*15話 黎明期の終焉② 恐怖との遭遇


 3度目の域内活動で俺達A班は西原2丁目に至る。目の前には別の小学校の校舎が見える。ただ、この校舎には「人はいないだろう」ということだ。「魔物の氾濫」状態であっても有線の電話は通じるので、地域の拠点となりそうな建物には既に何度も何度も電話による呼び出しが行われている。誰も電話に出ないので、「いないのだろう」という事だ。ついでにドローンも飛ばしているので、画像でも無人が確認されているとのことだ。


 なので、用事がない小学校を迂回して先へ進む。


 丁度校舎の反対側の運動場が左手側に広がり、視界が開ける。そんな時だった。


「ん? あっ、あれっ!」


 最初に気が付いたのは96式装輪輸送車の機関銃座に居た隊員の1人。高いところから周囲を見ていたので、空の一画に細く立ち上がった煙の筋が見えたのだろう。その声で諸橋班の面々が騒がしくなる。1人が双眼鏡で煙の方向を確認する。その間にも、細い煙は何筋も空に打ち上がっている。


「恐らくB班の緊急連絡用の信号弾だと思います!」


 双眼鏡を覗いていた隊員が叫ぶように言う。既に車列は止まっていて、諸橋1尉は車両から降りると輸送車の外装に地図を貼り付けるようにして広げ、確認に入る。


 煙(信号弾)が打ち上がっている場所と地図を見比べる。どうやらこの場所から東に400mほど離れた場所にある中学校の辺りから信号弾が発せられていると分かる。


「……B班だな。どうする?」


 誰に訊くでもない呟きを漏らす諸橋1尉だが、直ぐに行動を決めた。


「ここから近い。救援に向かう。皆さんはトラックに乗り込んでください」


 この時点でトラックの後部は無人だった。なので、俺達[受託業者]をトラックに乗せてB班の元に急行しよう、という事になった。


 信号弾が上がっている中学校は俺達の所から400m東に位置している。ただし、住宅地のど真ん中を進まなければならないため、思ったよりも時間が掛かりそうだ。その一方で、初台駅の前進基地からは600mの距離だが、あちらは片側2車線の幹線道路を南下するだけで到着する。なので、救援部隊は俺達A班と、里奈が居る「緊急派遣班」がほぼ同時に到着することになるだろう。


 そう思うと、なんだか嫌な予感が湧き上がって来る。


*********************


 俺の場合、嫌な予感ばかりよく当たる。飯田の直感が優れているのはそのまんま【直感】というスキルをもっているからだが、俺の場合「悪い予感」というようなふざけたスキルは持っていない。これはもう、そういう「生まれつき」なのだと思うしかない。


 とにかく、俺は


 ――里奈達「緊急派遣班」が先に現場について戦闘に巻き込まれる――


 という嫌な予感を持ち、それを的中させてしまった。


 俺達A班が現場に到着した時点で、B班と緊急派遣班を合わせた4両の96式装輪輸送車が南側から中学校のグラウンドに入り込み、校舎を背中にして守る様に停車していた。トラックが見えないのは既に退避させたからか? とにかく、視界には4両の96式装輪輸送車しかなかった。


 そんな96式装輪輸送車は車載の重機関銃の銃口をグランドの方向へ向けて、散発的に発砲を継続している。銃口の先には、見たことのないタイプのモンスターが居る。巨大なワニのような……図鑑の挿絵で見る恐竜のような姿の全長4mほどのモンスターだ。


(ぬぬ、偽竜ドレイクなのだ……今のコータ殿では太刀打ちできないのだ)


 ハム太の呻くような【念話】が聞こえる。その一方、別の方向から


(コータ様、里奈様達が校舎の中に入ったニャン。中に人とモンスターの両方居るニャン)


 と、只管ひたすらややこしい状況を伝えてくるハム美の念話も聞こえてくる。


 そんな念話による情報交換の外では、諸橋1尉がB班や緊急派遣班の班長達と怒鳴り声で情報交換を行っている。ただ、その内容は


「校舎内に人影があり、調査をしようとしたところ、あのトカゲモンスターが襲ってきました!」

「トラックにはB班の[受託業者]PTを護衛につけて退避させています」

「緊急派遣班のメンバーが校舎内に入りましたが、モンスターが中にもいるようです」


 というもの。概ねハム美が伝えて来た内容と同じだ。


 つまりB班は校舎内の人を救助しようとしたところで、外にいた偽竜ドレイクというモンスターに襲われた。動くわけにもいかず、とりあえず救助者を乗せた状態だったトラックのみを退避させて、応援を要請する信号弾を打ち上げた、ということだ。


 と、そう言う風に状況を判断した俺は


「校舎の中から人を連れてくれば良いんでしょう?」


 と諸橋1尉に確認すると、


「じゃぁ、ちょっと行ってきます」


 ということで、校舎へ向かう。


 背後では相変わらず重たいM2重機関銃の発砲音が続いている。今のところは、そんな重機関銃の射撃によって、ドレイクと96式装輪輸送車は睨み合いの小康状態を保っている。今の内に中の人達を連れだして、A班の空だったトラックに乗せて退散する。それが最善の方法だと考えた訳だ。


「コータ、行くぞ!」

「先輩、早く!」


 そして、俺の思考を(多分飯田が【念話】で読み取って全員に伝えたのだろう)理解してくれた「チーム岡本」の面々が、急かすように声を掛けてくる。


 4人揃えば、取り敢えずナントカ成る気がした。


 ただ、ちょっと見込みが甘かった。



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