第104話 決勝 14
王女が真剣な顔をしながら伝えられた報告は、次の2つだった。
1つ目は、今まで僕に監視を付けていた事についての謝罪。以前、エイミーさんが僕を監視していたのは、王女からの命令で既に強大な実力を近衛騎士の前で示していた僕の背後関係を見極めるために必要な処置だったということだ。
世間一般的に見た自分の実力が分かる今でこそ、一国の王女が僕を監視する理由はなんとなく分かるのだが、こう言ってはなんだが、もう少し話の分かる人というか、優秀な人の方が良かったと思ってしまう。
また、その後も僕の監視を消極的にだが続けていたようで、基本的には直接見張るのではなく、協力者からの情報だったり、極力僕自身に視線を向けないような監視スタイルだったらしい。それは、直接視線を向けてしまえば、あっという間に僕に気づかれてしまった教訓から学んだとの事だ。
(もしかして、私服のエイミーさんと偶然街で会った時も、実は任務中で僕の事を上手く監視していたのか?僕は気づかなかっただけで・・・いや、あのエイミーさんに限ってそんな高度なこと出来るわけないよな・・・)
先程見た近衛騎士然とした彼女の姿には驚かされたが、あの残念な性格がそうそう治るわけ無いと失礼ながら思ってしまう。ここは協力者や他の近衛騎士の監視が優秀だったということで、納得しておくことにした。
更に王女は、今回の件の報奨と監視していたことのお詫びも兼ねて、1000万コルを贈ると言われた。あれだけの事で、と金額に驚きはしたが、貰えるものは貰っておこうという考えなので、ありがたく頂戴することにした。
そしてもう一つの報告は、アッシュのお兄さんであるジョシュ・ロイドの身柄についての事だった。
襲撃者が現れてからのあの騒動の渦中、騎士達は彼の姿を見失ってしまい、捕縛できなかった事を謝られた。近衛騎士にとって最も優先すべき事は、
そんな僕の様子に、後ろで控えていたエリスさんが前に出て深々と頭を下げた。
「奴を捕縛できなかったこと、近衛騎士を代表して謝罪する!本当に申し訳ない!」
「あっ、いえ、そこまで謝っていただかなくても大丈夫です。ただ、今後も何かありそうで面倒だなと思っただけですから」
「すまない。正直、あれだけの衆人環視の中での失態と、貴族位の廃嫡で奴の心は完全に折れたと考えていたのだが、我々の予想以上に恨みや憎しみといった感情が強かったのかもしれない・・・」
「ははは・・・何ででしょうね」
苦渋を滲ませるエリスさんの表情に、何故そこまで恨まれてたんだと考えるが、若干心当たりがあるので苦笑いを返した。
(あの時の模擬戦で上手に負けていれば良かったのかなぁ?いや、あれは切っ掛けで、一番大きな理由はアーメイ先輩の事かもしれないな。かなり執着していたっぽいし、僕と先輩が楽しげに話しているのが許せなかったのかも・・・)
自分の想い人が、自分ではない別の異性と楽しく話している。そんな場面を想像すると、僕も黒い感情が湧き起こってくるが、だからといって殺そうとされたり、無実の罪を着せる事をしても良いのか、というのは全くの別問題だ。
そんなことを考えていると、王女が口を開いた。
「これは未確認の情報ではありますが、彼は襲撃してきた組織、【救済の光】に身を寄せた可能性があります」
「えぇ?そうなんですか?」
「あの組織にとっても、元侯爵家の次期当主というのは利用できる存在と思っているでしょうから、おそらくは・・・」
あの組織も組織で統制がとれ、厄介な性質を持つ魔道具を使ってくるので、その組織とお兄さんが合わさってくるとなれば、余計面倒なことになるのは火を見るより明らかだ。
「分かりました。今後注意しておきます」
僕がそう返答すると、王女は更に話を続けてきた。
「実は、先程申し上げていた
「今の話に?な、何でしょう?」
今のアッシュのお兄さんの話に付随すると聞いて、嫌な予感が頭を駆け巡った。
(ま、まさか、アッシュのお兄さんを僕が捕縛して欲しいとか、あの組織を潰すのに協力して欲しいとか、そんな事か?)
身構えるように王女の言葉を待っていると、告げられたお願いは僕の予想とは全く違ったものだった。
「彼があの組織に加わると考えると、その組織力を利用してエイダ様やエレイン様に手を伸ばしてくることも考えられますので、少しの期間、お二方は学院を離れて様子を見ませんか?」
「えっ?学院を離れるって、退学ってことですか?」
「わ、私もですか?」
王女の言葉に、僕とアーメイ先輩は驚きながらそれぞれ疑問の言葉を口にした。僕達の様子に王女は微笑を浮かべながら疑問に答えた。
「エイダ様、学院を離れるというのは
「そ、それは・・・」
王女の指摘に、先輩は何とも言えないような表情を浮かべていた。
「彼がもし動き出した時に、武力ではエイダ様に敵わないと見て、あなたを利用しようと考える可能性は十分あります。お二人の関係性を考えれば特に・・・」
「っ!わ、私とエイダ君はまだそういった関係では・・・」
「ふふふ、まだ・・・ですか。ですが、問題は相手がどう思うかですよ?」
「・・・・・・」
王女の言葉に先輩は何も言えずに俯いてしまう。2人の会話から、アーメイ先輩が僕の事をどう想ってくれているのかは何となく分かったが、だからと言って僕が自分の想いを先輩に告げるには、色々と解決しなければならない問題も多い。
(派閥や身分の問題もあるし、何より僕自身が先輩の横に立っても相応しい存在にならないといけない!)
