*15話 緊急会議 メイズ消滅作戦、再び!
**五十嵐里奈視点************
「連続メイズ消滅事件」が関係者の耳目を集めるようになったのは7月に入ってからのこと。しかし、それよりも前、丁度5月の終わりごろから6月一杯にかけては「別の案件」が話題の中心にあった。それは、
――メイズの大量発生――
という事態。
実は、メイズの発生件数や発生場所に関する予測モデルの確立は、随分前から試みられていた(らしい)。まぁ、当初は全く当てにならない精度でしかなかったらしいが、昨年12月の「丙状況(メイズ同時多発に対する政府内の符丁)」で発見されたメイズの情報を盛り込むことで、
その予測モデルによると、今年、2021年8月時点での新メイズ発生件数は、東京近郊の関東地域で5件、中京地区で1件、関西地区で2件、九州北部地区で1件、という予想だった。また、場所については、東京近郊の関東地域の場合、荒川沿いの埼玉県さいたま市側に1件、神奈川県川崎市と東京都世田谷区に渡る太摩川沿いに2件、そして、杉並、練馬、板橋に渡る東京都の西側(東武東上線、西武新宿線、中央線、小田急小田原線の沿線)に3件、という予想だった。
その予測結果が示されたのが、今年の4月の事。
しかし、現実は予測モデルと乖離していた。
予測モデルが示した発生場所こそ大まかには合っていたが、発生数は予測数値を大幅に上回る数が
ちなみに、発生時期についはて、今年の4月から毎月「ポツポツ」と通報されているので、今のところ全く規則性が読み取れないとのこと。一時期、
とにかく、予想よりも2倍以上多いメイズが不規則な発生時期に発生したという現実を以て、事態は「大量発生」というよりも「異常発生」と呼ばれている。
ただ、現場レベルでは「異常発生」と呼ばれる事象も、政府の上の方から見ればそれほど緊急性が高い問題だとは思われていなかったらしい。
そのため[管理機構]としては、決められた手順に従う事になる。先ずは新メイズの発見場所を管理する権利者と交渉し、その後は入口周辺の警備を行う。そして初期調査の段取りをして、実際に調査した後は[受託業者]への解放に向けた設備設営に移る。今はそれらの手順を粛々と進めている状況だ。
そして、7月に入り「連続メイズ消滅事件」が発生し、殆どの注意がそちらへ向く間、私等「巡回課」は有志[受託業者]の協力を得て12件中8件まで、初期調査を終えている。それが今の状況だ。
それがなんで今頃になって「緊急会議」の議題に取り上げられるのだろうか?
それが私の率直な疑問だ。ただ、この疑問は直ぐに解消されることになった。
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『今月に入り、東京近郊の各オリンピック会場周囲を再度警察が確認した結果、次の4カ所に於いて、会場から程近い場所に新なメイズが発見されました』
モニターの向こうで議事を進めるのは安全保障局の吉池さん(富岡課長が狙っているらしい)だが、淡々とした口調でトンデモナイ事を言っている。しかし、そもそも、そんな面倒な場所なら――
「そんな面倒な場所は、真っ先に確認するべきじゃないのですか? なんで今頃――」
私の考えを代弁するように意見を発したのは我らが江口
それに、巡回課への人員補強を約束してくれたので、私としては「過ぎた事」だと思い水に流している。我ながら現金な性格だと思うけど、ちょっとコータの性格が移ったかな。
『江口常務のご意見はごもっともですが、5月に調査した時には特段問題がありませんでした。この1か月と少しの間で新に発生したと思われます』
モニターの向こうでは吉池さんがいつもの調子で丁寧な受け答えをしている。状況としては「しょうがない」と言える範疇なのだろう。調査したのは警察だという事だけど、彼等もずっとメイズを探し回っている訳じゃない。通常の業務にプラスアルファで対応したはずだ。
その結果、この時点で判明したのだが、寧ろオリンピック期間中に発見されるよりはマシだと思うべきだろう。
それに、今となっては「どうして?」を問うよりも「どうする?」を話し合うべきだと思う。
