*2話 次世代の胎動
仮称「晴海緑道公園メイズ」の消滅作戦に於いては、無双状態を見せつけた飯田の他にもしっかりと活躍していたPTがあった。それが、「東京
彼等がガッチリと前衛を固めて役割を果たしたため、加賀野さんの「脱サラ会」と俺と里奈の「余り組」は、側道と後方に対する警戒に専念することが出来た。フォーメーション的には後方が「脱サラ会」、側面や側道が俺と里奈、という配置だ。
勿論、背後を襲われることも、側道から新手が飛び出して来る事もあったが、前衛がしっかりとしていたので、「脱サラ会」も俺も里奈も、それらのモンスターに対して集中して対処する事が出来た訳だ。
とにかく、「コウちゃんPT」と「手島PT」の成長は著しかった。
彼等は以前から、「脱サラ会」の加賀野さんと一緒にメイズに潜っている。クランやPTの垣根を越えた付き合いだ。ちなみに、彼等の面倒を見るような事をしていた加賀野さんは、
「知り合って、見てるとなんだか危なっかしくてな……放って置けないだろ」
と言っている。
昨年の「小金井・府中事件」における「小金井緑地公園メイズ」消滅後の、周辺モンスター掃討作戦時に彼等と加賀野さんらは知り合いになり、それ以降の付き合いだという。
それで、「放って置けないだろ」という加賀野さんの随分とお人好しな介入(指導とか教育といっても良いレベル)を受けた彼等は、その薫陶の元、自然とそれなりの下地を身に着けていた。そこへ、前々回の「武蔵野森市民体育館メイズ消滅作戦」から前回の「浅霧台公園メイズ消滅作戦」にかけて、
その証拠に15層での対
前回の「浅霧市公園メイズ」の15層で、第1広間を突破しきれなかった事を考えると、あれが
普通なら、急に強くなった場合はその後の「しっぺ返し」的な展開を恐れて周囲は釘を刺す事になる。ただ、今回はその「釘」を
「くっそ、もう少しなのに!」
「もっと練習しないとだめだ!」
「攻撃力が足りないよな、やっぱスキルか」
「いや、装備も見直そう」
となっている。マイルドヤンキー風の単純思考回路が良い方向に働いている感じだ。
ちなみに、15層の
「これからは、他のPTを引っ張って行かないとな」
などと、言っていたそうだ。
なんというか、「深い階層に潜れる[受託業者]を増やしたい」と考えつつも、実際に有意義な行為をしているのは加賀野さんなんだな、と少し反省するような気持ちになったものだ。
後は「ちなみについで」の話になるけど、15層の第2広場以降の戦闘は、「脱サラ会」と「余り組(俺と里奈)」が引き受ける事になった。
前衛として「脱サラ会」の毛塚さんや久島さんが残存する
そんな組立ての作戦で、その時点で14匹残っていた豚顔は一気に全滅した。
その後に続く第3広間では、例の
その結果、飯田の【飯田ファイヤー:火柱バージョン】や里奈の「飛ぶ打撃」に俺の「飛ぶ斬撃」を加えた、火力過多な先制攻撃によって、赤鬣犬はお得意の【幻覚スキル】を使う間もなく手負いになり、そこへ「脱サラ会」の加賀野さんと木原さんが突撃を仕掛ける。
最後のトドメは古川さんが【火属性魔法:中級】によって作り出した「燃える槍」の投擲だった。
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とにかく、仮称「晴海緑道公園メイズ消滅作戦」はこのようにして終了した。
時刻は7月18日の14:20。
ちなみに、例の壁面文字列は……見当たらなかった。「どうしてだろう?」と少し不審に思ったが、この点についてハム美は何となく「予想」を付けている感じだった。「推測ニャン」と断ってからハム美が説明した「予想」とは、
(人工的に「魔物の氾濫」が起こされた場合は文字列が無いニャン。でも、このメイズが人工的に氾濫まで引き起こすように導かれたか? については全く確証はないニャン)
とのこと。人工的云々と言っているが、つまり「播種の法」によって造られたか否か? が壁面文字列の有無に関係するのではないか、というのがハム美の予想だ。現時点では照明しようがない話だな。
ということで、俺はこの件にはあまりこだわらないことにした。第一「壁面文字列」なんてものがあっても、どうせメイズ側が人類を上手く操るために提示した都合のいい情報でしかないだろう。そう考えて、思考を切り替える。
とにかく、メイズに侵入してから24時間以内に「小規模メイズ」を消滅させるに至ったのは、中々凄い記録だ。正確には17時間か、とにかくすごい。今はコッチの凄さを誇ろうと思う。
俺達は互いの健闘を称えつつ、残る「メイズコア」を無効化。コアから得られたスキルは【3連撃】という近接攻撃用の
今回は公平にPT(俺と里奈は辞退した)でじゃんけんをして、結果、勝ったのは「手島PT」。スキルを習得したのは、
一方、メイズの方はというと……岡江君がコアに触れた瞬間、無事に消えてくれた。
それで、俺達20人は夏の昼下がりの緑道公園脇の道路に放り出される。
まだ周囲にモンスターが残っている状況なので、そこからは十分に注意しつつ、取り敢えず「電波障害」から回復したスマホで、日の出ふ頭に設営された自衛隊の前進基地に連絡を入れる。
電話は直ぐに繋がり、俺は作戦が終了したことを伝えた。ただ、どうも相手側の雰囲気がおかしい。普通ならもっと喜んでも良い気がするけど、電話の相手のテンションは「ちょっとそれどころじゃない」といった感じだった。
「どうしたの?」
「さぁ?」
里奈の問いに答える俺、一方、電話の先では、
『いま、高橋司令に替わります――』
とのこと。それで10秒ほど待った後で、今度は高橋さんが電話に出た。
『コータ君、里奈ちゃんや他の人達は全員――』
「はい、無事です。全員ピンピンしてますよ」
『そうか、良かった。先ずはありがとう……それで、大変言い難いのだが――』
「大変言い難い」と前置きして高橋陸将補が語った内容は、
『そこから自力で豊洲大橋の橋詰めまで移動してほしい』
というもの。何故か「お迎え」を送れない状況らしい。
「わかりましたけど……」
『すまんな。それで、橋についたらもう1度連絡してくれ』
「あの、他の部隊は?」
『ああ、黎明橋側……そこから見ると北側だな、そこと、豊洲大橋の2方面から装甲車の部隊を入れる』
「わかりました。じゃぁ豊洲大橋側の部隊に合流ですね?」
『そうなる。頼む』
そんな会話を終えて、俺達は緑道公園を西に進み、豊洲大橋の橋詰めを目指した。
そして、橋詰の交差点で自衛隊の装甲車部隊と合流した俺達は、そこでとんでもない状況が起こっていることを知ることになる。
――代々木公園を中心に半径2kmの範囲で魔物の氾濫発生――
「半径2km」という情報に、ハム太とハム美が
(その大きさだと……)
(氾濫を起こしたのは、多分……)
(中規模メイズなのだ……)
俺達が「小規模メイズ」に潜っている間、東京のど真ん中に中規模メイズが「魔物の氾濫」を伴って出現した。
それが事実だった。
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