*17話 下北沢メイズ、管理機構アラート⑥ 合流、そして5層へ


 重傷者への対応に手間取っていた所に、タイミング良く現れた里奈(と確か大島さんと水原さんの3人)。その内里奈は、ひと目でこの状況を読み取ったのか、軽く俺に非難の視線を向けつつ、後は惜しみなく彼女が持つ【回復魔法:下級Lv3・・・・・】の力を発揮した。って、いつの間にLv3に上がったんだ……


 ちなみに、俺に非難するような視線を向けて来た意味合いは、多分――


(なんでハム太お兄様の【回復(省)】を使わないの! って、里奈様怒ってるニャン)


 ですよね。俺もそう思います。悪いのはハム太です。


(濡れ衣なのだ!)


 と、久しぶりにハム美を交えた【念話】でのゴニョゴニョ話になるが、それはさて置き、5分ほど時間が経過したところで、取り敢えず重傷者の傷は塞がり、若干顔色が良くなった。その結果、


あねさん!」


 [東京DD]クランのA・PTリーダー役のコウちゃんが、ズズッと里奈に詰め寄る格好で、そう言う。


「え? ……なんですか?」


 対する里奈は、自然な感じで一歩下がるが、コウちゃん以下の面々はそれに構わず一斉に、


「ありがとうございます!」

「助かりました、ありがとうございます!」

「一生ついて行きます!」

「五十嵐の姐貴アネキと呼ばせてください!」

「アネキ、本当に、本当に、ありがとうございます!」


 と言い募る。なし崩し的に里奈は彼等のアネキ分になった。当の里奈は凄く嫌そうな顔をしているが、まぁ、性格的にアネキ気質な所があるからピッタリだね、里奈!


 ついで・・・の話になるが、ヤンキー風PT改め[東京DD・A]PTの面々は、実は五十嵐心然流の道場に週1回程度の頻度で通っている事が後になって分かった。まぁ、俺が勧めて道場を紹介したのだけど、その辺の事はすっかり忘れていた。ただ、彼等も後から豪志先生(親分とか呼んでる)の娘が里奈だと知り、より一層敬意を深い物にしたりする。親分の娘だから「姐貴アネキ」とは、実に自然だ。


 と、そんな事はさて置き、それでコウちゃんはと言うと、


「それで、コータのアニキ――」


 と、今度は俺の方へ話の矛先を向ける。いや、コウちゃん、「アニキそれ」は止めろ。見ると、里奈はしかめっ面を一転、吹き出す寸前の表情になっている。クソっ――


「これからどうします?」


 うん、この場合、それを決めるのは俺じゃなくて里奈だろうな。ということで、俺はコウちゃんの質問をそのまま里奈へ投げ掛けた。


「これからどうするの、里奈?」

「世田谷の時みたいに5層のセンチネルを斃せば治まると思う」

「なぁ、世田谷の時も、ここみたいにモンスターの数が多かったり、直ぐにリスポーンしたりした?」

「数は分からないわ、元がどうだったか知らないし。でも、リスポーンは結構早かった気がするわね」

「そうか」


 俺と里奈がこんな感じの会話をすると、コウちゃん以下の面々はちょっとざわついた。「アニキとアネキって知り合いなのか」とか「あの2人、付き合ってるのかな」とか「でも、ちょっと釣り合わないカップルだな」(ほっとけ!)とか、そんな感じの声が聞こえてくる。


 俺は、そんな外野のザワザワ声を鍛え抜いた[抵抗]で無視して、


「じゃぁ、5層を目指す感じになるのかな?」


 と、里奈に問う。対して里奈は「そうなるわね」と答える。そして、そうなった。


 再出発に際しては、少し揉めることになった。というのも[東京DD・A]PTの面々がゴネた・・・からだ。どうしても「ついて行く」と言って聞かない感じに成った。怪我をした面々も里奈の【回復魔法】によって取り敢えず動けるようにまで回復したから、自分達は5層へ向かう方に同行すると言う。


 対して俺は「多分、ドロップが出ないぞ」などと言って彼等に思い留まるよう説得する。里奈の方も「Cランクの皆さんには協力義務はありません」などと言う。まぁ、多分里奈も俺と同じ風に考えているのだろう。どういう事かと言うと――


