第66話 これからも、乗り越えていく!

 夜。




 入浴後──。


 机で簡単な書類整理が終わり、ベッドに入ろうとしたときのことだった。


 書類をぱたんと綴じて机の中にしまう。

 その瞬間、ライナが話しかけた。


「センドラー様。こっちです」


「うん、じゃあ寝よう──ってその姿!」


 私はライナの姿に驚愕してしまう。何とそれは今日買ってきた下着姿。


 ピンク色のフリフリが付いたブラと同じくピンクのパンツ。胸を張る形で私に見せつけてきているのだ。


「今日は、私とセンドラー様が、大人になる番ですぅ」


「まって、おかしいでしょ!」


「おかしくないです。さあ……見てください、生まれたままの私を──」


 さらにライナはなんと両手でパンツをスッ──と脱ぎ履いていたそれを下に置く。

 そして背中に手を合わせホックを外すとそのまま手を後ろに置き、はらりとブラジャーがベッドに落ちる。ライナのすべてが丸見えになってしまった。



 隣にいたミットは 体を震わせ、固まってしまっている。


「さあ、生まれたままの私を、おいしくいただいてください!」


 ライナはベッドから降り、手を後ろに置きながら私に迫ってきた。

 ライナの美しい姿、思わず見入ってしまって返す言葉に困ってしまう。



 そして──。




(このバカ!)


 センドラーが血相を変えて私を突き飛ばす様にして中に入る。



 突き飛ばされた私はおでこを地面に直撃させ、そのまま倒れこむ。

 すぐに起き上がり、二人の間に入る。


 まずセンドラーの姿を確認。

 うっ……。



 今までにないくらいの表情でギロリとライナをにらみつけている。

 その姿に、背筋が凍ってしまった。


「そっちの、センドラー様」


「わかってるじゃなぁい。いい、今度この体に手を出そうとしたら、ただじゃおかないわぁ」


 ライナも、さっきとは打って変わり、体をガクガク震わせている。

 恐怖に怯えているのが私にもわかる。


「わかった?」


「は、はい……」


 ライナは肩をすくみ上がらせ言葉を返した。


(あんたも、秋乃)


(私も?)


(ライナの裸を見た時、まんざらでもないて思ったでしょ)


 ズキッ! 鋭い……。


(だって、かわいいんだもん……)


(もし変な事したら、二人ともただじゃすまないからね。あんたも気を付けなさい)


(はい……)


 しょんぼりしてしまう。

 その後、再び人格を交代。


 そして就寝。怯えていたミットとライナ。三人で一緒の布団、ぎゅっと抱き合いながら寝る。


 ふと星空を見ながら、私は思った。

 なんて言うか、やっぱりライナはライナだ……。


 いつもは頼れる部下だけど、こういう時は友達気分で過ごせる。

 最近気が滅入ることばかりだったけど、今日一日、心から楽しめた。



 これからも、(貞操に気を付けて)一緒に過ごしていこう。


 そして、眠りに入ろうとしたとき──。


 トントン。


「ミット、起きてたの?」


 私の左隣でミットが肩をたたいてきた。

 しがみつくように私の腕をぎゅっとつかむ。


「久しぶりに一緒になれて、嬉しいニャ」


「ああ。私、ミットとあまりいれなかったもんね」


 確かにそうだ。最近、バルティカのことにかかりっきりでミットとあまり接せていない。


 じっと私に目を向ける。目を大きく開け、何かを訴えかけているような視線だ。

 私は、微笑みを作り、言葉を返した。


「ごめんね。このことが終わったら、一緒に遊んだりしよう」


「ありがとうニャ」


 ──もうちょっと、かまってあげた方が良かったね。

 そして、私はミットの方を向く。彼女の頭をぎゅっと抱きしめ、優しく髪を撫でながら、色々話しかけてみる。


 どんな事をやっているかとか、勉強内容とか。


 私が王宮にいなかった間、ミットは言葉の勉強をしたり、ライナについていろいろな雑務をしていたらしい。


 おかげで日常会話レベルの読み書きは出来るようになったとか。


「センドラー様」


「ん?」


「ありがとうニャ」


 ミットがわずかにほほ笑む。

 いきなり、どうしちゃったのかな?


「なにが?」


「あの時、センドラー様が私を叱ってくれて、こうして一緒にいてくれたから私はここに入れるんだニャ。センドラー様のおかげだニャ」


「確かに、そうだね。けど、一つ違うことがあるかな」


 私の言葉に、ミットは驚いたのか大きく目を見開く。


「なにニャ?」


「確かにそれもあるけど、強く叱られても、私についていくことを選んだ、変わりたいって思えたミットのおかげでもあるよ」


 ミットと初めて出会った時、ミットはどこか自暴自棄になっていた。そこでセンドラーはカッと熱くなり、「そんなんじゃまともな将来にならない」ときつく言ってしまった。


 私は慌ててフォローしたが、ミットは感情的になっていて、私の言葉にも耳を貸さなくなる可能性だってあった。


 けれど、ミットは自分を見つめ直し、間違った道に行こうとしていることに気付いて踏みとどまった。


 だからミットの今がある。


「だから、もうちょっと自信をもっていいよ」


 そう言いながらミットの頭をポンポンとさする。

 ミットはほんのりと顔を赤くし、私を見ながら言葉を返した。


「あ、ありがとうだニャ……」


 それから、私はぎゅっとミットを抱きしめ続けた。今までできなかった分を、取り返すように。

 そしてミットはいつの間にか夢の中に入っていた。


 私も、一度夜空に目を向けてから、そっと目を閉じる。



 これから先、いろいろ大変な事があるけれど、みんな乗り越えていこう。

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