第34話 球技大会8

雨竜と歩きながら、今回の球技大会のルールを聞いた。


男女ともに4つのブロックに分かれ、リーグ戦のもと上位2チームを決勝トーナメントへと進出させるようだ。5チームのブロックが2つと、4チームのブロックが2つ。抽選の結果、僕たちは決勝へ行きやすい4チーム側のブロックらしいが、雨竜が居る時点でどこだろうと決勝進出は約束されたようなものだ。さらにメリットを上げるなら、1試合しなくていい分体力を温存できるのである。


「運がなかったな。他より1試合少なくなるなんて」


しかしながら、雨竜は僕とまったく違う感想を抱いていた。急造チームのため、少しでも多くの試合を経験しておくべきと思っていたらしい。確かに試合を経験して欲が出始めれば人は成長するというが、球技大会でそこまでやる気を見せる人間が果たしているだろうか。


と、僕を基準で考えるのは決してよくない。女子にいいところを見せたいというある意味純粋な欲望で力を発揮する奴らだ、せいぜい周りの目を意識して頑張ってくれればいいと思う。僕の分まで出しゃばってくれたまえ。


そうこう考えているうちに、未だ試合が始まっていないコートに辿り着いた。どうやら、ベンチメンバーも含めて全員中央に集まって挨拶をするらしい。



「それではA3クラス対B1クラスの試合を始める。一同、礼!!」

「「お願いします!!」」



生徒たちの大きな声がバスケットボールのドリブル音に負けず劣らず体育館に響き渡る。Aクラスの連中、随分気合いが入ってるな。



「青八木君、残念ながら僕たちは負けるわけにはいかない」



雨竜の前に居たリーダー格っぽい生徒が唐突にそんなことを言い出した。気迫のこもった瞳は、強い恨みでも抱いているかのように見えた。


「僕らのクラスはいつもどこかバラバラで、まとまりなんてあったものじゃない。だけどこの球技大会を長く経験できれば、Aクラスは強い団結で結ばれるんじゃないかと思っているんだ」


熱い男だった。リーダー格なだけあって、統率の取れていない自分のクラスに危機感を覚えていたようだ。だがこの球技大会を経てクラスが一丸になることを覚えたいのだという。正直どうでもいい。


「成る程、つまり少しでも球技大会を続けるため、決勝トーナメントに出場するため、俺たちに負けられないってことだな?」


しかし意外と心が熱い男こと青八木雨竜は、リーダー格少年に真っ直ぐ言葉を返していた。こういう雰囲気になれば燃えてくるのかもしれないが、いい加減試合は始めなくていいのだろうか。未だ全員がコートの中心にいるのだが。



「…………いや、そんなことはもはやどうだっていい」



雨竜に負けない熱い言葉が飛んでくるかと思いきや、リーダー格少年は先ほどまでの自分の言葉を『そんなこと』と捨て去ってしまった。頭にハテナマークを浮かべるBクラスの面々。この数秒の間でどんな心変わりをしたというのだろうか。


よく見たらAクラス、泣いてる奴いるし。まだ試合も始まっていないのに何故?


「今までのはぶっちゃけ建前で、クラスの女子と交流したかっただけだ。僕たちはそのためだけに球技大会に打ち込んでいた」


ある意味先ほどより熱い想いを語るリーダー格少年。その姿は、逆に清々しさで満ち溢れていた。本当にぶっちゃけやがったが、それを聞いて僕らはどんな反応をすれば良いのだろう。



「実際練習は仲良くやれてた。これなら本番はもっと上手くいくと思った。何なら明日には彼女でもできているんじゃないかと妄想までしてた。この試合だって、我がクラスの女子が応援してくれるんじゃないかって期待した。それなのに、それなのに…………!」



思春期の男らしい欲望を語ったリーダー格少年は、潤んだ瞳を鋭くして心変わりした理由を言った。



「それなのに! 何故我がクラスのマドンナたる名取さんがそっちのベンチにいるんだ!!?」



そう言われて、Bクラスに用意された3人用ベンチに目を向ける僕ら。


そこには確かに、遠慮する様子も見せずにBクラスのベンチを占領する名取真宵と神代晴華の姿があった。僕の視線に気付くと、神代晴華は笑顔でこちらに手を振ってくる。いやいや、お前らなんで当然のようにいるんだ。



「その上Cクラスのアイドルたる神代さんまで、許せん……許せんぞ……!!」

「おおおおおおおお!!」



リーダー格の私怨にも近い言葉に、クラスメートは同調する。どうやらクラスメートである名取真宵がこちらのベンチにいたことがお気に召さなかったらしい。


気持ちは分からなくもないが、名取真宵が自分のクラスの応援をするタイプにはまったく見えないんだが。はっきり言ってこれ、逆恨み入ってないか。僕ら悪くないだろ。



「Bクラス倒す!! Bクラス敵!!」

「Bクラス倒す!! Bクラス敵!!」

「青八木君はモーテすぎ!! 少しは僕らに遠慮しろ!!」

「青八木君はモーテすぎ!! 少しは僕らに遠慮しろ!!」



リーダー格少年に呼応するように己の気持ちをあまりにも堂々と主張するAクラス。



よかったなお前ら、間違いなくお前らは今一丸となっているぞ。引くほど。

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