第47話 ギルド 2
午後ーーー
昼食を摂った後に、僕達はフレック先生の先導でクルニア共和国国立ギルドへと向かっている。ギルドでは登録後に簡単な講習会も開かれるようで、そこそこ時間を要するものらしい。
昼食中に皆とどの様な依頼を受けるかの相談をしていたら、カリンとジーアは主に知力系の依頼を受けるのだという。カリンは元々文官職を目指していると言っていたので、そういった分野の能力があるのだろうし、ジーアに至っては大商会の娘ということで、その道の知識は豊富なのだろうと納得した。
アッシュは武力系の依頼をこなすと言うことで、低ランク魔獣の討伐だったりを考えているのだと言っていた。僕はと言えば、体を動かした方が性に合っているので、アッシュ同様に武力系の依頼を受けようと考えた。
ギルドの場所は意外にも学院から程近い場所に位置しており、学院同等の広大な敷地に3階建ての立派な建物と、隣に『買取り所』と表記された小ぶりな建物、更にその後ろには広々とした演習場まで併設されていた。
メインの建物の看板には剣と杖が交差したデザインが表示されており、どこかで見たような意匠だなと思っていると、先生が「これはクルニア共和国の国旗で、国の組織であることを表しているんだ」と教えてくれた。
(あっ!そう言えば、エイミーさんと最初に会った時に彼女が身に付けていたコートにこの刻印があったな!)
そんな事を思い出しながらギルドの扉を開けると、広々としたロビーが目に入ってきた。時間帯のせいなのか、中は閑散としている。正面には受付の窓口が多数並んでいるが、今はその内の2つに職員らしき人が座っているだけだ。
入り口右側には大きな掲示板があり、幾枚の紙が貼られていたが、どうやらこれが依頼のようだ。左側にはたくさんの椅子が並んでいて、普通の木目調の椅子と緑色をした椅子があった。
掲示板に近寄って良く見ると、掲示板は二つに分かれていて、右に武力系の依頼、左に知力系の依頼があるようだった。
「よく来た、クルニア学院の生徒達よ!ワシはクルニア共和国国立ギルド・フォルク支部長、ダグラス・リフコスだ。よろしくな!」
受け付け横にある扉から、長身の偉丈夫が現れた。見た目60歳前後だろうか、白髪の混じった焦げ茶色の短髪に鋭い眼光をしている。
「これはこれは、リフコス様自ら挨拶いただけるとはありがたい。娘さんにはいつもお世話になっています」
「ワシとしては不肖の娘が迷惑を掛けていないか、心配なんだがな」
「何を仰います!聖魔術の使い手は貴重な人材です。迷惑どころか、みな感謝していますよ」
「そうであれば良いが・・・あれも未だ独り身だからな・・・」
「そ、それは、まぁ、そうですね・・・」
支部長と名乗ったリフコスさんは、先生と握手をしながら世間話のようなやり取りをしていた。その中で、支部長さんの娘さんが学院にいるようなのだが、話から聖魔術の使い手のようだ。そんな人物が居たか記憶を探るが、誰も思い浮かばなかった。
「ねぇアッシュ?支部長さんの娘さんが学院に居るらしいんだけど、知ってる?」
世間話が続いているのでアッシュに小声で聞いてみた。するとアッシュは驚いた表情をしながら口を開いた。
「何言ってんだよエイダ?あの人はメアリーちゃんのお父さんだよ!」
「えっ!?あのメアリーちゃんの?」
「そうだよ!お前たまに保健室行ってるのに、気づかなかったのか?」
そう言われて、メアリーちゃんと同じような髪色をしていることを思い出すと同時に、彼女の家名も思い出した。
(あの人、名前にちゃん付けで呼ばせるから、家名なんて忘れてたよ・・・)
そんなことを話していると、先生達の世間話も終わったのか僕達は2階にある会議室へと通された。2人掛けの長机が6つ置かれた部屋で、適当な場所に座らされると、壇上に先程の支部長が立った。
「先ずは改めて君達に自己紹介をしておこう。ワシはこのギルド・フォルク支部長、ダグラス・リフコスだ。君達には1年生寮母の父親と言った方が早いかもしれんな!」
豪快な笑顔を向けながら自己紹介を行うリフコスさんは、僕達にとってみればその方が親近感が湧くだろうと判断したのか、メアリーちゃんのお父さんだと言ってきた。
「君達は複合クラスの生徒だと聞いている。ならば無理をせず、自分の実力にあった依頼を選ぶことを肝に銘じて欲しい!ワシとしても、未来ある若者の芽が摘み取られるところは見たくないからな!」
そう言う支部長さんの言葉からは、僕達をノアと見下すような雰囲気が感じ取れなかった。
「学院の生徒だからと君達を優遇することは出来んが、それでも困った事があれば力になれるかもしれん。遠慮なく相談すると良い!」
一通り支部長さんの話が終わると、彼はおもむろに懐からベルを取り出し鳴らすと、すぐに扉がノックされた。
『コンコン!』
「入れ!」
「失礼します。お呼びでしょうか?」
入ってきたのは30代位だろうか、茶色の長い髪を靡かせた眼鏡を掛けている女性だった。
「うむ。学生の諸君、申し訳ないがワシはこれでも忙しい身でね。以降の説明は彼女が行う。では、頼んだぞミリアス!」
「畏まりました、支部長」
挨拶だけ済ました支部長さんは忙しかったのか、呼びつけた彼女と入れ替わるようにこの部屋を後にした。
ミリアスと呼ばれた女性は先程まで支部長さんがいた壇上に上がると、眼鏡の位置を直しながら僕達を見据えてきた。眼鏡があるせいか、何となくその視線には
