第27話 瞬殺
時刻は午後3時。約2時間、10人以上も集まる空間で黙々と作業を続けていたが、ここで一旦休憩を挟むこととなった。皆が皆、問題文や公式から逃れるように談話スペースの方へ移動する。
神代晴華とスタートの流れを作って以降、雨竜攻略は首尾良く進んでいたのではないかと思われる。
スタートダッシュで雨竜を確保したのは蘭童殿だが、その後すぐに名取真宵が雨竜へ質問していた。ずっしり質問内容を溜めていたようで、談話スペースから戻ってくるのは結構遅かったように思う。
その後1回ずつ蘭童殿と名取真宵が質問をして前半戦は終了、予想通りと思う部分とそうでない部分が明確に表れていた。
月影美晴については予想通りと言うしかない。彼女が普段からそこまで積極的ではないという理由もあるが、それ以前に文系トップの彼女の疑問を雨竜が答えられるかどうかという根本的な問題がある。そう言う意味では、月影美晴が雨竜と話さないのも当然と言えば当然である。
御園出雲についても同様だ。勿論分からないところがあれば雨竜に尋ねるだろうが、今は少しでも雨竜より試験範囲の勉強に勤しみたいところだろう。本来驚異的である蘭童殿や名取真宵の行動も、雨竜と差をつけたい彼女にとっては望ましい展開だったかもしれない。
予想外だったのは言わずもがな桐田朱里である。彼女は蘭童殿のように積極的なタイプではないが、やると決めたことはしっかりこなしていくタイプである。だから今回も蘭童殿や名取真宵に混じって雨竜へ質問してくれると思ったが、結局2時間ずっとロビーで勉強に集中していた。
そりゃ確かに彼女も文系だが、質問できる項目は少なからずあるはず。自学に集中出来ていない雨竜に気を遣ったというのならいらぬ心配だ。何もしないという心配りは、誰にも評価されない虚しい行いだからである。
とまあ勝手に戦評していたが勉強会は後半戦もあるし明日だってある。スタートの勢いだけで物事を考えるのは早計というものだろう。全体を見ないで判断するのはさすがに可哀想だ。
とりあえず今は休憩時間、リフレッシュして後半戦に備えなくては。僕はほとんど勉強はしていないが。
「ユッキー、『ワード人狼』しない!?」
「ワード人狼?」
遅れて談話スペースに入ると、堀本翔輝に質問を重ねて困らせていたらしい神代晴華がスマホを掲げてそう言った。
ワード人狼は、ざっくり言うと『仲間はずれを探すゲーム』である。参加者は各々に割り振られたお題に従って会話を進めるのだが、1人だけ異なるお題を与えられており、会話の中でその仲間はずれを見つけ出していくのである。
ただし、ここで重要なのはお題が露骨に分かる会話をしてはいけないということである。
というのも、仲間はずれにはマジョリティ側のお題を当てれば勝利ができるという救済措置があるからである。つまり、例え細かい話を繰り広げて仲間はずれを見つけることに成功したとしても、仲間はずれがお題を当てたら負けなのだ。お題の内容を語りすぎずに仲間はずれを見つける、これがワード人狼の醍醐味である(神代晴華談)
「蘭童殿たちはやらないのか?」
「はい、初めてなのでまずは雰囲気を知りたいと思って」
「それを言ったら僕も初めてなんだが」
最初の参加者は神代晴華、月影美晴、桐田朱里、名取真宵、雨竜、堀本翔輝、そして僕の7人だ。1年コンビと梅雨は最初は静観しているようだ。
「……どなたが頭の回転が優れてるか外側から見たいので」
末恐ろしい呟きをする中学三年生はほっとき、僕らは机を中心に輪になった。
神代晴華が自分のスマホを時計回りに回していく。どうやらワード人狼をできるアプリがあるらしく、自分のお題を見たら次の人へ回しているらしい。
「ちゃんとできるかな」
「大丈夫でしょ、神代以外みんな初心者らしいし」
「はい、次ユッキーね」
「おう」
神代晴華からスマホを渡され、僕は画面をタップしてお題を確認する。
『あなたのお題は遠距離恋愛です』
画面をタップしてトップ画面に戻してから、隣の雨竜へスマホを渡す。
遠距離恋愛か、多数側なのか仲間はずれ側なのかさっぱり見当がつかないな。ワード人狼と言うくらいだからもう1つのお題は似通っているはずなのだが、近距離恋愛なんて言葉はない。恋愛絡みのお題だと思うけど、今の時点では全然絞れない。遠距離っていうのがポイントなのだろうか。
「よーし、みんなお題確認し終えたね? それじゃあ始めるよ?」
神代晴華の合図に皆が頷く。ただのゲームだというのに舌が乾いてきているのが分かる。独特の緊張感があるなこれ。
「よーい、スタート!」
声を上げると同時に、神代晴華がスマホをタップした。その画面には『03:00』と表示され、1秒ずつカウントダウンしていく。どうやら制限時間は3分らしい。
「……」
しかし数秒、経験者の神代晴華を含め誰も喋らなかった。
気持ちは分かる。どんな言葉が仲間はずれの地雷になるか誰も分からないのだ。それだったら状況に応じて情報を小出しにした方が良い、スタートはあくまで他人本位で進むに限る。
だが、それはあくまで初心者の発想である。
「堀本翔輝、お前はこれ経験したことあるか?」
別に話始めの人間から情報を出す必要はない。話したくないなら、主導で動いて質問すれば良いのである。そうすれば自分のお題情報を晒さずにこの場をコントロールできる。
どうだ皆の衆、これが僕の編み出した絶対防御である。仮に僕へ質問が来ても、堀本翔輝以外だったら先にそっちから話せと突っぱねる。そうすることで、僕は恒久的な安寧を手にしたはずだったが、
「えっ!? あるわけないよ!」
堀本翔輝は、僕の質問に心底驚きながら右手を大きく左右に振った。なんだこの反応、そりゃ恋愛経験を突っ込まれるのは嫌かもしれないが、ここまで大袈裟に否定することか。コイツ、なんか怪しいな。
「あはは、ホーリーそこまで露骨だと怪しいよ」
「ええ、僕が怪しいの!?」
神代晴華に指摘され、堀本翔輝はさらに狼狽える。グレーだと思っていた外面イケメンは、開始数秒で真っ黒黒助に成り代わっていた。
「ちなみにユッキーも100%ないよね?」
早くも仲間はずれを見つけ出した僕は、はっきり言って心が緩んでいた。
「仰る通りだが、100%ってことはないだろう」
だからこそ、神代晴華に聞き返すことなく僕のお題について語っていた。圧倒的勝利、その余韻に浸るがごとく説明をした後、僕はようやく気が付いた。
――――堀本翔輝を除く参加者全員が、ニヤニヤしながら僕を見ていることに。
「雪矢、びっくりするくらい見事なドボンだな」
「はい……?」
間抜けな僕の反応を見て、周りのボルテージが上がっていく。神代晴華なんて声を上げて笑っており、僕は完全に蚊帳の外だ。
ちょっと待って、もしかして僕が負けてるの?
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