何をどうすれば先輩にとって相応しい存在になれるのかはまだ分からないが、世間的な評価で言えば、僕はまだ単なる学生でノアだろう。多少の力はあれど、両親には遠く及ばないと考えると、もっと功績を挙げるかして先輩に相応しい存在になりたいと考えていた。
「王女殿下、学院を離れるための依頼とは、どういった内容なんですか?」
先輩との話が途切れたところで、王女の言う依頼が何なのか確認することにした。
「依頼内容は、遺跡の調査です」
「・・・遺跡ですか?」
「はい。クルニア共和国とグルドリア王国との国境を隔てるサザビーク山脈の麓に、小さな遺跡があるのですが、その遺跡と周辺環境の調査をお願いしたいのです」
「・・・結構簡単な内容ですね?」
「そうですね、周辺にはそれほど強力な魔獣もいないと聞いています。それに、依頼の目的も目的ですので、観光旅行気分で楽しんできても構いませんよ?」
「いえいえ、さすがに依頼であればしっかり調査しますよ!」
依頼の目的は理解しているが、あっけらかんとした口調でそう言う王女に驚きつつも、遊び半分の気分では不味いだろうと反論した。
「まぁ、さすがですね!それでは報酬なのですが、200万コルとギルドランクがBBとなるように手配しましょう」
「・・・え?」
「お、王女殿下!?その報酬内容は、その・・・あまりに過剰なのではないでしょうか?」
王女から提示された報酬は、僕が聞いても破格のものだった。当然アーメイ先輩も同じことを思ったようで、目を見開いて王女に聞き返していた。
「そうなんですか?実を言うと
王女の話に少し考え込む。200万コルの報酬を先輩と2人で折半しても、一人100万コル。一般的な平民家庭の約5ヶ月分の収入を、たった1回の依頼で貰えるのは確かに破格の条件だ。しかも、達成の暁にはギルドランクがBBになるなんて、好条件過ぎて逆に怪しく思えてしまう。
「王女殿下?この依頼って、実は報酬に吊り合うような危険があるという事はないですか?」
僕は懐疑的な視線で王女を見つめながら、この依頼の内容について問いただした。
「他国との国境付近まで行っていただきますし、道中や目的地には魔獣も蔓延っていますので、全く危険がないことは無いですよ?」
「それはそうですが・・・では、命の危険が伴うくらいの状況も想定されるという事は無いということですか?」
「う~ん、
どうにも僕の質問から少しずらして答えているというか、明言を避けている印象がある。ただ、王女の言う通り、魔獣が出現する場所で絶対安全な任務というものは無いので、そう言われればそうだと納得もできてしまう。
「・・・アーメイ先輩はどう思いますか?」
一人では判断がつかなかったので、先輩の助言を貰おうと聞いてみた。なにより、この依頼を受けるということは、先輩と一緒に行動するということになるので、僕と行動を共にすることをどう考えているのか気になってもいた。
「・・・私は受けても問題ないと考えている。確かに殿下が指摘するように、ジョシュが諦めていない可能性もある。すぐに動いてくるということは無いだろうが、あの襲撃してきた組織と共に動くなら、自分のせいで他の学院生徒にも被害が出るかもしれないという不安もある・・・」
さすがアーメイ先輩は、自分だけではなく周りへの影響も考えていた。そう言われてしまえば、僕に否は無い。それに、そもそも先輩の身を危険に晒すような事をするつもりもない。
「そうですね。他の人が巻き込まれるのは避けたいですね。それに、何があってもアーメイ先輩は僕が守るので、傷一つ負わせません」
安心させるように目を見つめながらそう宣言すると、先輩は頬を赤く染めていた。
「っ!あ、ありがとうエイダ君・・・」
「・・・あぁ、良いですね。今のは将来、男性に言われたい台詞の一つです」
うっとりした表情で、僕と先輩のやり取りを見ていた王女がそんなことを言っていた。この王女の頭の中にある恋愛物語は、所構わず発動するらしい。
「で、では、依頼は受けるということで良いのですが、期日や詳しい目的地などの詳細なものはありますか?」
先輩や王女の雰囲気に、自分の言った言葉が恥ずかしくなった僕は、依頼の詳しい内容をお願いした。
「詳しい依頼内容を記載した書類は後日お届けしますが、依頼は2週間後から、期間は最大2ヶ月を想定しています」
「分かりました。それまでに諸々の準備が必要そうですね」
「いえ、必要な物資や馬車の手配などはこちらで行います。それと、案内役と御者として2名の近衛騎士も同行させていただければと思いますが、よろしいでしょうか?」
王女の言葉に、至れり尽くせりの依頼だなと思った。目的地までのルートの確認や物資の準備などは結構な労力が必要だからだ。
それにーーー
(さすがに、先輩と2人っきりだと緊張するし、ちょうど良いか・・・)
そう考えつつ隣のアーメイ先輩を見ると、軽く頷いていたので、近衛騎士の同行を了承する。
「そこまで準備頂けるのなら、こちらにとって否はありません」
「ありがとうございます。近衛騎士は一応、お二人の護衛も兼ねますのでよろしくお願いしますね?」
「分かりました。何から何まで、ありがとうございます」
「では、詳しい書類は後日、同行する騎士に持たせますのでご確認ください。騎士の一人はエイダ様と面識がありますので、仲良くしてあげてください」
笑顔でそう言う王女に、誰が同行するのか気になって聞いてみた。
「えっと、どなたが同行するのですか?」
「エイミー・ハワードさんです」
残念騎士である彼女の名前を聞かされて、僕は若干この依頼について不安を感じてしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます