四十七話 ペンギンよりも強いおまえは白鳥だ!
もっと、この気持ちがお互いに早く共有出来ていたらと一瞬思った。
でも、当時の私たちには許されない関係だったから、学校という環境の中にいる限り、秘密であり続けることは難しかったかもしれないよね。
「先生、ありがとうございます。こんな私を選んでくださって」
「原田以上を探すって、めっちゃ難しいぞ。ただな、おまえの魅力は同級生じゃ難しかったかもしれない。これまでフリーだったのが嘘みたいなんだから」
先生が私の手を取って立ち上がる。
「これからはオープンだ。よろしくな」
「はい。お願いします」
水槽ゾーンを出てみると、雨は止んでいた。
うっすらと日差しも出ている。今日は降ったり止んだりの繰り返しだと言っていたっけ。空を見上げると雲の流れが速いからまた雨雲が来てしまうかもしれない。
地面もフェンスも濡れているけれど、屋外飼育のペンギンを見たがる私に先生は笑った。
「水族館に来て、魚やイルカとかではなくそんなにペンギンが好きなのか?」
不思議がる先生。
そうだよね、でももう黙っている必要もない。
それでまた新しいことが見えてくるかもしれないのだから。
「ペンギンさんは鳥です。でも空は飛べません。陸の上ではよちよち歩きで決して早く動けるわけでもありません。自然界では敵に狙われてしまう弱い存在です。……私も同じでした。小さい頃から友達を作るのが下手で、運動神経も鈍くて、勉強もできなくて。おまけに病気までして。周りの子はみんな自然と持っているものも、私は逆に失った方が多かったくらいです」
「原田……」
先生が私を見ている。
大丈夫、心配しないで。
もう平気です。
「その代わり、あの子たちは水の中では自由に泳ぎ回れます。鳥の仲間にも水中に飛び込んだりする種類はいますし、水面をスイスイ泳いでいるどんな水鳥さんだって、水の中に潜ってしまえばペンギンさんには敵いません。あんなふうに私もどこかで強くなりたい。そう思っていたんです。そして今日、私も誰にも負けない幸せを受け取れました。だから、これで帳消しです。ううん、プラスになったと思います」
「原田……」
先生が私を抱きしめてくれる。
きっと私の鼓動は先生に伝わっていると思う。そのくらい力強かった。
「まさに『みにくいアヒルの子』の話そのものだな」
「お話だったら、そうかもしれませんね」
「例えが重なったり混じって申し訳ないが、おまえは周りのアヒル連中じゃない。ペンギンよりも辛い寒さを乗り切って、いつの間にか誰にも負けない立派な白鳥になっていて、どこまでも飛んでいける力もあるんだ。もう、そんな過去の心配をしなくていい。後ろは見るな。自信もって前だけを見ろ」
「はい。今日からはそれができそうです。でも、それならそれで、私にも目標を作りたいと思います」
先生の相手になるのが今の私のままじゃ、本当に申し訳なさすぎる。
学校を辞めたあと、茜音さんや菜都実さんのところで働くようになってから、私がこの先を生きていくために必要かもしれないと思っていたことを始めようと、この時強く思ったんだよ。
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