「では、私からこのギルドについての説明を致します。不明な点があれば質問いただくか、後程、受付にて確認していただいて結構です」
そう前置きして彼女はギルドの仕組みについて細かい説明を始めた。その見た目もあって、細かい性格なのだろうと言うことが想像できるし、支部長さんと違ってその口調からは、僕らに対する侮蔑のようなものが感じ取れた。
まず、ギルドの営業時間は朝の7時から夕方の17時まで。多くの依頼受注者は、朝一で受付を済ませようとするため、7時から8時の時間帯が最も混雑しているのだと言う。
依頼には常駐依頼と都度依頼があり、薬草等の素材の採取は常に募集されているので、他の依頼と合わせて達成するのが基本だと言う。ちなみに、常駐依頼は受注する必要はない。
都度依頼は、依頼人からの発注があったときに募集されるもので、その難易度に応じてギルドでランク付けを行っている。報酬は依頼によって様々だが、都度依頼を受注して失敗した場合は罰金があるので注意するようにと厳しめな口調で言われた。
ギルドランクについては、登録時は必ずFランクからスタートし、その後は功績に応じて昇格してく。Bランク以上が一般に一人前と認められているラインで、Bランクに上がる際にはギルドの認定試験を別で受ける必要があるのだと言う。これは、武力系でも知力系でも同様との事だ。
そこで僕は疑問があったので、挙手をして質問をした。
「ギルドランク上昇の細かな規定については教えていただけないのですか?」
「はい。内規については一般に公表しておりません。その方の達成率や依頼遂行の効率などを総合的に判断してお声を掛けさせてもらっております」
「・・・なるほど。では、受注のランクについてなのですが、仮に遭遇戦のような状況で高ランクの魔獣を討伐して、それが自分の受注出来ない依頼だった場合は、どの様な扱いになるのですか?」
「その場合は、素材の買い取りのみさせていただきます。価格も通常の3分の1としております」
「えっ?そんなに少なくなるんですか?」
驚きの声をあげる僕に、続く彼女の説明で納得した。
「これは過去に高ランクの者の後を付けた低ランクの者が、討伐した魔獣を盗み、素材の売却をする事件が多発したことがありましたので、こういった処置になっています。ちなみに、あまりにその方の実力とかけ離れた魔獣を討伐された場合は、ギルドとして調査致します」
つまり、魔獣を複数討伐して解体するために置いておいた魔獣を盗み、お金に変えていたと言うことだろう。これなら気配を消すことに長けた人物であれば、さした実力が無くてもお金を稼げそうだ。
「なるほど。ありがとうございます」
「では、話を続けます。依頼の達成報告ですがーーー」
曰く、収集や納入の依頼は当然、現物の確認でもって依頼達成と見なしている。素材の持ち込みはこの建物の隣にある『買取り所』に納品となる。
討伐に関しては、魔獣の魔石の提出が必須となる。しかし、Eランク以下の魔獣は魔石がないので、魔獣に応じた討伐証明部位の提出が必要とのことだ。
また、知力系の依頼に関しては、依頼主からの依頼書への完了の署名でもって達成とするとの事だ。しかも、知力系の低ランクの依頼は数が限られているので、受注したければ早めにギルドに来ることを推奨された。
そして、一番僕の聞きたかった報酬についてだが、僕達は学院生と言うことで特例登録になっている。そのため、報酬の2割は学院へ入ることになってしまうのだと言う。
驚く僕にフレック先生は、「学院へ入ってくる報酬の金額も、生徒の評価対象なんだよ」と苦笑いしていた。
(Fランクの依頼だと平均500コルの報酬だから、100コルが学院に入って、手取り400コルか・・・)
ぼんやりと皮算用をしていると、採取系の依頼ではポーターと呼ばれる荷物運びを雇うのが一般的だと言われた。しかし、それはFランクの常駐依頼のため、雇うのにもお金が必要だ。
また、大森林への馬車もタダではない。片道200コル掛かるので、もしポーターを1人雇って往復を馬車で移動すると、ポーターの馬車代も合わさって、経費だけで1300コルになる。つまり、それ以上の報酬が見込める依頼を受けなければ、大赤字と言うわけだ。
そのため駆け出しの人は、ポーターの依頼を受けたり、薬草の採取など、人の手を借りなくても達成可能な依頼を受注していくようだ。
もしくは、実力のある者とチームを組んで、討伐系の依頼をどんどんこなしてランクを上げていくのが定石らしい。
(なるほど・・・これはアッシュと一緒にチームを組んだ方が良いのか?それとも単独でガンガンこなした方が良いのかな?)
後で相談しようと考えていると、説明が終わったようだった。特に皆からも質問は出ずに最後の話へと移っていった。
「では最後に、皆さんの個人証にギルドランクの登録を行いますので、闘氣もしくは魔力を流した状態の個人証を提出してください」
そう言われて、みんな机の上に情報が表示された状態の個人証を置くと、ミリアスさんが回収していった。
「それでは登録して参りますので、少々お待ちください」
そう言い残し、彼女は部屋を後にした。そして、隣に座るアッシュに僕がチームを組むべきか確認したのだが、「お前に寄生するみたいになっちまうから、それはダメだ」と真剣な表情で言われてしまった。
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