第206話 復活 14
取り乱すようにしていたエレインと闇落ちしたようなエイミーさんが落ち着いたのは、それから1時間ほど経過してからだった。エレインとのことは、これから色々と細かいことを話し合わなければならいとは思っているが、一先ずは
そのため僕らは、実際に平原へと到着した際の段取りなどを確認していた。基本的に僕は【救済の光】の構成員を捜索することになるし、セグリットさん達は共和国が敷いている本陣へ情報収集と、考えられる組織の思惑を報告するために別行動となる。
ちなみに公国の2人については、僕の行動の補助というか戦場に介入しないという約束を守っているかの監視ということで同行する。また、エレインについても同様に、僕と共に動くことにしている。
本当ならエレインを安全な場所に匿っておきたいところだが、既に戦争が始まっている事と、組織や生き残っているかもしれないジョシュ・ロイドがどう動いてくるかも分からない現状では、僕の目の届く範囲が一番安全だろうという考えもあって、多少の危険は仕方ないと割りきるしかない。
そうして諸々の行動を確認し終えた僕達は、一路グレニールド平原へと移動するのだった。
◆
side フレッド・バーランド・クルニア
「報告します!公国との戦場にて、現在我が方の被害は死者25名、負傷者215名!公国兵にもそれなりの損害を与えておりますので、現状では大きな兵力差は出ていないと思われます!」
「報告します!王国との戦場にて、我が方の被害は死者31名、負傷者153名!戦場に大きな乱れはなく、均衡状態が続いている状況です!」
開戦から丸一日が経過し、本陣にて指揮を取っている私の元に、両戦場の騎士達が通信魔道具によって戦況報告を行ってくれている。その報告文を通信要員の騎士が読み上げ、私の指示を仰ぐようにこちらを見つめている。
予定よりも早く開戦の火蓋が切られたのは少々驚きもあったが、想定の範囲内だった。どうやら王国との戦場で睨み合う内に、先走った馬鹿が手を出してしまったのが発端だったらしい。今となってはどちらが先に手を出したのかも分からない為、そのまま開戦となってしまった。
本来であればこの戦争の正当性を互いに主張し、最終的に相容れないとなった段階で始まるはずだったのだが、始まってしまったものは致し方ないだろう。しかも、王国との戦いが始まってしまったために、計画を崩壊させないように公国の戦場でも戦いを始めさせるしかなかった。
その為、公国に対しては多少無理な形での開戦となってしまったが、既にこうして戦いが始まってしまったのだ。この戦争が終わるまで、こちら側の無作法を問い詰めることは出来ないだろう。
「報告ご苦労。まだ開戦してそれほど時間もたっていないからな、大きな戦況の変化はないか」
私は昨日の突発的な開戦について回想しつつ、戦場からの報告を書記官に書き記しさせ、司令室であるこの大きな天幕の中央にある巨大なテーブルの上に広げられた平原の地図を見ながら眉間に皺を寄せていた。
「そのようですな、殿下。今しばらくはこの均衡を保ちつつ、予定通り混成部隊を陽動として敵側面から前後を分断するように突撃の指示を出すべきでしょう」
私の呟きに声をあげたのは、軍務大臣であるロイド卿だ。彼は今回の戦争を指揮する者達の中では、私に次ぐ立場にある。この天幕には彼の他に、私の派閥の中でも信頼の置ける側近達が集まっている。戦争における作戦関係の計画・立案は、主にロイド卿と彼らに任せてもいるため、彼の言葉に私は小さく頷き、それぞれの戦場の連絡員である騎士達に向けて指示を出す。
「よし、事前の予定通り明日の夜明け前に混成部隊を2つに分けて左右に配置、陽の出と共に突撃するように伝えろ!」
「「はっ!!」」
私の指示を聞いた騎士達は恭しく敬礼をすると、この天幕に備え付けている通信魔道具へと向き直り、私の指示を黙々と記入していた。