『協議の結果、4カ所のメイズについては、何れも小規模スケールであることから、これらを消滅させること事になりました』
ふんふん、つまり――
『そこで、以前の小金井府中事件において小規模メイズを消滅させた実績のある[受託業者]に対し、本件[消滅作戦]への協力を打診してください』
……やっぱり、そうなったか……。
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その後も「緊急会議」は続き、結局19:30頃に粗方を決めきって解散になった。
決まった事は、
――新たに発見されたオリンピック会場近くの4カ所のメイズを7月16日までに消滅させる――
ということ。主として[受託業者]がコレを担当することとして、[管理機構]は彼等の人選と協力要請、及び監督と後方支援を行うことになった。
その一方、万が一期間内に「消滅」しきれない場合は陸上自衛隊の「メイズ教導隊」が対処に当たることになった。
現在「メイズ教導隊」は、中部地区と九州北部地区のメイズにおいて[MEO値]が上昇した場合の対応に多くの人員を割いているということだ。これは、現時点で中部地区や九州北部地区を活動拠点とする[受託業者]が極少数しか存在しないからで、この状況は9月中頃の第3次[受託業者]募集以降もしばらくは変わらないだろう。そういった背景があるため、「メイズ教導隊」はバックアップ的な立ち位置に回ることになった。
一方、警察庁のSAT隊については「必要に応じて投入を検討する」とされた。どうも、彼等は主任務であるオリンピック期間中のテロ警戒態勢の方に回されているらしい。あとは、「連続メイズ消滅事件」に対する捜査や警戒も一部は彼等が担っているのだろう。まぁ、先の「双子新地高架下メイズ」事件において「対メイズ訓練」を施した精鋭部隊が甚大な被害を被ったので、大きく動かせないという事情もあるのだろう。
とにかく、そう言う経緯で4カ所の「小規模メイズ」を消滅させる
「ねぇ里奈。ほら、アナタの彼氏だけど」
と、会議後オフィスで書類整理をする私ににじり寄って来る富岡課長だ。やっぱり来たな、という感想。
新発見メイズへの初期調査の依頼などは現在、富岡課長率いる「委託課」の役割になっている。最初は総務部がやっていたが、途中から「これってウチの仕事じゃないよね?」ということで「委託課」が受け持つことになった。
そんな委託課の富岡課長だが、まぁ「先エネ局」時代から仲良くさせてもらっているし、私にとっては「姉貴分」的な人だ。でも、こう言うのは「公私」をしっかり線引きしなければ、この後もズルズルになってしまう。なので一応釘を刺さなければならない。
「初期調査と違いますし、かなりの危険が伴いますから、私の口からは『こんな話がある』位しか言えませんよ」
「そんな……」
「それに、私個人としては、そんな危ない事をコータにさせたくないです」
「う……で、でも」
まぁ、頼んできた富岡課長にも「公私混同を頼んでいる」という自覚があるのだろう。だからゴリ押してくる気配はない。
「話すだけです。いいですね、依頼するなら富岡さんの方から正式にしてください」
結局、この件は私が富岡課長を突き放すような言い方になった。
ただ――
(きっとコータ様達は話に乗るニャン)
と【念話】を挟んで来るハム美が言うように、多分乗るだろうなぁ、と思う。ちょっと前に「井之頭公園中規模メイズ」の16層に挑んだらしいが、その後
――もうちょっと火力が欲しいなぁ、新しいスキルとか取れないかな――
と言っていた。
現状[修練値]の関係でコータ達[チーム岡本]は新しいスキルを習得できない(ハム美談)。なので、不活性化すると同時に問答無用でスキルを習得できる[メイズコア]の獲得は、十分な打開策になる。
多分、私が何も言わなくても、委託課から依頼が行けば受けるだろう。そう考えると、ちょっと富岡課長に恩を売って置くのも良いかもしれない。例えば、休みの交換とか……3日以上の連休が……欲しいです……
「あ、ちょっと富岡さん!」
ということで、私は立ち去る富岡課長の背中に声を掛けていた。
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