*メイズ消滅作戦⑫ 予想外の遠吠え
10層で小休止と水分補給を済ませた俺達は、諸橋班長以下の自衛隊部隊を10層に残して11層へと足を踏み入れた。
11層以降は、今回作戦に参加している全員にとって未知の世界だ。そのため、慎重に行動しよう、ということになる。まぁ、慎重に行動しよう、と言ったところで、結局
そういう事で、気を引き締めて臨んだ11層だったが、結果としては「あれ?」という感想になった。
まず出現するモンスターはほぼ9層と変わりが無い。ゴブリン
ただ、印象としては、全体的にモンスターが
「これまで2発で仕留めていたメイズハウンドが、3発ブン殴ってもまだ起き上がろうとして来る」
とは、[脱サラ会]の盾、毛塚さんの感想。隣で同じ盾持ちの久島さんも「うんうん」と
ただ、この時点で俺の意識は
現に[DOTユニオン]が受け持った通路は、先で再び3つに分岐し、その先で更に3つに分岐していた。それも、分岐先の最終的に行き止まりになる通路も、結構な距離を歩くことになる。中には、分岐先が他の分岐先に繋がって回廊状になっている所もあった。飯田が持つマッピングデバイス[PLS]によると、まるで木の根っこが地中に広がるような樹形図状の構造になっていた。
もっとも、構造が広いだけでモンスターの数は余り変わらない。だから、モンスター単体はタフになったかもしれないけど、遭遇密度はそれほど多くない。そういう
「ちょっとキツイけど、行けない事はないな」
結局、そういう結論になってしまう。この結論は[CMBユニオン]や[月下PT]も同じだった(因みに[赤竜・群狼ユニオン]は無言)。ということで11層踏破に
でも、本当に大変だったのは、これからだった。
*********************
12層は、階段を降りて直ぐに通路が15mほど続き、その先が「T」の字に分岐していた。丁度正面が突き当りの壁になっていて左右に通路が伸びている格好だ。先ずは、そのT字の分岐点を目指す。進む順番はDOT、赤竜・群狼、CMB、月下(12層に降りた時の順番)。ただ、進むにつれて違和感を覚える。その違和感の正体とは、
「なんだか……通路が広いよな?」
「確かに…‥広いですね」
岡本さんの呟き声に答える俺。どういうことかと言うと、これまで判で押したように幅4mだった通路が、なぜか
「これだと、盾持ちの
「でも、私とか飯田先輩は射撃位置が取り易いですよ。コータ先輩も動き易くなりそう」
懸念を言う岡本さんに、朱音が前向きな意見を言う。どちらも正しい、というのが俺の感想。
「まぁ、一長一短ってところかな、なぁ飯田?」
「……え?」
俺は朱音の言葉尻を捉えて飯田に話し掛ける。でも、飯田はこの遣り取りを聞いていなかったようで「え?」という表情で俺を見ている。どうも他の事を考えていた様子。結局、二度も同じ事を言うのが面倒なので、この会話はここで終わる。
ただ、飯田が何を考えていたのかが気になるので、そっちの話を振ってみた。なんといっても【直感】スキルは今まで色々な危機を事前に言い当てている。
「飯田、どうした? 何か気になる事でもあるのか?」
「ええぇっと……なななんととっとなくでで」
うん、分かっていたけど、毎度の事ながら要領を得ない返事だ。
と、ここで俺達の集団はT字の突き当りへ到達する。そして、
「どうする? 2つに分岐しているから
「それが良いんじゃないかな?」
「どっちでもいい」
「それで良いと思いますわ」
と言うユニオン代表同士の話合いになる。喋っているのは加賀野さんとCMBユニオンの[
その後、リーダー同士の
「じゃぁ、俺達[DOT]が左側を監視しておくから、残りで右側の探索を進めるってことで」
「オッケー牧場!」
「ふん」
「
という事になった。誰が喋ったかはもういいとして、[DOTユニオン]はT字路の左側を守ることになった。これは、月成凛が言う通り、
ということで、移動する必要が無くなった俺達[DOTユニオン]はT字分岐の左側に陣取る。通路の先は少し広い空間に繋がっている様子。先の方は
他の面々が右へ進んで20分ほど経過した頃だろうか? 左の通路の先を見ていた[TM研]の上田君と小夏ちゃんが「ん?」「あれ?」と声を上げた。それに気づいた相川君と加賀野さんが「どうした?」と問い掛ける。
殆ど同時に、壁に向かってぼーっとしていた飯田が顔を上げた。そして、リュックの中でもモゾモゾと動く気配がする。
(むむ、メイズハウンドなのだ!)
(数は10匹ニャン!)
「もももモンスターが、ききっき来そうでで」
ハム太とハム美、それに飯田が声を上げるのはほぼ同じタイミングだった。そして、左の先を見ていた面々も、
「メイズハウンドだ」
「他は?」
「いや、メイズハウンドだけ――」
「でも10匹は居るぞ!」
と声を上げる。それで、俺も左の通路の先を見るが、なるほど、通路の奥からこちらへ向かって、ほぼ全速力のメイズハウンドが10匹、突進して来る。
この時、俺達は敵がタダのメイズハウンド10匹だと思っていた。だから、遠距離攻撃で削りつつ、盾で受けとめて近接でトドメを刺す、という
「撃ちますぅ!」
「当たれぇ!」
「落ちろぉ!」
「見えるっ!」
などと言いながら、リカーブボウやクロスボウを放つ遠隔攻撃組の矢がメイズハウンドに届いた時、突然、
――ウオォォォウォォォオオ!
と、
(マズイのだ!)
(呼ばれるニャン!)
頭の中ではハム太とハム美の【念話】が響く。でも、これまで【遠吠え】を発したメイズハウンドなんていなかったぞ?
(それは、階層が深くなればモンスターも使えるスキルが増えるのだ)
(そうニャン!)
分かるけど、そう言うのは早めに言ってくれ!
内心で2人(匹)に文句をぶつける俺はさて置いて、周囲では、
「今のって、やっぱりコボルトの【遠吠え】だよな?」
「おんなじ感じに聞こえました」
「マジかよ……」
という会話が始まる。そして、岡本さんが
「コータ、
と問い掛けてくる。俺の意見というよりも、俺のリュックの中の2人(匹)の意見を知りたい様子。隠す必要のない話なので、
「それで、間違いないみたいです」
と答える。程なくして、その答えが正解だというように、通路の先から大勢が立てる物音が近づいて来た。
「っちょっと……ばばっば場所をもももっとままえへ」
その時点で飯田が声を上げる。分かりにくいけど、長い付き合いなので何が言いたいのか分かる。要約すると「陣取る場所をもっと通路の先にしましょう」という事。
ということで、[DOTユニオン]は遅まきながら通路を前進。階段から続くT字と、その先の広場の丁度中間地点まで進んだところで、【遠吠え】によって呼び集められたモンスター集団と接敵した。
モンスターの陣容はメイズハウンド30匹、コボルトチーフ2匹、ゴブリン
そんな大集団のモンスターと幅6mに広がった通路で激突することになった。
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