この本陣は、対王国と対公国の戦場からそれぞれ早馬で2時間程の距離の場所に設置されている。予備物資の備蓄を備え置き、不足が生じればすぐに補給に向かわせられるように人員も配置している。これは物資を最低限にすることで、戦場の移動などが起きたときにも効率的に移動できるようにという考えのもとに運用されている。
今回の戦争では、基本的に接近戦に秀でている王国に対しては、魔術師を中心とした騎士達の部隊を中心にして遠距離からの絨毯攻撃でもって損害を加えることを主眼においている。逆に遠距離戦に秀でている公国に対しては、剣術師を中心とした騎士達の部隊を中心にして、接近戦による各個撃破を主とした作戦を立てている。
今までの戦争から、当然相手国もそれを予想しているはずなので、どちらの戦場にも遊撃役として少数精鋭の魔術師と剣術師の混成部隊を待機させている。そしてその部隊には、私の指示の元に開発されたある新兵器が配備されていた。
「殿下、いよいよあれが実戦に投入されますな」
「そうだな。一番効果を見せるのは公国の戦場だろうが、王国とて無事ではすむまい」
「仰る通りで!使い方次第で、溜め込んだ力を一気に放出できますからな。たった1本に数十名分の力を溜め込ませたのですから、全て併せればかの剣神や魔神の一撃を凌ぐ程の力もありましょう!」
彼は例の魔道具が、どのような結果をもたらすのかの報告を心待ちにしているような弾んだ声で私に語りかけていた。
「そうだな。しかし実用段階に漕ぎ着けたとはいえ、騎士に持たせているものは一度限りの使い捨てだ。やはり本命は例のものを使用した特別製でないと、世界に対する衝撃は薄いかもしれん」
「そうでございますな。報告によれば、もう間もなく届くと聞いておりますので、届き次第次の段階に移るべきでしょう。ただ、例の人物達の処分については失敗したようでして、その点は今後も注意が必要となるかと・・・」
口ごもる彼に対して、私は余裕の籠った表情を見せた。
「心配せずとも分かっている。そもそも、あの者達を簡単に屠れるとは考えていなかったからな。それに、どのみち全てが計画通りにいけば、彼らの事など気にする必要すらなくなるのだ。全てはその為に準備してきたことなのだからな。では、例のものが届き次第、戦場を後退させる。ロイド卿も準備に抜かりなきように頼むぞ」
「畏まりました。お任せください」
そう言うとロイド卿は、恭しく頭を下げて天幕をあとにした。それを見送った私は、天幕に用意されている柔らかな椅子に腰掛けて、大きく息を吐いた。
「ふぅ・・・ようやく、ようやくここまで来たか。5年前、成人したばかりの私に彼らが接触をもってきた時には正直驚きもしたが・・・なるほど、やはり私の選択は間違っていなかった。あと数日で今まで何百年と続いてきたこの不毛な戦争も終わる。私が終わらせる。そして私はこの大陸史に残る名君として世界を平定する」
私は目を閉じ、これまでの事、これからの事を脳裏に思い浮かべながら口元を歪めていた。最大の懸念事項である剣神と魔神を抑える
そうなれば、私の覇道を邪魔する者も居なくなる。変革には多少の犠牲はつきものだが、今回の計画のそれに一般市民への損害はほとんどない。そしてこの戦争においては、3カ国ともにかなりの兵力を動員して臨んでいる。それは即ち、この戦場におけるほとんどの騎士達が倒れでもしたら、どの国の武力もガタガタになってしまうということだ。
「とはいえ、その為の3ヵ国による同時戦争なんだがな・・・かなり強引な手法だったと思うが、公国も王国も予定通りに動いてくれた。さすが、あの組織の組織力は侮れんな・・・」
そんな事を考えながら、私は天幕の天井を仰ぎ見つつ、あの組織の力を利用しなければ目的が果たせなかった己の非力さに自嘲気味な笑みを浮かべるのだった。
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