第37話 球技大会11

Aチームとの哀しい対戦を終え、どうして戦争は起きてしまうのか、平和とはいったい何なのかをを考えに考えた後、結局答えが出ずにリーグ2戦目が始まってしまった。


相手はFクラス、あまり特徴のない男子たちが揃っていたが、何故か僕らは親の敵でも見るかのように彼らに睨まれていた。



「青八木君、俺は君たちを許すことができない」



初手ささやき戦術により、僕はあっさりとげんなりしてしまう。


……またなのか。またしても哀しい試合が始まってしまうのか。

念のため僕らのベンチに目を向けるが、女子たちが占領しているということはなかった。となれば女絡みの怒りではなさそうだが、だとしたら怒っている理由がますます分からない。雨竜も同様に首を傾げていた。



「思い返せばこの1週間、俺たちはBクラスを倒すことだけを考えて過ごしてきた。血が滲むような努力を積み重ねてきた。それこそが、彼の報いに繋がると信じていたからだ」

「彼?」



皆が雨竜と同じように疑問を抱いたことだろう。彼って、いったい誰のことなんだよ。


しかしながら、Fクラスのキャプテンの耳には届いておらず、マイワールドを突き進んでいる。ここまではっきり悪役扱いされるとさすがに僕らに非があるのだと思ってしまうが、残念ながら思い当たる節はない。彼らは何に怒っているというのか。



「復活の狼煙を上げるはすだった。票が同数になっていると先生から伺ったとき、伝説が幕開けすると思っていた。そう――――実に24年振りに」

「……24年振り……?」



その言葉で、僕は全てを理解してしまった。

他のクラスには、決定の遅れによりBクラスが球技大会のスポーツを最終判断したという事実は広まっている。特に男子の場合、どのスポーツも選ばれる可能性があった。



『ちなみに――――は25年近く選ばれた記録がない名誉選択肢らしいぞ』



そしていつしかの雨竜の言葉を思い出す僕。間違いない、ここまでの情報があって間違えるはずがない。

僕は目頭が熱くなる。まさか、このFクラスというのは……!



「それを貴様らが全て奪い去った! セパタクローを踏みにじったこの恨み、晴らさせてもらうぞ!」

「おおおおおおお!!」



あ、ああ……!

そうだ、僕は忘れていた。セパタクローが1票入っているということは、セパタクローを選んだクラスがあったということに他ならない。それが目の前にいるFクラスなのだ。


僕は馬鹿だ、こんなすぐ目の前に同志はいた。セパさまを供養する必要なんてなかった。アホ雨竜率いるBクラスになんて縛られず、今こそ僕も立ち上がるときなのだ。


試合を始めるために控えメンバーがベンチに戻っていく。だが僕は、Bクラス側には向かわずFクラスのベンチへ向かった。


「どうした? ベンチ間違えてるぞ?」


ベンチに座る男子生徒が優しく僕に指摘する。倒したいほど憎いBクラスのメンバーである僕にもこの人当たりの良さ、やはりセパタクロー好きに悪い奴はいなかった。



「――――1票。Bクラスの投票でセパタクローが支持された票数だ」

「……何?」



ベンチ君の表情が険しくなる。愛するセパさまが愚弄され気が立ったのかもしれない。とても正常な反応だ。



「僕は呪ったよ、己の無力さを。伝説を目の当たりにできるチャンスをふいにすることしかできなかった。セパさまが馬鹿にされるのを見ていることしかできなかった」

「セパさま……まさか君は……!?」



ベンチ君の表情が驚きで満ち溢れる。そんな彼に僕は優しく微笑みかけた。



「君たちFクラスの同志さ! 同じ、セパタクローを愛する者だ!!」

「おお!!」



そうして僕とベンチ君は熱い抱擁を交わした。メロスとセリヌンティウスをも上回るセパタクローが繋いだ友情の証である。



「試合には出られないが僕は全力でFクラスを応援する。何でも言ってくれ」

「……そうか。そう言ってもらえると嬉しいもんだな」

「当たり前だろ、セパさまを馬鹿にしたあいつらの鼻、これ以上なく明かしてやろうぜ!」

「ああ、セパタクローこそが陽嶺高校の球技だと認めさせてやる」

「その意気だ!」



僕たちは右手を強く握り合い、協力することを決めた。もはや言葉はいらない、心さえ通えば会話など必要ないのだ。見てろよ雨竜め、友情パワーを貴様に見せつけてやる!




だがしかし、20-2でFクラスは惨敗を喫した。過酷すぎる現実であった。

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