第30話 作戦タイム

「先輩の言い分は分かりました。廣瀬先輩は青八木先輩と付き合っておらず、それどころか私の恋を応援したいということですね?」

「満点回答です」


厳しい人の目に晒されながらも食事を終えた僕は、蘭童殿に改めて今朝の件は誤解であることを説明した。そして先ほどの蘭童殿の要約、どうやら内容は理解してくれたようだ。


「お気持ちは嬉しいんですが、正直廣瀬先輩をこのまま信用することはできません」


強気な言葉をかけながらも、どこか罰の悪そうな表情を浮かべる蘭童殿。この様子だけでも彼女が善人であることが分かる。本気の恋愛だからこそ、よく知らない先輩の力を借りるわけにはいかないと思っているのだろう。


だからこそ僕が譲歩する。蘭童殿が選択しやすいように。


「なら細かい頼み事とか質問とかでもいいですよ、それを聞いて雨竜攻略の参考にしてもらえれば」

「廣瀬先輩が本当のことを言う保証はないですよね?」

「勿論。嘘を言うつもりはないですけど、信じていいかは蘭童殿が決めてください」

「……成る程。そういうことでしたら、少し頼りにさせてください」


蘭童殿の言葉に柔らかさが帯び始めた。話を聞いてもいいと思ってくれたのかもしれない。


「早速なんですが、1ついいですか」

「どうぞどうぞ」

「その、青八木先輩のことなんですが、普段からああいう感じなんですかね?」

「ああいう感じ?」

「何というんでしょう、ぶつかっても躱されるというか、上手くアプローチできているのか分からなくて」

「ああ、よくある質問ですね」


入学して1ヶ月ちょっとしか経ってない蘭童殿が分からなくても仕方ないことだ。教えてあげなくては。


「あれは雨竜の防衛本能みたいなものです。誰が相手だろうが一定の距離を取って接する、だから蘭童殿が興味持たれてないってことはないです。いつものことなので」

「それを聞いて少し安心しました。教室や体育館で会っても似たような反応ばかりだったので」

「雨竜がたじろぐのは滅多に見ないので頑張ってる方だと思いますよ。ただ雨竜にとってもルーティンになりつつあるので、インパクトは欲しいかもしれないですね」


雨竜が桐田朱里に興味を持ってデートまで行ったのは、手紙という普段見ることのないアイテムにインパクトを感じたからかもしれない。手紙の中身が分かればこの件も助言したかったが、残念ながら雨竜から奪い取ることはできなかった。いい加減教えてくれてもいいのに。


「インパクト…………あっ!」

「何か思い付きましたか?」

「マンガとかで見る、困ったところを颯爽と助けるみたいなのはどうですか!?」

「んー、悪くないとは思うんですが……」


ありきたり故に王道、インパクトという意味では確かに有効に思える。

だが問題は、あの完璧星人に困ったところが存在するかということである。女関係に困っている以外では少なくとも僕は把握していない。正直これを軸に進めるのは難しい気がする。


「よし、決めました。青八木先輩を助ける設定でいきましょう」


しかしながら、蘭童殿はノリノリで話を進めている。確かにこういう展開に憧れを持つ女子は多いと聞いたことがある。蘭童殿もそんな風に雨竜に助けられたら感動するのだろう。だからこそここまで瞳を輝かせているわけで…………



ちょっと待って、今雨竜を助ける設定って言った? 雨竜が助けるじゃなくて?


「配役考えました、廣瀬先輩にもお願いしたいのですがよろしいですか?」

「僕にできることであれば勿論」

「大丈夫ですよ、簡単ですから」


少々嫌な感覚を覚えながらも、可愛らしく笑う蘭童殿は何の迷いもなく言い切った。



「まずは廣瀬先輩、強襲して青八木先輩を組み伏してもらっていいですか?」



僕にできることって言いましたよね?

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