*メイズ消滅作戦⑪ 想定外と仕切り直し


 朝の諸々の用事を済ませる内に時刻は8:00となった。この間、自衛隊部隊側に動きがあった。20人ほどの後続部隊が5層にやって来たのだ。その部隊は少量の追加物資を運んで来たが、本来の任務はメイズの外と中の状況伝達だということ。


 ただ、5層に到着する過程で数名の隊員が負傷していたので、[月下PT]の【回復魔法】持ちポニテ美女(神谷麻美かみやあさみさんいうらしい)と【手当】スキル持ちの加賀野さんが処置を行った。(ちなみにハム太は未だ寝ていた)


 それで、8:00開始予定の打合せには、その部隊が持ち込んだ外の情報が付け加わる事になった。もっとも、後続部隊が届けた情報は(諸橋班長的には)余り良い情報では無かった様子。というのも、


「申し訳ないが、メイズ教導部隊は太磨霊園の現場へ向かうことになった。こちらは君達だけに押し付ける格好になってしまう。本当に申し訳ない」


 とのこと。「申し訳ない」と2度も繰り返す程度に申し訳ないと思っている様子だ。


 なんでも、太磨霊園側も「魔物の氾濫」領域内に生き残りの避難者が居る事が判明し、そちらの救助を優先することになったとのこと。しかし、昨日の小金井緑地公園における救出作戦中に発生した自衛隊戦闘車両からの発砲がマスコミに取り上げられ、紆余曲折の結果、昨日のような大々的な作戦が出来なくなった。そのため、少数精鋭による救出作戦を余儀なくされ、教導部隊はそちらへ回ることになった、という事だ。マスコミって……と思う、これが終わったら家のテレビを捨ててしまおう。


「君達が望むなら我々も戦闘に参加する。今のこの場にいる隊員は全員がメイズ徽章きしょう取得者だ。1級とはいかないが、全員が3級は持っている。それに戦闘参加許可が出ているし、メイズ用の弾薬・・・・・・・も少量ながら先ほど届いた」


 諸橋班長はそう言うと、近くに積まれた金属製の弾薬箱を見る。先ほどやって来た(もう上へ帰って行ったが)後続部隊が運び込んだそれらの弾薬箱は、オリーブドラブの他の弾薬箱と同じだが、表面に赤色スプレーで大きく「メ」と書かれている。「メイズ用弾薬」という意味だろう。


 ちなみに、


(う~ん、別に特段変わったところのないNATOの5.56弾なのだ……)

(でも、ちょっと魔素が纏わりついている感じニャン)


 ハム太とハム美の2人(匹)の【鑑定(省)】によると、自衛隊がメイズ用弾薬として持ち込んだ弾は、他と大差なく、若干魔素が纏わりついている程度の違いしかない模様。まぁ、魔素が纏わりついている仕組みは良く分からないが、その分だけモンスターには有効なのかもしれない。のかな?


(考えたことも無かったのだ)

(モンスターの魔坑外套を魔素で中和……乱暴だけどあり得そうニャン)


 まぁ通常弾よりも効果があるのだから「メイズ用弾薬」なのだろう。ただ、近接戦闘メインの[受託業者メイズ・ウォーカー]と銃を使用する自衛隊では……


「多分戦闘スタイルが全く異なるので、連携が取れると思えません。折角ですが――」


 という事でお断りすることになった。喋ったのは加賀野さんだが、[赤竜・群狼ユニオン]を除く各ユニオン・PTの意見はそのようなものだった。同じ[受託業者メイズ・ウォーカー]でも、普段から行動を一緒にしていないと満足に連携出来ないのだ。それが、武器系統の全く異なる集団を迎え入れて上手く行くとは思えない。


「そうか……では、我々は今後も補給確保に専念する。10層へ行こう」


 諸橋班長の方もその事には気付いていたようで、特に反論することなく今後の行動はそう決まった。


*********************


 その後、10層へ向かう行程は昨日の焼き直しになる。[CMBユニオン]のおっちゃん達は相変わらず[月下PT]と共にモンスター掃討に勤しんでいるし、[赤竜・群狼ユニオン]も昨日と同じく単独で頑張っている。[DOTユニオン]も同じように担当通路をクリアして階層を奥へと進める。


