*49話 似た者同士?


 なんだかんだ、で時刻は既に13:00過ぎ。


 あの後、パチンコ店「ラッキーツインズ」の店舗裏事務所に逃げ込んだ俺達4人は、そこで田中社長に事情を聴かれ、次いで田中社長と谷屋さん側の事情を教えられた。


 ――ちゃんと背景を含めて説明しないと、岡本も遠藤さんも気を付けよう・・・・・・が無いだろ――


 というのが、詳しい説明に「待った」を掛けた谷屋さんに対する田中社長の言葉。まぁ、世の中には「知らぬが仏」という言葉も有るけど……妙なゴタゴタに中途半端に巻き込まれた身としては、確かに事情は押さえておきたいと思うもの。なので、この田中社長の説明は有難かった(後は、昼食として出された出前の特上寿司もありがたかった……けど、これは蛇足だな)。


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 田中社長曰く、現在、「赤竜・群狼クラン」の朴木太一ほうのきたいち金元恵かねもとめぐみは、「双子新地高架下メイズ」の恐らく10層に潜伏している、との事。その2人が「何故そんな場所に潜伏しているのか?」については、谷屋さんが(渋々といった感じで)説明してくれた。


 なんでも……チューゴクのチョーホーキカンが絡む話とのこと。ちょっとだけ「聞かなきゃ良かった」と思ったのは内緒だ。とにかく、金元恵が昨年末の「小金井緑地公園メイズ」15層で、魔坑核経由で習得したスキル【解読】を巡り、その「諜報機関」と朴木・金元の間でイザコザが起こり、現在のようになっている、とのこと。


 金元は、例の壁面文字列を読み解く事が出来るスキル【解読】を以て日本政府に協力したのだが、その行為が谷屋さんの言う「諜報機関」の更に上位の組織・・・・・・・にとって問題だったらしく「それ以上の協力をさせない」や「勝手に協力した事への懲罰」を意図して金元の拉致を実行したらしい。


 まぁ、「諜報機関」側からしてみれば、「赤竜・群狼」クランは孫組織・・・のような位置付けなので、そのクランのトップの1人が勝手に競合国(日本のこと)に協力したのは面白くない、といったところだという。


 でも、ひるがえって金元側から見れば、自分達のクランのバックのバック・・・・・・・にそんな激ヤバな連中が居るとは思いもしなかっただろう。だから、彼女からすれば完全に事故のような話だ。「ご愁傷様に」と思う。ただ、「ご愁傷様」で済まないヤツが1人いた。それが朴木太一だという事。


 ――監禁先を突き留めて襲撃し、金元を奪還した。これで対立が決定的になった――


 谷屋さんの説明では、その後、朴木と金元は方々を転々としながら追手から逃れていたらしい。その途中で、[受託業者]への解放準備中の「双子新地高架下メイズ」の情報を掴み、その中に潜入、当座の潜伏先としたようだ。ただ、永遠に潜伏する事は出来ないし、食料等も乏しくなったので、朴木がメイズを抜け出て牧田沙月まきたさつきを頼り、その牧田が谷屋さんを頼った、という構図らしい。


 ちなみに、谷屋さんはその「諜報機関(統情4局とかいう名前)」の在日組織の前の責任者だったが、丁度、組織が金元を拉致した前後から指揮権が無くなり、今は牧田沙月まきたさつきと共に「2重スパイ」として追われる身だという。また、牧田と金元は父親違いの姉妹とのこと。まぁ、言われてみれば似てないことも無い(かな?)


 一方、田中社長側の事情は、かねてより傘下の「東京DD」へ「赤竜・群狼」のメンバーを引き抜く工作をしていたが、中々に上手く行かず難航していた。そこへ、「赤竜・群狼」のカリスマ的な存在である朴木が(紆余曲折を経て)助けを求めて転がり込んで来た、というもの。数日前の話だという。


 朴木は「双子新地高架下メイズ」を抜け出てから、「赤竜・群狼」クランの新入りメンバーであった手島に目を付け、「東京DD」を仕切る田中社長と連絡を取ろうと画策していたようだ。朴木が手島に目を付けた理由は不明だが、もしかしたら加賀野さん経由で「手島がクランを辞めたがっている」という情報が伝わったのかもしれない。「連絡が付かない」と言いつつも、しっかり情報が伝わっているとは、流石、お人好しの加賀野さんだ。


