第217話 復活 25

 翌日―――


いつの間にやら世界を救うという志を持つことになった僕らは、決意も新たに共和国の本陣に向けて移動を開始していた。


昨日の夜、エイミーさんとセグリットさんの様子が気になったエレインが、エイミーさんとコソコソ話しながら、時折驚きの声を上げていた。内容までは聞き取れなかったが、エレインがとても優しい表情でエイミーさんの事を見ていたのが印象的で、やはり悪い変化ではなさそうだった。


また、セグリットさんやマルコさん、リディアさん、イドラさんを加えて、本陣での動きの確認をした。しかし、正直に言ってどのような展開になるのか全く読めない為、結局は臨機応変に対応せざるをえないという結論になってしまう。


一先ず、セグリットさんとエイミーさんは腕輪の効果もあって、そこそこの戦力と考えていいと言われ、公国の2人については、そのサポートに回るということだ。イドラさんについては、僕とエレインが一緒に動く事を伝えると、万が一がないようにエレインのサポートに付くということだったので、メイドである彼女の実力に若干の不安を持ちながらも、使命感を滾らせる彼女を置いておくわけにはいかないと考え、同行を許した。


結果として大まかな作戦は、僕とエレイン、イドラさんが正面から乗り込み、別動隊としてセグリットさん達には別かれて行動してもらうことになった。


あの拠点にはジョシュ・ロイドがおり、例の魔道具もあるということで、もしかしたら彼らの最終的な目的が果たされようとしている、まさにその場所なのではないかという予想があった。


その為、皆の身の安全を不安視してしまうが、そんな僕の気持ちが態度に出ていたのか、昨日の夕飯時にはエイミーさんから「私達は立派な大人で、子供の君に心配されるいわれなんてないんですけど!」と怒られてしまった。


その後も僕を安心させようとしてか、大袈裟な態度でお説教をしてきたのだが、そんな心遣いがなんだか嬉しくて、つい笑みを浮かべながら彼女のお説教に耳を傾けていた。そんな僕の様子が益々彼女をヒートアップさせてしまったようだったが、セグリットさんの仲裁でなんとか事なきを得たのだった。



「では、後程。動き出すタイミングですが、僕らが本陣へ入ればおのずと騒ぎになると思いますので、それを合図にお願いします」


「分かりました。いくら世界を救うためとは言え、ご無理はなさらずに」


 本陣から少し離れた場所、ここからはセグリットさん達とは別行動になる。前にも同じような事があったが、今回は以前とは異なって、後程合流することになるが、無事に合流ができるかどうかは分からないほどの危険に立ち向かうことになる。


「エレインちゃんを頼むわよ?身体に傷一つ付けたら承知しないんですけど!」


エイミーさんも僕に向かって言い募ってくるが、その表情は本当に心配しているといった様子だった。以前からエイミーさんとエレインは仲が良いなと思ってはいたが、何故か昨日からより親密になったような気がする。理由は定かではないが、悪いことではないので、特にそれについては話を聞こうとせずに見守っていた。


「勿論です!エレインは必ず僕が守ります!エイミーさん達も無理はせず、危ないと感じれば逃げるか、僕の居る方へ来てください」


「これでも近衛騎士なんだから大丈夫なんですけど!でも、本当に危なくなったら、私とセグリットをよろしくね」


エイミーさんは軽口を叩きながらも、最後の一言でセグリットさんを見る目は、とても不安げな眼差しを彼に向けていた。なんと言うか、その視線には愛情のようなものが感じられ、いつものエイミーさんらしくないものだったが、それを口にするほど僕は空気が読めないわけではない。


