第30話 地下探索

 薄暗く、わずかな湿り気を感じる空間を慎重に進んでいき、たどり着いた先は――広い空間であった。


「一見すると普通の宿屋なのに……地下にこんな場所があったなんて……」

「ホントね」

「ちょ、ちょっと肌寒いですね……」


 ひんやりとした青白い岩肌に、俺たち三人の声が反響してなんとも言えない不気味な空気を漂わせている。

 さらに進んでいくと、足元に「ぐにゃっ」とした感覚が。


「うおっ! ……びっくりした。木の根か」

「ず、随分太い木ね」

「なんの木でしょうか」


 イルナとジェシカが興味深げに足元を見つめる。

 ……って、ちょっと待てよ。

 これだけデカい根っこがあるなら、地上に木の幹が出ているはず。それも、根を見る限りかなり大きなもののはず。

 しかし、待ちのどこにも、そんなものは見当たらなかった。

 じゃあ、これは根っこだけ?

 一体なんで……。

 そのうち、ジェシカが何かに気づいたようで、ハッと顔を上げる。


「どうした、この根に見覚えでもあるのか?」

「ちょっと昔の噂話を思い出したんです」

「噂話?」

「うん。恐らくここは……聖樹の違法栽培現場に間違いありませんわ」


 聖樹?

 聖樹って、この前、ウッドマンを倒した時にドロップしたアレか。つまりこれはアレの超巨大バージョン?

 

「それを栽培しているって? この根がその聖樹の根ってことか? しかも違法って」

「ご存知とおもいますが、聖樹の根は高値で取引されます。なので、違法に栽培されるケースがあるんです」


 なるほど。

 だけど、素朴な疑問がある。


「聖樹なんて、そう簡単に栽培できるのか?」

「もちろん、無理です。違法品のどれもが酷い粗悪品で、呪術が効かないどころか、別の弊害をもたらす可能性もあるらしいです。だから、高額なドロップアイテムは資格を持った鑑定魔法持ちから、正式な鑑定証を出してもらわないと買い取ってくれないところもあります」


 粗悪な違法品が出回っているのなら、それくらい慎重になるよな。


「ちなみに! 私は鑑定スキル持ちなんですよ!」

「そうなんだ」

「鑑定スキル持ちなんです!」

「あ、うん」


 なんか凄いアピールしてきたな。


「ふーん……鑑定スキル持ちかぁ」


 お?

 イルナは興味があるっぽいな。


「って、それは置いておくとして……その鑑定スキルでチェックしたから、これが偽物だと断言できるわけね」

「はい!」

「しかし、それがなんだってまたこんな地下に?」

「たぶん、売り上げが芳しくなくて、栽培を途中で放棄したんでしょ。それが、ここまで成長してしまったってわけね」

「幸いというか、この町には成長に必要な綺麗な水が豊富にあります。恐らく、周囲の土から水分を吸収し、今日まで枯れることなく生きてこられたみたいですね」

「ふむふむ。聖樹の違法栽培の現場っていうのは理解したが……モンスターはいないみたいだな」

「そうね」


 噂だと、モンスターが存在しているはず。

 もう少し周辺を調査してみようと歩きだしたら、


「きゃあっ!」


 ジェシカの叫び声が轟く。

さらにその直後、


「きゃっ!」


 今度はイルナが短い悲鳴を残して姿を消した。

 敵の気配を察知していなかった俺たちは、何者かの不意打ちを食らったようだ。消えたふたりの姿を探し、上を見上げた。

 すると、


「なっ!?」


 聖樹の木の根はまるで触手のようにウネウネと動き、イルナとジェシカをガッチリと捕まえていた。


「こ、この木、生きてるのか!?」

「た、たぶん、非合法の肥料を与え続けて無理矢理成長させた副作用だと思われます!」


 捕まりながらも、ジェシカが解説してくれた。


 唯一自由の身である俺は戦闘態勢を整える。

 聖樹はわずかに動きながら、唸り声のような音をあげている。

あれって鳴き声なのか? 

迂闊に飛び込むマネは避けたい。

ここは慎重に、相手の動きを見ながらじっくりと――


「いやぁっ!」


 再び轟くイルナの叫び。

ただ、さっきとは微妙に感じが違う気が。何が起きたのかと目を凝らしてみると、


「うおっ!」


 俺は思わずのけ反った。聖樹から漏れる金色をした樹液のようなものが、イルナとジェシカの服を徐々に溶かしていたのだ。


「ふ、服が……服が溶けてるます!」

「ちょっ!? それはないんじゃない!?」 

 

 ドロドロ溶けていくふたりの服。 

 こりゃ悠長に構えている暇はなさそうだ。


「……ジェシカの方がイルナより大きいのか……」

「フォルト!! 何か言ったぁ!?」

「い、いえ、何も! すぐに倒します!」


 聖樹(偽)に向かって突進しようとすると、


「そこまでだ!」


 俺の動きを止める者が現れた。

 振り返ってその正体を確かめてみると、そこには意外な人物が。


「ガルトンさん!?」


 俺たちにモンスター捜索の依頼を出したガルトンさんだ。

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