第31話 夏休み、ライバル1

それは、僕が茶道部合宿を体験した翌日の出来事だった。


『あなたがお父さんを慕う理由、よく分かったわ』

『昨日はありがとう、廣瀬君のお父さんにもちゃんと連絡した方がいいよね?』

『先輩が合宿参加してくれて嬉しかったです。今度は空ちゃんと3人で遊びましょう!』


茶道部面々からいただいたラインに返答をしていると、ほぼ同じタイミングで不吉な連絡が2通僕の元へ届いた。



『明日、時間ちょうだい』

『お忙しいところすみません。明日、ちょっとお時間いただけないですか?』



友人からの誘いと言えば聞こえは良いが、そんな良いものではないだろう。用件を一切書かない先制パンチを頂いている時点である程度は察することができる。


この、僕の予定など一切鑑みない単調なメールは名取真宵からきたもの。

そして丁寧な文章で依頼してきたのが、後輩である蘭童殿。


学年も性格も違う2人だが、僕にとって重要な共通点が1つある。直感的に、その共通点絡みであると理解した。というか、真宵が僕相手に連絡するなんてそれ以外考えられない。


というわけで2人に返答を入れる前に、重要参考人へ連絡を取ることにした。


『もしもし、どうかしたか?』


三度の飯中に3人の女を泣かせてしまう男、青八木雨竜である。今日も今日とて1秒もしないうちに電話を取る、そろそろ恐怖を感じる早さだ。


「ただの事情聴取だ」

『事情聴取?』

「最近女子と出かけた記憶はあるか?」

『出かけたぞ、ちょうど昨日と一昨日に』


間違いない、ラインのタイミング的にも2人は雨竜と出かけたのだろう。積極性があって非常に好ましいのだが、僕に連絡が来たということは結果もある程度分かるわけで。


「ちなみにだが、ちゃんと楽しめたのか?」

『おう、普通に楽しかったぞ』

「えっ、そうなのか?」

『なんで嘘つかなきゃいけないんだよ、つまらなかったらつまらないって言うぞ?』

「お前は気を遣うだろ、女子相手なら尚更」

『お前相手に気を遣うわけないだろ』


何コイツ? 挑発してんの? 電話じゃなかったら僕のクロスアッパーが炸裂していたところなんだが。


しかし、うーむ。雨竜の言葉をそのまま受け取るならデート自体が失敗しているようには思えないが。もしかして良い話を持ってきてくれるのだろうか。



……いや待て。そもそもの話、普通に楽しかったってのがダメなんじゃないのか? 彼女たちの健闘が実ったというなら、雨竜に照れなり恥じらいなりが発生しているべきなんじゃ……



「雨竜、その、なんだ。お前恥ずかしいか?」

『はあ? 意味が分からん、もっと分かりやすく言え』

「嘘だろ、16歳にもなって恥ずかしいの意味も分からんのか?」

『質問の意図が分からないって言ってんだよ!』

「じゃあ最初からそう言えよ! 主語を付けて話しなさいって習わなかったのか!?」

『だったらお前は修飾語をつけろ! お前恥ずかしいかって質問があるか!』

「僕の辞書にはあるんだよ!」

『一般人にも伝わるようアップデートしろや!』

「お前は一般人じゃねえだろ!」



この野郎、ああ言えばこう言いよって。僕は一般人なんだから超人のお前がくみ取るのが正しいあり方だろうが。


「……分かった、お前は恥ずかしくなかったってことだな?」

『ああ多分な』

「多分って何だよ!? お前のことだろ!?」

『何のことか分からないからだよ! 10秒前の指摘はどこへ消えたんだ!?』

「ああもう! こんなやり取りに何秒掛けてるんだ!?」

『お前がもうちょっと自分を省みたら終わってるよ……』


雨竜の声のボリュームが落ちた。どうやら自分の過失を認めたらしい、大変気分が良いな。


「くくく、これに懲りたら僕の言葉をよくくみ取ることだ」

『くみ取ったところで大した質問じゃないのは分かり切ってるんだがな』

「負け惜しみか、無様だな雨竜」

『そういや雪矢、最近身長測ったら1センチ伸びてたわ』

「ふざけるな!! 人が1ミリに四苦八苦してるときにニョキニョキしてんじゃねえ!!」

『はは、無様だな雪矢』


くそう、随分酷い意趣返しをしやがる。身長の話題を出してまで敗北を認めたくなかったというのかこの男は。


「畜生星の王子様め! 今に見てろ、父さんの遺伝子が覚醒して僕の身長も伸びるんだからな!」

『いや待て、結局お前なんで電話を』


雨竜の返答を聞かないまま、僕は通話を切った。まったく、雨竜にマウントを取ろうとするもんじゃないな。一瞬で強烈なカウンターを繰り出してきやがる。


さて、これからどうするか。


雨竜から明確な答えは聞けてないが、あの反応から察するに『ただの楽しいお出かけ』で終わってしまっているのだろう。じゃなきゃ2人から連絡が来るとは思えん。


雨竜の牙城を崩すための打ち合わせだと思えば断る理由はないのだが、2人とも明日を希望しているんだよな。見事にバッティングしてしまっている。


まあいいか、2人ともライバルの失敗談を聞けた方が身になるだろう。僕だってわざわざ別の時間を確保して話を聞くのは疲れるし、面倒事は1つにまとめることにしよう。



『雨竜のことだよな? 明日了解、希望の場所を教えてくれ』



ということで、僕は2人にまったく同じ返信をした。彼女らの場合なら顔を合わせた方が刺激になるはず、失敗にめげずに何度もチャレンジしてほしいものだ。



……2人が失敗してる前提で話しているが、朗報だったらごめんなさい。

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