「ここに居る全員が無事に帰れるように全力を尽くします。マルコさんとリディアさんも無茶はしないようにお願いしますね」


「お気遣い、ありがとうございます。おそらく最も大変な役割はエイダ殿であると思いますが、どうか御武運を」


僕の言葉にマルコさんが感謝と共に激励の言葉を送ってくれた。その隣では、リディアさんも彼と一緒になって頭を下げていた。


「では、行こうかエイダ。我々の行動がこの国の・・・いや、この世界に平和と安寧をもたらす事になるかもしれない。必ず【救済の光】と王子殿下の野望を止めよう!」


「はい!」


息巻くエレインの様子に無茶をしないか心配になるが、僕と共に並び立ちたいと言っていた彼女が、後ろに隠れていて欲しいと言ったところで納得しないことは目に見えている。だから僕は、彼女の希望を最大限尊重しつつ、何かあってもすぐに守れるように意識や視野を広く持って戦いに臨むという覚悟をしていた。




「・・・これは」


 エイミーさん達と2手に分かれ、僕達は共和国の本陣に真正面から乗り込むべく、徒歩で向かっていた。昼前になり、ようやく遠目にも本陣の天幕が見えてきた頃、そこに数百人もの近衛騎士達が完全武装の状態で警戒体勢を敷いている姿が視界に入ってきた。


ここに来るまでの道中や、この場所に来てからも、周辺には王国や公国の騎士の存在は感知していたなかった。すなわちこの完全武装の騎士達は、戦争中の他国の騎士を警戒しているのではなく、僕達が襲撃に来ると読んで待ち受けているのだろう。


「2カ国と同時に戦争中だというのに、まさかこれほどの戦力を私達の方へ割り振るとは・・・よほど王子殿下は私達を警戒しているようだな」


僕の気持ちを代弁するようなエレインの呟きに、僕は苦笑いをして見せた。


「昨日エイミーさん達を救出したことで、警戒を強めてしまったようですね。それに、援護していたのが僕だということも、おそらくバレているような気がします」


「あれだけの質量を持った岩をいくつも作り出していたのですから、王子殿下も相手が相当の手練れが何人も居るか、もしくはエイダ様しかありえないと考えたのでしょう」


僕の言葉に追随するように、イドラさんが昨日僕が行った援護についての客観的な評価を口にした。


「・・・エイダ、覚悟は良いな?王子殿下は【救済の光】と協力したことで、この共和国に戦乱を招いた。私は近衛騎士として、王子殿下の間違いを正す為に動く。場合によっては、ここにいる騎士を殺さねばならない」


エレインは僕に近づき、瞳をまっすぐ見つめながら、今一度僕に覚悟を説いてきた。


「僕は正直に言えば、国の事よりもエレインとの未来の方が大事です。でも、王子や【救済の光】がやろうとしていることは、その未来を暗く塗り潰してしまうかもしれません。僕は僕の信じた道をエレインと共に歩みたい。だから、それを阻む存在は全力をもって対処します」


エレインからの問いかけに答えると同時に、僕は白銀のオーラを纏いながら自分の決意を表明した。そんな僕の言葉に、彼女は頬を少し赤く染めて笑みを浮かべていた。そんな彼女の表情を見るだけで、僕は身体の内から力が湧き上がってくるような感覚を覚えた。


「ありがとうエイダ!それではこのまま正面から行くぞ!まずは我々の正当性を宣言する!!」


そう言って前に振り向く彼女の横顔は、使命感に満ちた凛とした表情だった。そんな彼女の様子を見た僕は、改めて自分の彼女に対する想いが深まっていくのを感じていた。



「っ!!貴様らっ!そこで止まれ!!」


 共和国本陣の正面入り口付近。僕とエレイン、イドラさんは、共和国の近衛騎士から武器を向けられながら警告を受けた。


「私はエレイン・アーメイ!アーメイ伯爵家の次期当主である!!」


「僕はエイダ・ファンネル!剣神と魔神と呼ばれた両親の息子だ!!」


「「この世界を守るため、【救済の光】に与するフレッド王子を止めに来た!!」」


互いに名乗りを上げ、異口同音にこの本陣に来た目的と正当性を叫んだ。そんな僕らに対して騎士達は、苛立った表情を見せながら声高に言い返してくる。


「何をバカなことを言っているのだ!貴様ら、王子殿下を害しようなどと不敬の極みだぞ!!相手が誰であろうと、我ら王子殿下に忠誠を誓う近衛騎士が怯むとでも思ったか!?その首、今すぐ撥ね飛ばしてくれる!!」


