第17話 ファッションチェック
「あっ、ユッキーやっと来た!」
僕を最初に見つけて大きく手を振ってきたのは、私服姿の神代晴華だった。フリルが胸元から1周するようについた茜色のTシャツは大きなバストを隠したいのだろうが、ウールのショートパンツとニーソックスの間の健康的絶対領域は惜しみなく露出していた。とてもよく似合っているが、頭隠して尻隠さずとはこのことではなかろうか。
「廣瀬、あんたサボろうとしてたんだって? ふざけるんじゃないわよ」
続いて不機嫌そうに顔をしかめているのは名取真宵。肩口から鎖骨にかけて露出している、いわゆるオフショル風のブラウスにダメージショートパンツを身につける彼女は、他の誰よりも肌面積が広かった。これ、屈んだら簡単に胸の谷間が見えそうなのだが、もしかして狙ってこの服装なのだろうか。隣で勉強の質問をしようものなら、目は本能的にそっちに向いてしまうかもしれない。雨竜がどうかは知らんが。
「そうですよ! 廣瀬先輩がいないんじゃすごく心細いじゃないですか!」
「でも、来てくれて良かったです」
名取真宵に同調するように現われた1年生コンビの蘭童殿とあいちゃん。蘭童殿はペプラムと呼ばれる腹部から裾にかけてフリルのついたトップスを着ており、下はレモン色のキュロットスカートを履いていた。あいちゃんは白地に花柄のワンピースを着ていて、どちらも夏らしい爽やかな着こなしになっていた。とても可愛らしいと思う。
「おはよう雪矢君、今日はよろしくね」
「私たちは文系組だから直接相談することはないかもだけど」
そして、行くのを保留にしていたはずの月影美晴と桐田朱里。雨竜の説得が効いたのか、2人とも参加することにしたようだ。
月影美晴は、ベージュのハイネックTシャツに、デニムのロングスカートという出で立ちだった。寒さ対策か、いつでも羽織れるように白のアウターを右腕にかけている。1年コンビを先に見たからか、やけに大人っぽく見えてしまっている。
桐田朱里は、グレーの半袖ニットというボディラインが出やすい衣服を身につけており、ついに自分の武器を理解したのかと賞賛したくなった。空色のフレアスカートも季節に合っていて良いのではないかと思われる。
「これで全員ね、早速だけど乗り込んでちょうだい」
全員揃ったことを確認すると、バスの入り口の方へ僕らを誘導する御園出雲。白地に細かく黒のチェックが入ったTシャツと、薄緑色のハーフカーゴパンツを身につけており、ボーイッシュな印象を真っ先に受けた。おそらく、神代晴華や名取真宵ほどパンツの丈が短くないからであろう、そのままキャンプにでも行けそうな服装だ。
こうして見ると、制服だけでは分からない各々の個性が出ているようでなかなか興味深い。パンツかスカートかってだけで雰囲気は変わるし、何より男子よりコーディネートの幅が広くて楽しそうだ。特に、今日集まっているメンバーは見てくれが優秀だからな。
急な私服大集結によりファッションに頭が寄っていたが、しばらくして本日の主役が来ていないことに気付いた。
「あれ、雨竜はどうしたんだ?」
「先に行って勉強環境を整えておいてくれるみたい」
成る程、ドタキャンしたのではないなら問題ない。僕が参加しているのにあいつが欠席していいわけがないからな、こうなった以上事の成り行きはしっかり拝ませてもらう。
……ということは梅雨も先に現地に向かっている訳か。あいつに会ったら一言もの申さないとな、この件で父さんとのやり取りに味をしめられたら困る。懲らしめてやらねば。
「ひ、廣瀬君!」
女性陣が1人ずつバスに乗り込んでいく中、声を震わせて僕の方へ歩み寄ってくる1つの影があった。
堀本翔輝、雨竜を孤立させないために来てもらったミスターパセリである。
「何だよ急に」
「急じゃないよ、さっきから何度も声を掛けてるのに無視するからぁ」
仕方あるまい、僕なりにファッションチェックで忙しかったのだ。周りの声など耳を通さずとも不思議ではない。
「さっきまで男が僕1人だったからさ、廣瀬君が来てくれてホッとしてるんだよ」
確かに、雨竜がこの場に居ないとなると、女子7人に対して男子1人。なかなかお目にかかれない人数のハーレムである。
「そこを堂々としていられる甲斐性がお前にあればな……」
「そんなの廣瀬君や青八木君じゃなきゃ無理だよ!? こんな凄すぎる面々が揃ってるのに、陽嶺高校のオールスターが集結するってどういうことなの!?」
「2年ばっかでオールスターもクソもないだろ。心配するな、慣れたらそのうち全員野菜に見えてくるから」
「採れたてで美味しそうってこと!? それは流石に卑猥すぎるのでは!?」
誰がそんな穿った見方をしろと言った、これだから脳内桃色属性の変態は取り扱いに困るんだよ。
腹が立ったので、顔を紅潮させる堀本翔輝の頭に1発チョップを入れることにした。
「いたっ! 何するの急に!?」
「そんなアホみたいな思考回路してたら一瞬であの場に居づらくなるぞ、せいぜい強制退去を命じられないよう心を無にするこった」
「成る程、こんな幸せ空間にいるための試練ってやつだね、頑張らないと……!」
僕としては彼女たちを卑猥な目で見て帰宅を命じられようが痛くもかゆくもないが、というか望むところではあるが、コイツにいなくなられては困る。空気読めない可能性がある神代晴華の相手をしてもらわないといけないからな、立ち去るなら告白してオーケーもらって一緒にバスを卒業してくれ。
「ユッキーとホーリー! 早くバスに乗って!」
「は、はい!」
バスの窓から顔を出し、未だ外で話している僕らに注意を入れてくる神代晴華。
てかホーリーってお前のことだったのかよ。
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