*14話 下北沢メイズ、管理機構アラート③ 遠藤コータと愉快な仲間達?
俺はヤンキー風PTと女性職員の間に割って入ると、取り敢えずヤンキー風PTの事情を聴く事にした。「仲間が
改めて見るヤンキー風PTは、以前「調布ビルメイズ」で見た時よりも、幾分マシな装備をしていた。
まず防具について。前回スポーツ用品をプロテクターとして利用していたが、今は先月発売された大手スポーツ用品メーカー製の「メイズプロテクター」1式を6人全員が装備している。確か廉価版タイプの一式4万円くらいの品だ(飯田がキョドっていたからよく覚えている)。そして6人中2人がポリカ製の円形盾を装備している点から、PT内で役割分担が出来ていることが窺える。
一方、武器の方は鉄パイプや金属バットを改めて、今はホームセンターで売っているようなマチェットや剣鉈が主体になっている。その内、剣鉈の柄には丁度日本刀の目釘穴のような穴が2カ所開けられており、長めの鉄パイプに差し込んで「槍」として使えるような工夫がしてあるようだ。また、6人中2人がクロスボウを持ち、他4人がスリングショットを装備している点などを見ると、多分、加賀野さんの指導があったのだろうと推測できる。格好は違うが、全体的な装備の印象が昔の[脱サラ会]を彷彿とさせる。
そんな感じで少し進歩がみられるヤンキー風PTだが、そのメンバー1人1人の自己紹介を受けたのは今回が初めて。ちなみに彼等の自己紹介によると、
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ヤンキー風PT(本名:東京DDチームA)
PTリーダー:コウちゃん
役割:盾担当
装備:ポリカ円形盾、マチェット、スリングショット
所持スキル:【戦技:(剣)Lv1】
PTメンバー1:ユウ君
役割:盾担当
装備:ポリカ円形盾、マチェット、スリングショット
所持スキル:【防御姿勢】
PTメンバー2:ジロー
役割:近接アタッカー
装備:剣鉈、鉄パイプ、スリングショット
所持スキル:【俊足】
PTメンバー3:マジンガー
役割:近接アタッカー
装備:剣鉈、鉄パイプ、スリングショット
所持スキル:――
PTメンバー4:ウッシー君
役割:遠距離アタッカー
装備:クロスボウ、マチェット
所持スキル:【手当Lv1】
PTメンバー5:カツ丼
役割:遠距離アタッカー
装備:クロスボウ、マチェット
所持スキル:【戦技(弩)Lv1】
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という事になる。
正確には各自本名を名乗ったけど、覚えられる気がしない(覚える気が無いとも言う)ので、あだ名で呼ぶことにする。装備のバランスはとれているし、スキルも全員が所持している訳ではないが、装備と役割に合ったものを習得している。結構、最初からバランスに気を配った構成だと気が付くが、これは、
「加賀野さんの言う通りにやってるッス!」
とリーダーのコウちゃんが言う通りだった。
そんなヤンキー風PTは、田中社長が後援して出来た[東京DD]クランのトップパーティーとのこと。[修練値]の平均が
(全員250行かないくらいなのだ)
という事で、
ちなみに、[修練値]に関しては、前回「調布ビルメイズ」終了時に200前後に上がってから半年近くで50しか上がっていないのが気になるが、多分これは加賀野さんの差し金だろう。何と言っても、現在[DOTユニオン]の各PTは[修練値]が800以上にまで上がった結果、深い層に潜らないと満足にドロップが出ない、という苦労に直面している。聞けば[CMBユニオン]や[月下PT]も似たような感じだという。
それだったら、[修練値]は250から350程度にとどめておいて、5層を挟んで4から6、7層辺りでドロップを稼ぐ方が[
ちなみに、ヤンキー風PTは加賀野さんを介して敵対クラン(?)[赤竜・群狼クラン]の群狼第3PTと交流がある。だから、
「
「でも、なんでコータアニキが敦のことを?」
と言った感じで、手島の事はよく知っているようだった。
