第13話 トレース

時は進み日曜日。桐田朱里とのデートの日がやってきた。


集合は池袋駅の西口、交番の前。場所としては分かりやすいが、少々抵抗があるのはご愛嬌だ。


目的地に向かう僕は、正直に言えば緊張していた。ここから先、


今日のデートは確かに桐田朱里に男慣れしてもらうのが主ではあるが、それが雨竜の行動とかけ離れていては意味がない。


だからこそ僕は、昨日一日中雨竜にデートをしてもらったのだ。奴の一挙手一投足を見逃さず頭の中へ叩き込んだ。

そして僕が青八木雨竜を演じることで、少しでも桐田朱里が雨竜に免疫をつけられるよう取り組むのである。


とはいえ雨竜の気遣い力というか、心配りは非常に細かく、あいつが容姿に優れていなくてもモテていたのではと思わされるほどだった。それを全て真似るというのだから、僕としてもそれなりの覚悟が必要になる。


「来てるな」


待ち合わせ時間の10分前に付近まできたが、桐田朱里はすでに交番前に佇んでいた。ビルに設置されている大型モニターに目を奪われているようだ。


よし、ここから切り替えろ。僕は、じゃなくて俺は青八木雨竜だ。

頭脳明晰、スポーツ万能、眉目秀麗の完璧人間。その男として、俺は桐田さんへと接するのだ。


「ゴメン、待たせちゃった?」


駆け足で彼女の元へ行くと、桐田さんはモニターから視線をこちらへ移す。


白色のブラウスに水色のエプロンワンピースを身につけている桐田さん。腹部にはブラウンのベルトがワンポイントで入っており、スタイルのいい彼女にはよく似合っていた。自信なさげに伸びていた前髪もヘアピンでしっかり留めており、普段より明るい印象を受けた。


「私服、すごく似合ってるね。髪型も普段からそうしてたらいいのに」

「えっ、あっ、うん、ありがとう……」


一瞬怪訝そうな表情を浮かべた桐田さんだったが、遠慮がちにお礼を言ってくれた。

いきなり服装を褒めるのは不自然だったかな、反省しないと。


「これからどうしようか、少し散歩する?」

「そう、だね、いい天気だし」

「もしくは喫茶店に入る? 今日は少し暖かくなるみたいだし、桐田さんのオススメも知りたいし」

「うん…………うんちょっと待って」


愛想よく行き先の提案をしていると、桐田さんはこちらに手の平を向けて会話を遮った。

どうしたんだろう、他に行きたいところでもあるのかな。


「ゴメン、俺の意見ばかり言ってたね。どこか行きたいところある?」

「いや、そうじゃなくて」


何か言い淀んでいるように見える桐田さんは、意を決したように弱々しい瞳をこちらへ向けた。


「……どうしたの? 頭打った?」

「あはは、ひどい言われようだな。俺どこか変に見える?」

「変というか、鳥肌が立つというか、寒気がするというか、とりあえず病院行く?」


作戦変更だ。

完全にヤバい奴だと思われている。

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