(ちょっと邪魔ニャン)


 とハム美が【念話】で断じるように、身も蓋もなく邪魔なのだ。俺の「飛ぶ斬撃」も里奈の【操魔素】による「魔素打撃」も、効果範囲に味方を巻き込みやすい。普段は、気心が知れて充分に連携可能な仲間と行動しているから、さほど意識はしないが、全く門外漢な彼等にウロウロされると、ソレに気を配る分だけ精神的に負荷が増える。


 しかし、驚いた事にはハム太は、


([修練値]250の彼等は多分4層のレッサーコボルトが発する遠吠えからのラッシュを捌く事が出来ずに伸び悩んでいるのだ。これが成長の切っ掛けになるのだ)


 と、彼等の意志を汲み取るような発言をする。う~ん……確かに、ハム太の言うことも一理あるか。俗に言う「4・5・6の壁」というやつは、乗り越えるのがちょっと厄介な障害なんだ。


(最悪、後方の警戒位には役に立つのだ)


 まぁ、俺と里奈達[管理機構]を含めても4人。今のようにモンスターの密度が高くてリスポーンも早い状況だと、こちらの数も多いに越したことはないか……最悪は肉壁扱いになるけど……


「お願いします!」


 と熱心に頼んで来る彼等の意志を尊重し、結局は


只管ひたすら後方の警戒に徹してくれ」


 という約束で彼等を同行させることになった。


*********************


 3層に戻ってからの前進速度は、[東京DD・A]PTを後ろの守りに配した結果、想像以上に速いものになった。全体を平均すると早歩きから小走り程度の前進速度だったと思う。


 里奈の同僚という大島さんと水原さんは2人とも元陸自・メイズ教導隊隊員ということで、あの諸橋班長の部下だった人物。[管理機構]に出向となってからは、ずっと近接武器をメインにした戦闘をこなしていたようで、身のこなしも武器の扱いも手慣れた感じだ。2人とも[修練値]が500を少し超えており、ほぼ必須と言える【戦技スキル】やその他追加的なスキルを1,2個習得している。もうこの時点で一般的な[受託業者メイズウォーカー]よりも、よっぽど強い感じだ。


 ただ、そんな2人の存在感がかすんでしまうほど、里奈の強さがずば抜けていた・・・・・・・。今年1月初めの「太磨霊園メイズ」の時点で【操魔素】という特殊なスキル(又は特技?)を使いこなす切っ掛けを見出していた里奈だが、今はその扱いがより洗練されている。


 それが、どれほど強力な(モンスターにとっては破滅的な)威力を示すかと言うと、


「コータ、ちょっと脇へ避けて!」

「お、おう!」


 4層入って直ぐの長い通路。30mほど続く直線上には3、40匹のメイズハウンド、レッサーコボルトの群れが居座っている。その群れを前にして、俺は後方の里奈からそんな声を掛けられ、反射的に壁際へサイドステップで飛ぶ。その一拍後、


――ドンッ!


 と腹に響く衝撃音と共に、何かが俺の真横を駆け抜けた。


「んなっ!」


 思わず驚きの声が出る。というのも、里奈が振るった六尺棒から放たれた何か・・(魔素だろうか?)が、通路に群がるモンスターの約半数を文字通り打ち砕いて・・・・・しまったからだ。


「すげぇ……」


 この時の俺は、そんな感想しか言えなかった。しかし、もっと凄いのはこの後で、里奈はそんな破壊力のある大技風な「飛ぶ打撃」を、なんと2度3度と連打したのだ。結果として、4層入って直ぐの通路は一瞬で制圧。


「先へ!」


 と声を上げて走り出す里奈に、返事を出来る人間は俺も含めて誰も居なかった。


 こんな感じの前進になったから、マップという前情報が無い「下北沢メイズ」の4層も、全部で30分も掛からずに5層へ降りる階段を見つけ出す事が出来た。


「じゃぁ、いくわよ!」


 と、息つく暇なく言う里奈。俺はそんな彼女に頷きつつ、5層の番人センチネルモンスターに「ご愁傷様」と小さく呟いた。


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