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と、こんな感じで自己紹介やら何やらで話が脇道に逸れかけたが、彼等はそれを自分達で修正すると、事情を説明してくれた。
「今日は朝一でウチのCとEパーティが中に入ってるッス」とコウちゃん。
「で、オレらは昼過ぎから入る予定だったッス」とカツ丼。
「でも、少し前にCパーティーのヤツから電話があって――」とユウ君。
ユウ君はそう言うと、以前中華レストランだったスペースに置かれている公衆電話を指差した。それで、
「Eパーティーの奴らが3層で怪我をしたって、それでウッシーが【手当】を持っているから、早く来てくれって」
なるほど、仲間の中に怪我人が出たから、【手当】スキルを持っているヤンキー風PTに「早く来てくれ」と連絡を入れた訳か。でも、
「なんでポーション使わないんだ?」
という疑問が沸いてい来る。ただ、これについては、
「市川さんから、『出来るだけ売り物には手を付けるな』って言われてるッス」
とコウちゃんが説明してくれた。「市川さん」とは、田中社長の所の番頭さん的ポジションの人だ。
ちなみに[東京DDクラン]のルールでは、ポーション類は全て田中興業に上納。それ以外のドロップから得られる収益の内7割はPTで分配。残りの3割の内2割はクラン全体でプールして、ボーナスとして全員で分配するとのこと。最後に残った1割が「クラン運営費」という名の上納金になるらしい。だから、スキルジェムなんかのポーション以外のドロップ品は、
――テメーらで考えて、売るなり使うなり好きにしろ――
という事になっているらしい。ただ、[管理機構]に依頼する【鑑定】費用の半分や持出し料の全額は田中社長が出してくれるらしい。結構太っ腹だが、こういう所は田中社長らしいと思う。訳の分からない名目で上前を撥ねて行く[赤竜・群狼クラン]とは比較にならない好待遇だ。
と、それはさておき、仲間からのSOSを受けたヤンキー風PTは予定を2時間ほど前倒しして「下北沢メイズ」に到着。なんやかんやと準備を整えて「いざ、メイズへ!」となった時点で、間が悪く[管理機構アラート]が発生。それで、認証ゲートはBランク[受託業者]以下では入れない状態になってしまった、ということ(彼等はCランクだった)。
(連れて行ってやるのだ)
マジか?
(仲間を想う気持ちは尊いのだ)
う~ん……しゃーないか。
「お前等、ちょっと待ってろ」
結局俺はそう言うと、公衆電話の方へ向かう。そして、圏外になってしまったスマホの電話帳から里奈の電話番号を呼び出すと、それを見ながら電話を掛ける。電話は直ぐに繋がった。
『もしもし、え? コータ? ごめん、今ちょっと立て込んでて』
電話先でそう言う里奈の周囲はガヤガヤと喧しい。遠くから聞こえる放送の音から察するに、何処かの駅で乗り換えを待っている、といった感じだ。そんな里奈に、俺はドサクサで電話をしてしまった事を思い出して、ちょっと緊張する。実は里奈の声を聴くのは4ヵ月ぶり……ってそんな場合じゃないか。
「今、下北沢のメイズに居る。中に負傷した仲間がいるって言うCランクのPTも一緒だ」
『え? そうなの? 私も向かってる所よ』
「そうか、まぁ怪我人が居るらしい。CランクのPTメンバーには【手当】スキルを持ってる奴もいる。だから、連れて中に入るぞ」
『え? ………分かったわ、好きにして』
電話先の里奈は少し驚いた風だったが、結局俺のリクエストを了解してくれた。そして、
『私も、後30分くらいで着くわ』
「じゃぁ、後で合流できるかもな」
という会話を最後に受話器を置いた俺は、
「すみません、[巡回課]の五十嵐課長代理に許可をもらいましたので、彼等を連れて中に入りますよ」
と、遠巻きにこちらを見ていた女性職員に言う。後は、その通り、粛々と「認証ゲート」を普通に
しかし、魔素の濃度が急上昇したメイズって中はどんな感じなんだろう?
(知らないのだ。経験がないのだ……)
俺の自問に、そう答えるハム太の【念話】が妙に心細く感じた。あと、里奈に連絡することに気を取られて、[チーム岡本]の面々に連絡するのを忘れていたのも、ちょっと痛い……かもしれない。
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