*メイズ消滅作戦⑮ 武器強化と12層再挑戦!


 変な大声を出したお陰で注目を集めてしまった。でも俺は、周囲からの視線が気にならない程度に集中して、短時間で色々な事を考えた。


 「何で今まで気が付かなかったのか?」とか「便利なアイテム・・・・・・・を独り占めするなんて」といった後悔や自責の念が少なからずあったが、それよりも「これをやったら、今後どうなるかな?」といった心配が先に立った。まぁ、俺は聖人君主でもなければ大輝のような異世界勇者でもない。凡人の域を出ない人間なのだから「保身を考えて何が悪い」という自己弁護まで思い付く始末だ。


(簡単な事を随分ゴチャゴチャと考えるのだ)

(単純ニャン、相応の対価を取って、後は内緒にしてもらうニャン)


 まぁ、この2人(匹)の言う事はごもっとも・・・・・。特にハム美が言うような結論に落ち着くのが自然だろう。もっとも、ハム美が言うような「対価」については、この場で言い出すのは気が引ける。やっぱりちょっとだけ、主に今まで気が付かなかった、という事実に後ろ暗い・・・・感じがあるからだ。


 だから、消費する[メイズストーン]は提供してもらう。その上で秘密にしておいてもらおう。言い触らされた結果、今後メイズで会う人会う人に「武器を強化してくれ」なんて言われたら堪ったものじゃない。ということで、


「この状況、打開できそうです。ただし――」


 俺は、視線を向けてくる面々に対して、そう切り出した。


*********************


 各ユニオン・PT共に、これまでの戦闘結果として[メイズストーン]をたんまり・・・・と拾い集めていた。その潤沢な[メイズストーン]を提供してもらい、各自の武器の内、特に鞘に収まる刃物の形状をしたものを補修・強化していく。


 最初は全員([チーム岡本]を除く)が「そんなこと出来るのか?」といった具合で疑っていたが、その疑いは俺自身が太刀[幻光]に僅かに生じた刃毀れを修復して見せることで本当だと証明して見せた。


 その結果、まず[脱サラ会]の加賀野さんが「物は試しに」ということで痛みが激しいマチェットを差し出して来た。加賀野さんの主武器は「飯田式組立槍」だから、補助武器のマチェットで試してみる気になったのだろう。ただ、補助武器といっても痛みが激しいのは確か。まともな刃・・・・・が残っている部分が全体の半分ほど。後は欠けたりめくれたりしている。


 俺はその痛んだマチェットと[メイズストーン](大体500g)を受け取ると、先ず刃喰鞘はぐろうそうの「喰い口」に[メイズストーン]を押し付ける。[メイズストーン]は鞘に吸い込まれるようにスッと消える・・・。見ていた面々が「お?」と声を上げてザワザワした。


 その反応を聞きながら、次いで鞘の「入れ口」の方へマチェットを差し込む。因みに鞘のサイズとマチェットのサイズは合っていない。マチェットの方が少しだけ幅広い。しかし、切っ先の一部が鞘の中に入ると、その後はスルッと鞘に収まる。しかも、鞘の長さはマチェットよりも短いのに、中に収めた刀身が反対側から飛び出すことも無い。毎度毎度の事ながら、手品のような現象だ。


 それで、一旦収めた刀身を鞘から引き抜く。作業はこれでおしまい。結果、マチェットのボロボロだった刀身は新品のように修復されている。


「あと、追加でメイズストーンを1kgほど喰わせると武器の性能が少し強化されるみたいです。メイズストーンの他に、同様の刃物を喰わせても強化になるみたいです」


 その説明に、加賀野さんは追加の[メイズストーン]とメイン武器の組立槍を差し出してきた。


 その後は順次、各ユニオン、各PTの近接武器や槍(穂先が鞘に収まるもの)の補修と強化を続ける。そして、最後の[月下PT]日本刀装備クールガイ(神宮寺さん)の日本刀を修復・強化した頃には、時刻は15:30を過ぎていた。


 作業の過程で分かった事は、月成凛つきなりりんが持つ【魔剣:フライズ】を除き、ほぼ全員の武器が相当痛んでいたことだ。攻撃力不足の大部分はこれが理由かもしれない。修復と合わせて[メイズストーン]の魔素を用いた強化も行っているから、攻撃力は元の状態から比べても微増しているはず。さて、どうなる事か……。