その騎士の怒号を合図にするかのうに、僕らと相対していた騎士達が動き出した。魔術師達は雨霰あめあられと様々な属性の魔術を放ち、剣術師達は僕らを取り囲もうと後ろに回り込もうとしてい。


当然こちらも黙ってやられるわけにはいかないので、僕は右手に剣を、左手に魔術杖を構え迎え撃つ。


「魔術妨害!神剣一刀!」


白銀のオーラは、魔力としても闘氣としても使える。その特製を活かして僕は、魔術と剣術の同時発動を行った。


「「「な、なにっ!!!?」」」


「「「ぐあぁぁぁぁ・・・」」」


その結果、己の魔術を消し去られた様子を見た魔術師達は目を見開いて驚愕し、呆然とその様を見つめていた。また、直撃しないように横薙ぎに放った神剣一刀の強力な衝撃波に巻き込まれた剣術師達は、僕らの後方に回り込むことは叶わず、本陣の方へと吹き飛んでいった。


「宣言する!君達程度の実力では無駄死にするだけだ!おとなしく元凶である王子の元へ通せ!!」


これは僕なりの慈悲の言葉だ。おそらくは彼らも王子に従って【救済の光】に与している立場にあるのだろうが、僕とて正義の名の元に大量殺人をしたいわけではない。彼らが諦めて投降するのなら拘束し、然るべき場所で裁いてもらえばいいと考えての問いかけだった。


「・・・くっ!我らは王子殿下に絶対の忠誠を誓った誉れ高き騎士だ!例え絶対に敵わない相手だと分かっていても、この身を挺して王子殿下を守る!それが我らの正義!それが我らの存在意義だ!!」


「そうだ!我々は王子殿下の思い描く共和国の未来に希望を見た!最後の一人になろうとも、貴様に屈することはない!!」


「我らを殺したくば殺せばいい!!だがその瞬間、貴様達は反逆者としての汚名を一生背負って生き続けることになるのだ!!」


僕の問いかけで投降する者は、この本陣において一人もいなかった。近衛騎士達の目は決意を滾らせており、その様はまるでミレアに洗脳でもされたような学院の生徒を思い起こさせた。


「エイダ、これ以上の問答は無意味だろう」


ため息混じりに騎士達を見ていた僕に、エレインが悲しげな表情をしながら声をかけてきた。


「・・・仕方ないですね。騎士達の決意に水を差すようですが、今は邪魔なので消えてもらいましょう」


そう言うと僕は、こちらに突撃して向かってきている騎士や再度魔術を放としている騎士に向かって魔術杖を突きだし、特大の風魔術を発動する。


「吹き飛べっ!!」


この場にある何もかも、一切合切の全てを吹き飛ばす程の暴風を放ち続け、杖の向きを平行移動させながら視界に映る全ての騎士達を根こそぎ彼方へと吹き飛ばしていく。


「ぐぅぅぅ・・・ぐあぁぁぁぁ」


「き、貴様、正々堂々と戦えーーー」


「ゆ、許さんぞ貴様ーーー」


近衛騎士達の矜持を踏み躙るようで申し訳ないが、邪魔な彼らは遥か後方の彼方に退場してもらう。地面に武器を突き刺して暴風に耐える者もいたが、結局は耐えきれずに恨み言を叫びながら誰も居なくなった。


さすがにあの人数を全部相手にしていては時間が掛かってしまう。今はそんな余裕な時間は無いので、一掃させてもらった。着地の際に打ち所が悪ければ死んでしまうだろうが、そこは仕方ないと割りきっている。


見れば、本陣の天幕もいくつか僕の魔術の影響で吹き飛んでおり、その中にあった場違いなものに視線が行った。


「あれは魔獣?何故こんな本陣に?」


僕が見たのは、巨大な檻に入れられているSランク魔獣のヒュドラだった。

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