 ――別にボランティアで助けた訳じゃない。引き抜き工作の打算があるからだ。それに谷屋も色々と役に立つ情報を持っているからな! ――


 田中社長は(訊かれても無いのに)そんな朴木や谷屋さんを手助けしている事情を説明してくれた。オッサンのツンデレかな? と思ったのは内緒だ。


 とまぁ、ここまで話を聞いた時点で、尚、俺には田中社長と谷屋さんの繋がり・・・というか、関係性が良く分からなかった。ただ、何と言うか……2人に「妙な共通点」を見つけた気がして、それが妙に面白かった。


 片や中国の諜報機関の責任者の地位を追われ、今は自分も追われる身でありながら、牧田や朴木、金元を助けようとしている谷屋さん。片や「打算があるんだ」と言い訳(?)しつつ、結局逃げ込んで来た谷屋さん達を助けようとしている田中社長。この2人、立場は違うが絶妙に「似た者同士」だと思う。


(それは、たぶん言わない方が良いのだ)


 と、ハム太が【念話】で語り掛けて来たが、勿論俺もそんな事をいい歳をしたオッサンに言うつもりはない。心の中に留めておくつもりだ。


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 そんな感じで事情と背景の話は聞いたが、「それでこれからどうするんですか?」の部分については、田中社長も谷屋さんも言葉を濁した。「言いたくない」というよりも「どう言ったら良いか分からない」といった感じ。それで、先に口を開いたのは谷屋さんだった。


 ――朴木の事も、牧田の妹だという金元恵の事も、助けてやりたいが……手が無い――


 谷屋さんの隣に座っていた牧田が顔色を失って俯いた。ただ、反発しない所を見ると事情は分かっている様子。


 ――メイズの周囲には統情4局が動員を掛けた横浜・川崎の中華マフィアが目を光らせている。「蛟龍会」という名前はさっき言ったと思うが、アレも含めて「六龍連合会」という連中が「赤竜・群狼」のケツ持ちで、統情4局の子飼いだ――


 苦々しそうに言う谷屋さん。先ほど、谷屋さんと牧田を襲っていた連中の6人中5人は「蛟龍会」のメンバーだという。そして、張という男が「統情四局」の1級工作員(つまり、谷屋さんの元部下)だということだ。


 一方、田中社長は、こちらも苦い顔で


 ――対抗してこちらも動員を掛ければ、一気に抗争になっちまう。そうなれば損しかない。アッチはただのチンピラ崩れだが、こっちは何をやっても直ぐに一家全部の両手に縄が掛かる連中だ……ったく、暴対法ってのは本当にクソだが、見合わない以上、声を掛けられない――


 とのこと。田中社長のお友達であるおヤ〇ザさん・・・・・・達は頼れないらしい。それで、


 ――ウチのクランの連中をメイズに向かわせたいが……正直な話、余り無理はさせられない、手島も連中に撃たれたらしいしな――


 割と重大な事をサラッと言う田中社長に、俺はビックリした(谷屋さんも「え?」という顔付きになった)。思わず「手島は大丈夫なんですか?」と聞き返してしまったものだ。だって、俺としては、まだ500万円返して貰ってないからね。だから気になったんだよ! 心配なんてしてないよ!


 ――ああ、成成学園メイズだっけか? そこに逃げ込んで、別の[受託業者]PTに助けられたらしい。回復っていうスキルが有るのか? それで傷も問題無いという話だ。今は病院に居るらしい――


 なんだ、無事なのか……悪運の強い奴め、というのが感想。まぁ[成成学園メイズ]は「月下PT」の根拠地なので、上手く月成達が助けてくれたのだろう、と思う事にした。


 それで、パチンコ店の店舗事務所での話はこの後、


 ――朴木達の件は、もう、本人たちが切り抜けてくれることを願って待つしかない。今は、2人がメイズの外に出てられた後を何とかする手段を考えているところだ。だから、岡本も遠藤さんも、今日の事は野良犬に噛まれたとでも思って忘れてくれ――


 と言う田中社長と、


 ――お2人に助けてもらった恩は忘れない。だが、統情四局と「蛟龍会」に加えて六局も出ているようだ。素人には手に負えない――


 と言う谷屋さん。特に谷屋さんの言う「六局」という言葉が気になるが、口振りからして「もっともっとヤバイ」奴等だと直感できる。それに、張が撃たれる前に口にしていた言葉にも似たような響きのものがあった。


 ――さぁ、タクシーを呼んだから。それで川を渡った「双子太摩川駅」まで行ってくれ。あの辺りは監視網の外だから大丈夫だ。なんなら、直接自宅までそのタクシーを使って貰っても構わない、金はこっちで持つから――


 結局、そんな感じで最後は強引に事務所を追い出されてしまった。それが、10分ほど前の話だ。



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