも、恐怖に彩られた表情をしていた。


 霧のダンジョン――これは思った以上に攻略難度の高い聖窟のようだ。

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