 ちなみに、刃喰鞘はぐろうそうによる武器の補修や強化については、各ユニオン・PTに秘密厳守をお願いした。反応は概ね肯定的だった。ただ、理由は各者各様。[DOTユニオン]の[脱サラ会]や[TM研]は「もっと早く教えてくれよ」という文句こそ少しあったが、守秘に関しては問題無い感じだ。


 一方、[CMBユニオン]のおっちゃん達は、


「遠藤君、連絡先を教えてちょ」

「今度飲みにいこ~よ~」

「釣りとかするなら、船出すよ」


 などと言いながらにじり・・・寄って来た。どうも、今後も継続的に武器修理なんかを頼んで来そうな雰囲気だ。まぁこの雰囲気はともかく、補修や強化を今後もお願いする、というのは[月下PT]も同じ。ちなみに、無料対応は今回限りで「今後は1回20万円ほど頂きます」と告げると、おっちゃん達は文句を言っていたが、[月下PT]は


「妥当な対価ですわ」


 とのこと。流石金満PTだ。


 一方[赤竜・群狼ユニオン]は単刀直入に


「おい、そのアイテムを売ってくれ」


 と来た。勿論[群狼PT]リーダーの朴木ほうのきの言葉だ。答えは「ノー」。それで、売れ売らない、の押し問答がちょっと続いたが、結局は[CMBユニオン]や[月下PT]のように「用があったら金を払ってお願いする」という事になった。ちなみに、そうやって押し問答を落ち着けたのは[赤竜PT]リーダーの金元恵かなもとめぐみだ。ちょっと突っ張った感じの女性だけども、朴木よりは常識人だ。


 結局、刃喰鞘の件が原因で、今回の各ユニオン・PTと今後も続く縁・・・・・・が出来ることになった。一部腐れ縁化することになり、面倒が増えたのは確かだが、まぁ悪い事ではない無いと前向きに考える。それに[赤竜・群狼ユニオン]との縁に関しては驚くような「良い出来事」があった。……まぁ、その辺りは少し先の話になる。


 俺達は12層へ挑戦を再開する。


*********************


 といっても、12層へ一足飛びに移動できないので、先ずは11層を通過することになる。階段の場所は既に分かっている11層だが、結局最初から階層全体の掃討クリアを目指した行動になった。


 どういう訳かと言うと、各自補修と強化を施した武器の「具合」を確かめたい、ということだ。武器も含めた実力を正確に把握しておかないと、弱い敵に不必要な注意を払い、強い敵に必要な対処が出来ない。その辺を踏まえた上での、いわば慣熟運転のような2度目の11層となった。


 それで、結果の方はというと端的に言って「良かった」。


 攻撃力が激烈に上昇した訳ではないが、3発殴って(この場合は斬り付けて)斃せなかったモンスターを2発できっちり仕留める事が出来るようになった。個人のバラつきはあるが、大体そんな感じだ。


 現に[DOTユニオン]の盾持ち組、井田君、久島さん、毛塚さんの攻撃力が上がったため、盾でモンスターを受け止める間にも、ある程度ダメージを与えることが出来るようになった。また、相川君、上田君、加賀野さん、木原さんといった近接組も、ここに来てようやく攻撃が冴えるようになってきた。お陰で殲滅する速度が上がる。


 更には、刃喰鞘はぐろうそうの恩恵が無い遠距離攻撃組でも攻撃力の向上が発生した。これは、朱音の思い付きだったが、単純な話として朱音の持つ[属性矢筒:風]を遠距離組で共有したのだ。矢筒に一定時間(多分5分くらい)矢を納めておく事で風属性が付与される、その仕組みを利用して朱音以外の面々のクロスボウ用の矢を矢筒に詰め込んで移動するようになった。


 結果として、不意の遭遇時の即射以外は、属性を帯びた強力な矢を放つことが出来るようになり、全体の攻撃力は一層向上した。


「コータ先輩のを見て、思いついたんですぅ!」


 と言う(自慢気な)朱音に、


「凄いな朱音、柔軟な発想だな」


 と褒める俺。そんな会話が普通に出るほど11層は順調だったという訳だ。


 そして、この雰囲気は[DOTユニオン]だけでなく、他の面々も同じようだった。


「じゃぁ、いよいよ12層再挑戦と行きますか」とCMBのおっちゃん。

「さっきと同じ配置でよろしいかしら?」と月成凛。

「別に」と朴木。

「俺達は構わないよ」と加賀野さん。


 各ユニオン・PTの代表がそんな会話を交わす。そして、[DOTユニオン]を先頭に、本日2度目の12層へ足を踏み入れた。



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