第68話 重要会議
息抜きを兼ねたライナとのデートから数週間後──。
「で、では、話を始めるわねっ」
私達はマリスネスへと戻る。そしてそこの会議室。
誰一人無駄口をたたかない重々しい空気が立ち込めている。
会議室にはマリスネスに住んでいる亜人達の代表が全員集められ、全員が真剣な表情で腕を組んだり資料を呼んだりしている。
そんな重々しいが立ち込めていた。会議室で、本来なら国王が座っている席の隣。
ここでは最も上座に位置する席に、一人の人物がいた。
「じゃあ、緊急会議を始めるわ……ねっ」
ぎこちない口調だけど、センドラーだ。契約として、この国と協定を結んだ。そして、それを何とかするため、臨時で参謀役を務めることとなったのだ。
この国でも私の名は知れ渡っているせいか、みんな渋々納得してくれた。
私の代わりに体に入り、オホンと咳をすると、話を始めた。
「題名はもちろん。バルティカの実質的な領地占領。それに対する対策法を説明する──わ」
この策自体も、あえて国王ペタンをこの場に呼ばなかったのも、彼女の案だ。
私もそれ自体は気になった。
(ちょっと、防衛策? 気になるんだけど)
(私に策があるの。ここは、あんたみたいに単純に行っても駄目だから、からめ手を使う必要がある。あなたみたいにイノシシではないちょっとした策よ)
私みたいにイノシシではない、ねぇ……。
ちょっとピキッと来たけど、今のマリスネスの鉱山が占領されている状況。私に何とかしろと振られても無理だ。
彼ら亜人からは、鉱山がなくなったせいで税収が落ち込み、このままでは福祉や兵士の給料などが捻出できなくなり、国の運営に支障が出ると言われたくらいだ。
「それを、このセンドラーが直々に説明するわ。よ、よろしくね」
怪しまれないように私に口調を似せようとしているのがよく理解できる。
ぎこちなく、かみ砕いたような物言いと作り笑い。
なんていうか日ごろの彼女の性格を知っている私からすると、どこかシュールに見えてクスリと笑ってしまう。
(あんた、後で覚えておきなさいねぇ)
あ……ごめんなさい。
(もう、あんたの口調に合わせるの、疲れた。やっぱり、言いたいように言わせてもらうわぁ)
(その方が、かえって自然だと思う)
そして策の内容を説明しだす。
「この作戦。ウェイガン、だけじゃなくて、みんなに協力してもらうことになる。そこをしっかり踏まえて、他人事だと思わないようにね」
センドラーは周囲に視線を配りながら言い放つ。ウェイガンは、気まずそうな表情をしていた。
あの騒動の後、ウェイガン達は、結局見捨てなかった。
難民となっていた彼らをどの様な理由であれ、「見捨てる」というのは対外的にもよくないし、どんな人でも受け入れるというマリスネスの体裁的にも良くないとのことだ。
当然、気まずい雰囲気。
みんなシーンとしていて、互いにきょろきょろと視線を見つめあっている。
そして、彼らの座っている席。上座に位置する机の奥の部分に、彼女は座っていた。
「時間ね──」
センドラーだ。私は、彼女の後ろで半透明な姿で腕を組んで伝っている。
センドラーはオホンと一つ席をして、話を始めた。
「さあ皆さん、これからのことについて、私から離すわ」
机に両肘を置き、指を組んでそこにあごを乗せている。
真剣なまなざしで彼らに視線を配っている彼女を、亜人の要人たちが視線を向ける。
国王であるペタンは、何故かここにはいない。それもあるのだろう。
「まず悔しいけれど、今、マリスネスに実効支配されてしまった鉱山やオオカミ族のガルフたち。彼らに対する対策よ」
その言葉に亜人達も私も、体をピクリと動かす。
センドラーは、それを気にせず、バンと両手で机を叩いて、言い放つ。
「簡単に対策を言います。彼らの領地に行って、マルスネスの奴らの兵士の犯罪を検挙するの。それで、彼らの横暴性を全国にアピールするわ。そして、現地人の保護を理由にマリスネスの奴らを追いだす。それだけ」
予想もしなかった言葉にこの場が静まり返る。
それから、周囲はひそひそと会話をしだしたかと思うと、二人ほどセンドラーに反論してきた。
「犯罪って、簡単に見つかるものですか?」
「そうだ。そりゃ都合よく捕まえればかっこいいかもしれないけどよぉ。なにもなかったら完全に無駄骨だぜ。時間と遠征費だってただじゃねぇんだ」
犬耳と、獣人の亜人がけげんな表情で言葉を返して来た。当然だ、
犯罪なんて、絶対に見つかるなんて保証はない。
もしなにもなかったら、貴重な時間を無駄にしてしまうことになる。
しかし、センドラーは表情を崩さない。
「大丈夫よ。情報は掴んでるから。それに、他国に派遣する奴らの質なんて、簡単に予想出来るわ」
「本当か?」
獣人の言葉に、自信満々にセンドラーは答える。
「そもそも、信用できるくらい忠誠度が高かったり、実力があるようなやつはあんな辺境で安全かわからない土地に行かせたりしないもの。
国王たちの近くに固まらせて、自分たちの安全を守るように配置させ、忠誠度が低い、特にゴロツキみたいなやつらは自分の周理とは関係がない場所に配置させるのが一般的よ」
「それは、一理あるな」
「マリスネスだって、そこまで裕福な国じゃないことは分かってる。ガラの悪いゴロツキ達に無駄飯食わす余裕なんてない。かといって、放っておけば街で悪さをするし、こいつらにまともに働かせるなんてとてもできない、あなたならどうする?」
そう言ってセンドラーはうさ耳をした亜人の男に指をさす。
重要な家臣の一人、彼は少し考えた後、指を鳴らして答える。
「そうだね、粛清だね!」
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