第83話 思惑

 俺たちの次なる挑戦は霧のダンジョンに決まった。


 しかし、このダンジョンはかなり曲者のようだ。

 何せ、これまでに挑戦したことがない、Zランクのダンジョン――つまり、攻略方法が確立されていないダンジョン。


 フローレンス伯爵は俺たちを指名した。

 長らく攻略されておらず、もうしばらくすれば同じくZランクに振り分けられる予定だったという塔のダンジョンを攻略したからだ。


 ダンジョンが増えれば、冒険者が増える。

 冒険者が増えれば、町が活性化する。

 伯爵の狙いはそれだった。


 しかし、フローレンス伯爵は冒険者たちに対してリスペクトのある珍しい人物だ。

 このジェロム地方にあるダンジョンとギルドでは、領主であるフローレンス家が全面的にバックアップしている。それは、これといった鉱産資源や目立った産業がない分、冒険者たちによる活性化を期待してのことだろう。


 リカルドさんは、フローレンス伯爵のこうした姿勢に感銘を受けているようだ。


 塔のダンジョンに続き、霧のダンジョンを攻略できたとなったら、俺たちの株も大きく上がるだろう。


「霧の旅団が霧のダンジョンに挑む……シャレが利いていて面白いじゃない」


 霧のダンジョンへ向かう道中、イルナは鼻息も荒くそう語る。

 もちろん、他の三人も気持ちはたかぶっていて、パーティー全体の士気はとても高かった。理想的な精神状態と言えるだろう。


 何より、俺たちには自信が芽生えていた。


 塔のダンジョンでの戦闘と謎解き。

 そして、新しい鍵の力――絶対解錠アブソリュトリー・アンロックも加わった。

 間違いなく、今の俺たちは上昇気流に乗っている。


 意気揚々としている俺たちを乗せた馬車は、やがて何もない、殺風景な平原へと出た。


「ね、ねぇ、フォルト。本当にこの道で正しいの?」


 心配そうに尋ねるミルフィ。

 だが、


「リカルドさんからもらった地図だと、この道で合っているはずなんだけど……」


 何度確認しても、ルートに間違いはない――はずなのだが、周りの風景は俺たちの不安を加速させるように何の代わり映えもしない。


「ど、どうなっているんだ……」


 少しずつ焦っていく俺たち。

 だが、ようやく前方に村らしきものが見えてきた。


「建物がいくつも……きっとあそこが目的地だ」

「さすがはZクラスですね。こんな辺鄙なところにあるなんて」


 うんざりしたようにジェシカは言う。

 まあ、実際、ダンジョンのランクと交通の便は関係ないのだろうが、そう思っても仕方がないくらい、ホント何もなかったからな。


 馬車はさらに進み、いよいよ村へと到着。

 ――が、


「あ、あれ?」


 村へと着いたが……誰もいない。

 遠くから見えた建物は、もはや廃墟同然。

 人の気配などまるでなく、不気味な静けさが支配していた。


「ちょ、ちょっと、何なのよ、ここ……」

「ど、どど、どうしましょう、フォルトさん……」


 イルナとマシロは完全に怯えていた。ミルフィも、ふたりほどではないが、この異様な村の光景に驚きを隠せない様子。

 

「……探ってみる必要がありそうだ」

「ですね」


 意外と平気そうなジェシカと共に、村の中をいろいろと調べてみることにした。

 

「ダンジョンへ潜る前のいい準備運動になる」


 そう言いながら馬車から降りた直後、近くの廃墟からガタガタと物音がした。


「! 何かいるぞ!」


 俺とジェシカ、そしてミルフィは戦闘態勢へと移る。

 やがて、物音の正体が俺たちの前に姿を現した。

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