 既に下へ降りる階段の場所は分かっているから、全フロアを掃討クリアする必要はないのだが、それこそ[受託業者メイズ・ウォーカー]のさがとして、ドロップ拾得のチャンスを放って置く訳にはいかない。特に今回は「買取り額UP」や「鑑定料割引」「持ち出し無料」と色々な特典が付いている。稼ぐなら「今でしょ!」という訳だ。


 まぁ、中には[月下PT]のようにメンバー全員がお金持ちのご子息息女で構成された金満PTもいるから、全員が金の亡者という訳ではない。でも、スキルジェムを得ることは戦力UPに直結する。そういう意味でドロップ拾得の手を抜く訳にはいかない。全ては[小金井メイズ]を消し去るために必要な事なんだ……本当だよ?


 という事で、各自がモンスター討伐に励んでいる中、ちょっとした変化が起こり始めたPTがあった。[月下PT]の事だ。彼ら彼女らと行動する[CMBユニオン]おっちゃん曰く、


「昨日と感じが違うんだよね……なんか、すっごく俺達の事を見てるんだよ」

「ああ、やり難いよな。昨日なんて『お好きにあそばせ!』なんて言ってたのに、今日は『皆さん、どういった役割分担をなさっているの?』だぜ」

「ちょっと気持ち悪いな……」

「お前のは昨日の飲み過ぎのせいだろ」


 とのこと。早速、月成凛つきなりりんは行動に移しているようだ。傲慢さや自尊心の高さに対して向上心が上回ったのだろうか?


 実は今朝の会話で、俺は月成から求められて幾つかアドバイスをしていた。まぁアドバイスなんて言うと「上から目線」な気がするけど、傲慢で「雰囲気破壊神」的な態度を存分に見せつけていた月成からしおらしく・・・・・「遠藤さん、教えてください」なんて言われたから……正直に言おう、ちょっと気分は良かった。


 それで、アドバイスの内容はまずPT内の連携について。これについては「CMBの動きを参考にしたら良いと思う」と答えている。というのも[CMBユニオン]はこれまで収入優先でスキルを全部買取りやオークションに回していた。それでも6層でやれるだけの地力を持っている。つまり、各自が上手く連携して立ち回る術に長けている、ということ。スキルによる「火力ゴリ押し」だった[月下PT]とは対極にある存在だ。だからこそ「彼等の動きを参考にしたら良い」と言った訳だ。


 実に大した事を言っていない。


 ただ、俺の意見を月成は鵜呑み・・・にした模様。それで、6層7層と進む間の戦闘で、ひと段落する度に[CMBユニオン]に「さっきの行動はどういう意味が?」とか「これこれこういう意図ですよね?」などと訊いてくるらしい。お陰で[CMBユニオン]のおっちゃん達はちょっと辟易へきえきとしている。


「でも、あのPTって全員お金持ちだから、仲良くしておいて損はないですよ」


 面倒臭そうな雰囲気が漂い始めた[CMBユニオン]の面々に、そんな腹黒い事を言う俺。結局、このアドバイス(?)で[CMBユニオン]のおっちゃん達はやる気を取り戻してくれた様子。続く8層9層と、時には共同してモンスターに当たることもあったようだ。


 なんだか、最初とは立場が逆転したような感じがしないでもないが、[月下PT]は年長者ばかりの[CMBユニオン]との連携行動を深めつつ、戦闘中の冷静な立ち回りや効果的なスキルの使い方を意識するようになり始めた。


 アドバイスとしては、他にも「飛ぶ斬撃に頼らず戦技スキルを上げた方が良い」とか「盾を中心として戦列を意識したら良い」とか「司令塔を決めて『お決まりのパターン』を作るのも有り」とか色々言った。


 それらのアドバイスを踏まえた[月下PT]の変身・・は、10層を過ぎて階層が深くなるにつれて真価を発揮するようになってくる。勿論少し時間はかかる。ただ、その時間は十分に有った。というのも、11層以降は……結構厳しい戦いが続いたからだ。



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